うさぎのたまごをもらった親分の話6

「…と~にょぉ…めぇ~~」


うさりす…もといアーサーは普通よりも成長が早いようで、孵化して2日後には片言を話している。

…が、意味は今ひとつわかってないと、スペインは思う。


メッというのは、スペインがアーサーをたしなめる時に使った言葉だが、アーサーは自分が嫌な時にそれを使うのだと認識したらしい。


ぽよぽよと太い眉を寄せてしかめつらしくそう言って訴えているのは、風呂が嫌だと言うこと。

アーサーはウサギらしく水を怖がるので、一昨日、昨日は水で濡らして絞ったタオルで体を拭いてやったが、いい加減風呂に入れたい。


とにかく甘えん坊で寂しがりやなアーサーはいつもいつも抱っこをされるのは好きだったが、今日、スペインが服を脱いでアーサーのおむつも取って、バスタブに湯を張ってあるバスルームに連れ込んだら、嫌がって足をバタバタさせながら、メッ、メッと繰り返している。


ちなみに…まだ舌が回らないアーサーがスペインもアントーニョも言えなかったため、スペインの事はかろうじて言えたトーニョという人名の愛称の方で呼ばせている。


「め~じゃないで~。アーサーの方がメッやで?
耳とか尻尾はウサギ…かもしれへんけど、体の方は人間みたいやし、いい加減風呂に入らなあかん。
親分一緒やから怖ないから」


耳はタオルに包んで上に上げてやり、さらにネットで読んだように体をタオルに包んで湯にゆっくり入れてやる。

人間の赤ん坊でもそうやって何かが体に触れていると安心すると育児書に書いてあったのだ。


スペインがアーサーをタオルに包んだ状態で、頭が自分の心臓のあたりにくるように胸元に引き寄せつつ、しっかり抱きしめてやると、硬直していた体から少し緊張がほぐれて力が抜けていく。


ゆっくりと手で湯をかけてやると、ほわぁ~と漏れるため息。

気持ちよさそうに目を軽く閉じるアーサーの様子には、さきほどまでの嫌悪感は全くなかった。



「ほ~ら、アーサー、気持ちええやん」

クスリと笑うと、いつもならぷく~っと膨れるところなのだが、よほど気持ちいいのだろう。

苦しゅうないと言ったドヤ顔で寛いでいる。

そこで、スペインはいまのうちに…と、アーサーを片手で支えなおして、片手でボディーシャンプーを器用に出してアーサーの体を洗ってやった。


ボディーシャンプーで泡だらけにされても、手でお湯をかけられてもアーサーはご機嫌で、丸くした指でシャンプーの泡をふ~っと吹いて簡易シャボン玉を作ってやれば、嬉しそうにパタパタと湯をたたいて喜ぶ。


きゅぃきゅぃと鳴きながらご機嫌で揺れているアーサーは可愛い。


風呂からあがって綺麗に拭いてやると、まだ乾き切らない頭と耳としっぽをドライヤーで乾かしてやろうかとも思ったが、スペインが自分の髪を乾かすのにドライヤーをつけると、その音にビビったのか逃げかけて、しかし離れるのがいやだったのか、なるべく体を離しつつ、片足だけ後ろ向きにピタッとスペインにくっつけてフルフル震えている可愛らしくもおかしい様子を見て諦めて、自然乾燥に任せることにした。


こうして風呂からあがるとアーサーには小さなおもちゃのカップにジュースを入れてやって、アーサーがテーブルの上でペタンと座ってそれを飲んでいる目の前で食事の準備を始める。


アーサーの成長は片言を話すだけではない。

食べるほうもしっかりミルクを卒業して、今はスペインの皿の中から食べられそうな柔らかそうなものを自分でねだる。

ねだったものは口に放り込んでやるとたいてい食べるので、自分で食べられる物をわかっているのだろう。


スペインが料理の皿を運んでくると、アーサーの目が期待にきらきら光る。

ウサギだからと言って別に生野菜オンリーというわけではなく、小麦粉系のものは口にするが、肉と魚は食べないようだ。


ああ、しかし卵は除く。

正確には、卵が使ってあるデザートは除くというやつか。


大きさは子猫くらいなのでスプーンが大きすぎて使えないアーサーの口に小さめのティースプーンにほんの少しずつプリンを乗せて口に運んでやると、ちっちゃな口を目いっぱい大きくあけて待ち構えているのが、本当に可愛い。



子供を持つ親というのはこんな気持ちなのだろうか…。

この子のためなら何でも出来る。

自分の身を削って自分の身を差し出しても守ってやりたい…。

ここまで一方的にして圧倒的な庇護欲というのは子分たちにすら感じたことがなかった。


おなかいっぱい満ち足りて満足げにしているアーサーを見ていると、なんだか愛おしさに泣きたい気分になってくる。


「おいで。歯磨いてネンネしような~。」

と、さすがに小さな口に歯ブラシは大きすぎるので、綺麗な布で丁寧に歯の汚れをふき取ってやってうがいをさせて、大してみかけは変わらないものの、寝巻にと思ってガーゼで作った簡単な服にアーサーを着替えさせてやると、自分も着替える。



さすがに添い寝などしたら潰してしまいそうな大きさなので、自分の枕元にタオルを何枚も敷いて一段高いベッドを作ってやり、そこでタオルで作った布団をかけてやって寝かせるのだが、アーサーは本当に寂しがりやで、布団をかけると片手だけ必ず布団から出して、スペインの顔のどこかにピタっと触れながら寝るのだ。



そんな無条件に甘えて依存してくるところも本当に愛おしい。

まだ一緒に過ごしてたった3日だというのに、もうずっと育てているわが子のようだ。



ベッドに入ってスペインの顔をぺたぺた触ったり、時には少し寄ってきてスペインの頬に黄色の頭を擦り付けたりと、アーサーの寝る前の習慣のような行動が一通り終わると、スペインは指先でアーサーの長い耳をなでつけながら、子守唄を歌ってやる。



まあ…それはアーサーを少し楽しい気分にさせてしまうらしく、アーサーも一緒になってきゅぃきゅぃ歌ってしまうので、はたしてそれが子守唄の役割を果たしているのかは意見の分かれそうなところではあるが、最終的には機嫌よく眠ってくれるのでよしとしよう。



――おやすみ、アーサー。明日もいっぱい楽しく過ごそうな。



すやすやと安心しきって眠っている子どもを起こさないようにそ~っと指先で丸く小さな頭を撫でながら、スペインはそう言ってほほ笑むと、自分も目をつむって夢の中に旅立っていった。





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