ダンデライオン_9章_1

みなさん、こんにちは、ベルギーです。

うっとおしいです。
ほんま、うっとおしいです、この男。

この男て誰て?
そりゃあもちろんうちの親分、スペイン王国さんの事に決まってますやん!


「ベルギ~~!!!」

今日も朝っぱらから大音量でうちの事呼ばはる親分の手にはハルバード。
もう日常になりすぎてて、うちかて言いたい事はわかっとるんですけど、一応とぼけて

「次の戦争でも決まりはったんですか?
でも城内で武器振り回すのは危ないさかいやめて下さい」
と答えると、

「とぼけんといて!わかっとるやろっ?!庭師のフリオ探しとるんやっ」
と、洗濯かごを抱えるうちと並ぶように歩いてうちの顔を覗きこみはる。


「あ~!邪魔ですわっ!」

と思い切り顔をしかめてみせると、最近すっかり立場が逆転していることを勝手に自覚しはった上司はシュンとして、身を乗り出していたのを引いて、大人しく横を歩き始めました。

そこでこのくっそ忙しいのに!と思いつつ、でも城内の平和のためと思いつつうちは聞くことにします。

「で?フリオがどないしはったんです?」

どうやら自分にとって一番重要な問題に関しての立場的強者だと思ってはるうちが話を聞く気になったらしいことに、親分はホッとしたようでした。


「そや、あいつなぁ…!」
と一気にまくしたてはりました。



……………あっほらしい

全てを聞いたとたん、うちもさすがにため息をついて肩を落としました。



「要は…イングランドがフリオに手作りのおくるみ渡してたってことでっしゃろ?」
「…そや」

お・く・る・み、ですやん?」

「…そやで?あの子がこのところ編んどったレースで縁取られためっちゃ綺麗なヤツやった」

「でもおくるみ、ですやん?」
「親分そんなんもらったことないねんで?」

「こんな大男くるむおくるみなんて、うち聞いた事ありませんわ」
「他の男にめっちゃ手の混んだ手作りの贈り物しとったんやで?!」

と、そこでだ~っと滝の涙を落とす男…

これを【遊びでも一晩でも良いから抱かれてみたい男ナンバーワン】とのたまわる女共に見せつけてやりたい。

お姉さま達、ほんまこんな男に抱かれたいん?


うちにはうちの仕事があるし、干場までくると、どっこいしょとカゴを下ろすと、スンスン泣きながら佇む男を放置で洗濯物を干しはじめます。

まあ…手と同時に一応口も動かしながら。



「フリオにはバラの栽培の事でずいぶん相談に乗ってもろうてたみたいやし、今回丁度フリオの奥さんに赤ちゃん生まれたお祝いにお礼がてらちょっと手をかけてみただけやないですか。
あの子、そういうとこ器用やさかい。
うちもスカートの裾飾りとかよく頼んで作ってもらっとるし、特別な事ちゃいますよ」

この城にもうちくらいのお年頃の女の子達はたくさん働いてます。

彼女達のほとんどはオシャレをしたくとも早々何枚もドレスを持てるような身分ではないし、それならと、今城ではスカートの裾にリボンやレースなどで変化をつける事が流行っていて、うちも今絶賛凝り中やったり。

もちろん言うまでもないんやけど、今少したくし上げた裾を止めている刺繍のリボンも、たくし上げた裾から覗く綺麗なレースもイングランドのお手製…。
この流れで行くとそれも親分の焼きもちセンサーに入るのは時間の問題や。

自分がもらってない物を他がもらっているのが嫌だ…

いくらでも高級品を入手できる男のそんな我儘のために、ささやかな乙女の楽しみを取り上げられるのはまっぴらゴメンや。


主にそんな理由と、若干の城内の平和を想う気持ちから、うちはメンドイなぁ…と思いつつ、言うのでした。

「別に親分やったら欲しいモン何でも買えると思うて作らへんだけやと思いますけど、そうまで言うならイングランドに今度親分が羨ましがってた言うときますわ。
そしたら作ってくれるんとちゃいます?」

そんな一言で、おおきにっ!と、さっき泣いたカラスがなんとやらと言った感じの満面の笑顔でハルバードを振り回しながらご機嫌で去っていく親分の後ろ姿を見送って、うちはため息を付きました。



数ヶ月前…我慢しきれず(?)イングランドに手を出してしまいはったあの日から、親分が何かのタガが外れたかのように、まあ、毎日毎日イングランドにベタベタベタベタベタベタするのは当たり前として、イングランドが深い意味もなく気をむけるものに盛大にヤキモチを焼きはる親分のなだめ役という仕事がうちに加わりました。

まあほとんどはうちが聞いても、はあ?なんでそう思いはるんです?と呆れ返るくらいの思い込みやから、それ気にしてたら日常生活送れへんのちゃう?って感じなんやけど、困った事に、たま~にホンマ気ぃ付けたほうがええような事がちらほら混じってる事もあって、でもイングランド自身は自分に対する好意やそういう視線に全くありえんほど鈍感で気づかへんから、親分の言う事を無条件に『気のせいですわ、アホらし』の一言で片付けられへん。

まあイングランドの側にその気はないんやから、放っておけばええんやけど、親分がイライラハラハラ落ち着かへんから、結局なんとかすることになります。


そんな事が日常になりすぎて、この時もなんも考えず、いつものように適当に返事をして、一応不思議そうな顔をするイングランドには城内の平和のため親分になんでもええから作ったってと頼んでおいて、うちの頼みは大抵聞いてくれる可愛え弟分が親分のマントに金糸で刺したった刺繍は、それはそれは見事な国旗をモチーフにしたもので、親分は大満足、めでたしめでたしのはずやったんやけど……そのマントがその後、また面倒くさい事件を引き起こすことになってもうたんでした。




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