イングランドが熱を出した。
なんだか疲労からきたものらしいが、その原因はどう考えても自分の宗主国、スペイン親分にあるとベルギーは思う。
でも一昨日スペイン――親分がおそらくいつものように娼館に行くのと時を同じくして、何故かイングランドの姿が見えなくなった。
もしかしてそういう類の事にそろそろ興味が出てきたイングランドが後でもつけたんやろか…と、男の中で育ったベルギーは、まだうら若い少女らしからぬ事を考えてみたりもした。
まあ普通に考えれば、むしろ親分の方が、まだ少し早い気もするがそろそろと、イングランドの筆おろしに自分の馴染みの店に同行させるということも、考えられなくはない――実際自分の兄のオランダはそうやって親分に引きずられて行ったらしい――が、ことイングランドに対しては、親分は自分以外が近づくのをあまり好ましいと思っていないように見えるので、それはありえへんな…と、思いなおす。
何しろどうやら身内として遇されているらしいベルギー自身ですらイングランドと二人でいると、怒りなのかなんなのかわからない…とにかくすごいイライラしたような目で見られるのだ。
あれってまるで恋人が他の男とおるの見て焼きもち妬いとる男みたいな視線やわ…と、ベルギーもしばしば呆れざるをえない。
なにしろ外見年齢は一応13,4歳となっているが、イングランドは随分と細っこくて童顔で、さらに幼く見えるので、ベルギーからしたらどうみたって恋愛対象にはなりえない。
だから弟みたいなイングランドといるのはそれでも楽しいし、何か言われるまでは、ま、ええやろ、と、気にせずに日々過ごすことにしてきた。
そこにいきなり昨日の昼過ぎ、なんだかヘタれたドレスを着たまま眠っているイングランドを抱きかかえて親分が帰城したのには驚いた。
――まさか…親分、おかしな方向行ってしまいはったんちゃう?あの子いくらかわいくても一応男の子やで?女装の強要はあかんわ。
などと、ベルギーはふざけてそのドレスを用意したのが自分だということはすっかり棚に上げて思ったわけだが、事情を聞こうにも親分は近づくなオーラをビシバシ放ちながらイングランドを自室へと連れ去ってしまったので、一体何がどうなっているのか、本人達以外にはわからない。
夜、食事を運ぶのにかこつけて様子を見ようと思ったが、ドアまで親分が取りに来て、奥の寝室には入れてもらえなかったので、わからないままだった。
朝もそんな感じで親分にシャットされて、ようやく今の状況がわかったのは昼過ぎ。
イングランドが熱を出したと、久々に自室から顔を覗かせた親分が、初めて見るくらいオロオロとした様子で医者を呼ばせたのだ。
最近なんだかイングランドに近づいて欲しくなさそうだった自分がこっそりと着替えその他を用意する女官達に混じって寝室に入っても気づかない程度には動揺しているようである。
こうして久々にイングランドの様子をうかがう事にしたベルギーは、親分が医者の方に気を取られてる隙にそっとイングランドが横たわっているベッドに近づいた。
気配に敏いイングランドはすぐにベルギーに気づいたらしい。
丸い目をキョトンとさせて、それから少し困ったような顔をした。
「あ~、親分今見てへんから、こっそり来てみたんやけど…」
とベルギーがへにゃりと笑うと、イングランドも困ったような顔のまま、それでもへにゃりと笑った。
「うん…なんだかベルギーといるとスペインはすごく嫌な顔するよな…。
最初はベルギーに男が近づくのが嫌なのかと思ったんだけど…」
と、少し神妙な様子で言うイングランドの言葉に、ベルギーはプッと吹き出しそうになって慌ててこらえる。
(男?男…うん、まあ性別はそうやけど…。うちに男…ねえ)
男である前に子どもで弟のようなもので…それでも本人が一人前の男だと思っているあたりが、可愛らしくもおかしい。
(まだまだちっちゃくて、うちより細っこいんとちゃう?)
と思いつつ
「う~ん、逆ちゃう?」
と言うと、イングランドは真っ赤になって、言葉に詰まった。
「あ、ああ。なんか…そうみてえだけど…」
と言う声に再度目を向けると、細い首元に、鎖骨のあたりに、あちこちに何やら意味ありげな紅い痕。
手…だしてもうたんか…。
はぁ~と、ベルギーはため息を付いた。
それで気づかれた事に気づいて更に赤くなるイングランド。
その不器用な性格を考えれば追求されるのも気まずいだろうなぁとは思う。
思うのだが姉貴分としては一点だけは確認をしておかねばならない。
親分相手にだって譲れない姉魂があるのだ。
「で?同意なん?」
「………うん…」
「ほならええわ」
それ以上は聞かないでおいてやろう。
というか…知りたければ親分の方に聞けば、牽制がてら過剰に喋ってくれる気がする。Before <<< >>> Next
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