「ああっ!もう、しつこいなっ!
おっさんがキャンキャンうるさくまとわりついても、うっとおしいだけなんだぞっ!
まだそのあたりの犬猫なら絡んできても可愛いのにっ!!
君のそういうところが大嫌いさっ!!ホント、犬猫以下だよっ!」
ついさっきまでいた髭が置いていった大量の新鮮な卵。
それを使って作った菓子の数々。
最初は和やかにミルクティと共にそれを食べながらの団欒だったはずなのだが、
「今日はずいぶん食物兵器の種類が多いんだね。」
と、いつものように笑って憎まれ口を叩くアメリカに
「髭がさっきまで来てて、卵を大量に置いていったからな。それで作ったんだ。
そもそも食物兵器じゃねえっ!お前がいつも大量に食べてるジャンクフードの方が最終的に大量の贅肉をつけさせる食物兵器だろうがっ!もっと食生活を考えて……」
と言ったあたりで、一気にアメリカの機嫌が降下して、冒頭のセリフと共に
「不愉快だっ!もう帰るよっ!」
と、立ち上がって止める間もなく出て行ってしまった。
「…あ……」
と伸ばした手はそのまま下げられる。
確かに自分だって贅肉とか言って悪かったかもしれないが、そもそもがアメリカが先に人の料理を食物兵器とか言ったわけで……でも……。
イギリスはため息をついて立ち上がった。
そして茶菓子を焼いたり掃除をしてセッティングをしたりと準備に数時間かけて数十分しか持たなかったティータイムの名残を片付け始める。
今日のために選んだお気に入りのティーセットを丁寧に洗っている間に涙が出てきた。
せっかく…機嫌よく話してたのにな……。
昔は美味しいって言ってくれてたのに、最近はやっぱり口に合わなくなって、でも国同士の外交上仕方無く昔のように食べてくれてるんだろうか……。
隣国にも食材への冒涜って言われるしな……
ひどく悲しくひどく寂しい気分になる。
悲しさ寂しさで消えてしまえればいいのに…と思っても自分は国なので感情どころか年月でですら消える事などほぼできやしない。
ポツリ…ポツリ…と涙をこぼしながら、イギリスは呟いた。
――ウサギになりたい…
と。
寂しさで死んでしまえるウサギになって死んでしまいたい…。
そんな風に思っていると、イギリスの周りに優しい友人達がふわふわ飛んでくる。
――泣かないで、泣かないで、愛しい子。
――そんなになりたいならならせてあげるわ。
――嬉しい?嬉しい?
とキャラキャラと言う彼女達はキラキラと光る粉をイギリスに降りかける。
「ちょっ……」
待ってくれ…と言う間もなく……そこでイギリスの意識は暗転した。
そして…キッチンのテーブルの上には大きな卵がコロンと1つ。
――ついでにカードもつけておきましょう?
と、キャラキャラと可愛らしいイタズラ好きのお嬢さん達はイギリスの書斎から仲良しの島国や新大陸のもう一人の優しい育て子に贈り物をする時などに使っている可愛らしいウサギ模様のカードを一枚持ってきて、それにサラサラと金色の粉でメッセージを綴った。
【可愛いウサギの卵です。愛情をいっぱい注いでくれれば孵ります。2週間で帰るのでそれまで目一杯可愛がって育てて上げて下さい。】
――忘れん坊の隣の子が他に送る卵まで置いていってしまったから…次に来るのはきっと彼ね。
――ええ、あの子ならイギリスに美味しいものをいっぱい食べさせて元気にしてくれる。
――いつもなら甘えられなくても、ウサギの姿なら甘えられる。
――新大陸の育て子のために2週間お休みとってたから…2週間で消えてここに戻るようにしましょう…。
――そうね、そうすればあの子も夢だって言い張れるし、気まずくないわよね。
ガラスの鈴がチリンチリンと震えるような声でそんな相談をしている妖精達は、やがて鳴るドアベルの音にドアの鍵を開けて呆然とした。
――え?ええっ??なんでこの子戻ってきたの?
――待ってっ!!それ持って行っちゃだめっ!!
何故か戻ってきた超大国。
誰もいない家に、不用心だなと、口を尖らせながらかつて知ったるとばかりにキッチンへ。
そこで見つけた大きな卵を
「ああ、フランスが言ってたのはこれかな。ずいぶん大きな卵なんだぞ。」
と、ひょいっと抱え上げて踵を返す。
彼を覆う鉄の匂いに近づけず、妖精達は青くなって大股に歩き去る彼をオロオロと見送った。
――どうしましょう…
――どうしましょう…
――あの子はどこに連れて行かれちゃうの?
妖精達の囁きは若干苛立ちを含んだ靴音にかき消され、風に飲み込まれていった。
さて…卵の向かう先はどこなのだろうか……
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