――…きゅぃ……
タフタフと柔らかい物が頬に触れる。
柔らかさと温かさが心地いいが、少しくすぐったい。
――くすぐったいわぁ…。
とスペインがくすりと笑うと、また
――きゅぃ、きゅぃ…
と、高く可愛らしい鳴き声がする。
ぼ~っとした頭でそんなことを思い、ハッとした。
そうだっ!卵っ!!
パチッと開いた視界の先には、くるりとまんまるいメロンキャンディのようなグリーンアイ。
ぱちぱちとまばたきすると、くるんとカールした長い金色の睫毛が揺れ、何故だか泣いていたためそこについたらしい水晶のような透明の雫がパタパタと零れ飛ぶ。
真っ白な肌、ふっくらとしたバラ色の頬のとてもとても可愛らしい小さな生き物は、スペインが眼を覚ましたのに気づいて、涙で濡れた顔いっぱいに笑みを浮かべた。
落ち着いた金色の丸みのある頭には何故か同色の色の長い垂れ耳がついていて、生き物が嬉しそうに笑うとそれに反応するようにパタパタと跳ねる。
大きさは両の手のひらに乗るくらいと小さいが、見た目は赤ん坊にロップイヤーのうさぎのように長い耳が垂れ下がっており、卵から孵ったばかりのくせに何故か履いているおむつの後ろの部分には穴があいていて、そこからはふんわりとしたまるい尻尾が覗いているのが、ありえないくらい愛くるしい。
そこだけがふんわりと春の日差しのようにキラキラと光って見えるくらい柔らかく温かい空間。
寝ぼけ眼のスペインはあまりの可愛らしさに思わず手を伸ばしかけて、そしてハッと気づいた。
その人形のように可愛らしい顔に不似合いな太い眉に……。
それに気づいてしまうと、あとは一気に覚醒する。
寝ぼけ眼だったのと、まだ赤ん坊であどけない様子で無邪気に笑っていたのもあって流されかけたが、この謎生物、イギリスにそっくりだ。
急に笑みを消したスペインに、謎生物は、
――きゅぃ?
と、小首をかしげる。
あ…あざと可愛えぇ……!!!
思えばこのあざと可愛さに、はるか昔騙されてひどい目にあったのだ。
「…親分……もう騙されへんでっ!」
ぷいっと理性を総動員して生き物から目を反らせると、スペインは起き上がってベッドから抜けだした。
そのままリビングにでも退散しようとしたものの、きゅぃ、きゅぃっと後ろで悲しそうに鳴く声に思わずチラリと一瞬振り向くと、赤ん坊は小さなもみじの手を一生懸命スペインの方へと伸ばしながら、生まれたてでまだおぼつかない足取りでぽてぽてと追いかけてくる。
おおきな丸い目からポロポロと涙のつぶを零しながら必死においかけてくる様子は可愛らしくも痛々しくて思わず足が止まってしまった。
そうして硬直したまま凝視していると、ベッドの端まで来ている事にきづかないのか、ぽてっと小さな足が空を踏んだ瞬間バランスを崩して、そのまま小さな体には高すぎる距離を落下する。
「うあああぁぁ~~!!!!」
それはもう条件反射だ。
スペインは悲鳴を上げて、その落下していく小さな体にあわてて手を伸ばした。
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