うさぎのたまごをもらった親分の話5

チビっ?!チビちゃん、大丈夫かっ?!!

手の中でクタっとしている小さな体を揺すって、ふくっとしたほっぺたをツンツンとつついてみるが、……きゅぅ………と弱々しく一声鳴いたきり、反応がない。
  
それどころか暖かかった体が急激に熱を失ってきた気がして、スペインは動揺した。


「ちょ、どないしたん?なぁ、返事しっ!!」

慌ててベッドの上に戻って腰をかけると、冷えた体をブランケットに包んで、少しでも熱が戻るようにさすってやり、そこで初めて後悔した。



ひどいことをした…と思う。


だってまだ生まれたてだったのだ。

動物は初めて目にしたモノを親と思うと言うし、この子は卵をやぶって初めて目にしたスペインの事を親だと認識したかもしれないのだ。


慣れない世界でどうしていいかもわからなくて寒くて怖くて泣いて泣いて泣いて、ようやく親が起きてくれた、これで安心だと思ったら、いきなりその自分を守ってくれるはずの親が怒って自分を置いていこうとしたのだ。


どれだけ悲しく怖い思いをしたことだろう…。


「堪忍…堪忍な、チビちゃん。
眉毛太いのは自分のせいやないやんな。
そのくらいで怒って置いて行こうとして、ひどい親分やんな。
ほんま堪忍。目ぇ開けたって」


……ぽつり…

と、スペインの目から零れ落ちた涙が小さな頬に落ちた時、また

――きゅぃ…?

と小さな鳴き声と共に、白いまぶたがゆっくり開いて、大きなグリーンの目がぼ~っとスペインを見上げた。


「チビちゃん、良かった。大丈夫か?!」

と、声をかけると、小さな生き物はもう一度

――きゅぃ…

と小さく鳴いて、もぞもぞと小さな手をブランケットから出すと、頬をつついていたスペインの人差し指をハシッと掴んで、おもむろにちゅぅちゅぅ吸いだした。


…うっあぁぁあ~~~!!!!

スペインの中から何かが溢れ出してくる。

主に庇護欲とか保護本能とかそう言ったたぐいの物が……


「腹…減ってるんやね」

もう別に深い意味もなく、ただそれだけの行動なんだろうが、ちっちゃい子のこういう行動の可愛らしさは反則だ。


「指より美味しいもんやるから待っとき。」

と、そっと指をひっこめると、スペインは生き物をベッドにおろし、キッチンへ向かおうとするが、とたんにまた生き物はきゅいきゅい言いながら追いかけてくる。


…あかん…またさっきの繰り返しや…。


このままではまた落ちる…と、スペインは仕方なしに申し訳程度におむつだけ履いている小さな体にハンカチの真ん中に穴を開けたもので簡易的な服を作って着せると、一緒にキッチンに連れて行って、少しだけ温めた牛乳をスプーンで飲ませてやった。


きゅぃっきゅぃっと嬉しそうに美味しそうに飲む様はすごく可愛らしく心がほっこり温かくなる。


クフ~と小さなお腹をぽんぽんにしながら満足気に息をつくウサギ風味な赤ん坊。

その頭を二本の指先で撫でながら、さて、この子をなんと呼ぼうか…と、スペインはもうすっかり自分が飼うつもりで考えこむ。


考えこんで黙っていたのが不安だったのだろうか…

赤ん坊がてちてちと寄ってきて、きゅぅ?と心細げにスペインを見上げてきた。

大きな丸い目…と、やっぱり立派過ぎる眉毛が目に止まる。

もうそれで遠ざけようと言う気は起きないが、目に入ってしまうといえば入ってしまうので、スペインはそれを指先でつんつんとつつくと、

「しゃあないな。アーサーでええか。自分は今日からアーサーやで?」

と、少し身をかがめて顔を覗きこんで言った。

この眉毛を見るたびやっぱりあの国を思い出してしまうが、まあ…さすがに似ているからといってイギリスと呼ぶわけにも行かないので、妥当なところだろう。



「ええな?アーサー?」

ともう一度そう言うと、赤ん坊…アーサーはおそらくスペインが自分に名前をつけたということを理解したのだろう。

きゅぅっと嬉しそうに笑って長いウサ耳をパタパタすると、ちっちゃな手をパチパチと叩いた。



「なんでそこで拍手やねん。」

と、その反応にスペインが思わず吹き出すと、アーサーは今度は白い足までパタパタとしながらさらに拍手する。

嬉しそうで楽しそうなその様子に、スペインも自然に笑顔になった。



抱っこ、抱っことねだるように両手を上げてくるので抱き上げて顔の近くにまで持ってきてやると、きゅぅきゅぅ笑いながら小さな手で顔をペチペチ叩く。



さらに顔を近づけると、アーサーはスペインの鼻先をあむあむし始めた。



「アイタタ、アーサー、親分食べられへんで~」

歯の生えてない口で甘噛みされたところでくすぐったいばかりなのだが、そう言って笑うと、今度は噛むのをやめて、ちゅ~っと口付ける。



ああ…可愛い。

もし自分がちゃんと家庭を持てる人間で、結婚して子どもでもいたらこんな感じなのだろうか…。



顔が近づいたせいかミルクの甘い匂いがする。

ふわふわのほっぺに頬ずりをすると、くふふっと可愛らしい小さな両手を口に当てて、嬉しくて嬉しくてたまらないといった風に笑うのが愛おしい。


まるですっぽりと空いてしまった心の穴を埋めるようにスポンとスペインの心に入り込んできた小さな小さなウサギのようなイギリスのような不思議な生き物――うさりす……



こうしてスペイン親分とうさりすの二週間が始まったのだった。



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