その日…アーサーは姉が帰ってくる前に泣き疲れてギルベルトにしっかりとしがみついたまま寝落ちてしまったのだが、ギルベルトは夜中に戻って来たフランソワーズに、今日あった事をきちんと説明した上で、これからは彼女が郵便を確認するように進言してくれたらしい。
と、口に手をあて目を輝かせる姉に
「ふざけてる場合じゃねえからなっ?!アルトはお前と違って図太くねえんだし、姉なんだったらしっかり守ってやれっ!」
と、随分と厳しい顔で言ってくれたらしい事を姉からの申告で知って、その頼もしさに感動した。
結局ギルベルトにきつく言われて、これからは郵便はフランソワーズが責任を持ってチェックすると言う事になって、一安心……と思ったのだが……チェックが途中で入ったところで、ストーカーの手紙が来なくなるわけではなかったらしい。
「アーサー、今日の分」
と、毎日アーサーが帰宅をすると手紙を渡して来る姉。
「これ……」
と、その中に混じっているフローラルな香りの差し出し人の名のない封筒。
それを姉に向かってかざすと、フランソワーズはコーヒーをすすりながら
「一応…あんた宛てだから勝手に開けるのはプライバシーの侵害かなと思って。
あたしが開けて良いなら開けるけど?」
と、ちらりと視線を送ってくる。
言っている事はもっともなことではある…。
…もっとも…お前にだけはプライバシーの侵害とか言う言葉を使われたくない…と、アーサーは秘かに思うわけなのだが……
「開けてくれ…」
と、それでも姉に頼みたいわけなので怒らせるわけにも行かずその言葉を飲み込んで、アーサーはフランソワーズに封筒を差し出した。
それを受け取ったフランソワーズは
「センス良い香りにセンスある封筒。
相手はすごくおしゃれでセンスある人間よね」
などとふざけた事を言いながら、ハサミで丁寧に封を切った。
(…センスあっても中身が怪しい何かじゃ……)
前回の封筒の中身を思い出して思わず身構えるアーサーだが、今回は違ったらしい。
中から出て来たのは綺麗な模様入りのカードと写真…。
まあ…その写真自体はアーサーの顔になんだか半裸の身体をつけた合成写真で、まともではない事はまともではないが、少なくとも今回はなまものではない事に、ホッとした。
「カード…見たい?」
と聞いてくる姉。
「…見たくない…けど、………見る」
と、複雑な心境で答えるアーサー。
そう、見たくはない。
見たくはないのだが、見ないと何が書いてあるのか気になりすぎる。
「…じゃ、」
と、姉は一応気を使ってくれているのか、それをアーサーに渡すことなく、開いたカードの中をこちらに向けてくれた。
中には薔薇の花弁の押し花。
文字は綺麗な飾り文字で、確かに前回とはだいぶ感じが違う。
……が……内容が
【こんな薔薇の花を敷き詰めたベッドで君を抱きたい】
というあたりが、変態は変態だと思う。
その日以降もそんな感じの手紙は続く。
2日目は
【愛らしい君をガラスケースにいれて床の間に飾っておきたい】
…だったか……。
もうそのあたりで嫌になった。
DKにそんな言葉を贈って何が楽しいんだかわからない。
不思議な事に2通封筒が届く日もあって、その時は1通は必ずそんな写真とカードの組み合わせだが、もう1通はやはり最初の日のような使用済みコ○ドームや、大人のおもちゃが同封されている。
それだけではない。
自宅に1人で居ればかかってくる無言電話。
外に干しておいた下着を盗まれた事もあって、それ以来姉の下着と同様、下着は室内に干すようになった。
学校の行き帰りにギルベルトが送ってくれるようになったため、通学中の被害はないが、もし送ってくれる事がなければ、何かある予感がヒシヒシする。
本当に…ギルベルトがいてくれて本当に良かったと思う。
満員電車でもアーサーを腕の中に抱え込むようにして空間を作ってくれるので、ストーカーに痴漢行為をされるどころか、押しつぶされることすらない。
「本当に…いっそのことしばらく俺様ん家に泊まるか?」
とギルベルトは言ってくれたが、一応ターゲットはアーサーだとしても、そんな怪しい人間がうろついている状態で、まがりなりにも女のフランソワーズを1人にしておくわけにもいかないし、礼を言いつつ固辞した。
しかしこれがある意味運命の分かれ道になる事をアーサーは知らないし、ギルベルトもまた、知らない。
良かったのか悪かったのか…難しいところではあるのだが、とにかく運命の分かれ道になったのである。
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