「自分の部屋?もうないで」
「はあ??」
国に帰ろうとしてスペインにみつかって、城に連れ戻された日のことである。
何故かスペインの部屋で目が覚めたイングランドが自室に戻ろうとしたらスペインに告げられたその言葉は、イングランド的にはなかなか衝撃的だった。
昨日スペインがあれほど優しく触れながら、自分の側にいてくれと言ったのは、やはり夢だったのか?
「それは…城から出て行けということか?」
泣くまい…そう思っても目の奥から何かがこみあげてくる。
それでも泣き出すのを耐えてそう聞けば、スペインは驚いたように目を丸くする。
「なんでそうなるん?
城からなんて出さへんで?
自分はもう一人で城の外出るの禁止やって親分が言うとったん、覚えてへんの?
もう二度と出ていこうなんて事できひんように、これからはずぅっとこの部屋で親分と一緒におるんや」
大きなベッドに寝転んだまま、スペインはベッドに半身起こした状態のイングランドの腕を引っ張って、自分の隣に横たわらせると、自分は少し身を起こしてイングランドに覆いかぶさる。
そしてその顔を覗きこんで、にやりと笑った。
その、口元は確かに笑みを作っているのに目が笑っていない。
弧を描く口元と対照的に、そのイングランドのものより濃いエメラルド色の瞳はひどく真剣な光を帯びていた。
まるで内心の執着と焦りを押し隠したような微笑みにホッとする。
スペインはまだ自分が共にあることを求めているのだ…そう思うと、我ながらどうかしていると思うが安堵のあまり泣きそうになって、しかしイングランドは嬉しさを押し隠して、殊更ツンと
「そんな程度で縛っておけるもんかよ」
とそっぽを向く。
そうして自分で可愛げのない言い方をしておいて、それでスペインが気分を害していないか不安になってくるのだから困りモノだ。
かと言ってそれを上手にフォローする言葉など出てくるならこんな言い方はしていないわけで…心配になってチラリとスペインを見上げた。
しかしスペインは気分を害した様子もなく、それをすなわち、『そんな程度じゃ足りない、もっとしっかり束縛しておけ』というイングランドの意思表示であると取ったらしい。
「ほな、もっとしっかり縛り付けとかなあかんなぁ」
と、むしろ嬉しそうに笑っていうと、イングランドが思っても見なかった方向で、それを実行に移し始めた。
「まずはマーキングからやんな」
にこやかに言うスペインを見上げると、深いグリーンの瞳に確かな欲を見て取れる。
キラキラと目を輝かせながら、スペインは捕食者の目でイングランドを見下ろして、ガシリとイングランドの両腕を固定した。
「ちょ…まさか?」
怖い想像が脳裏に浮かぶ。
その想像の通りだとしたら、本気で無理だと思う。
昨日の夜から散々抱き潰された身体はさすがに限界だ。
半日寝たくらいで回復はしない。
無理だ、真面目に無理だと、逃げようとしても、上からがっしり押さえられていて、身動きするのすらままならない。
というか、自分より動いて起きて自分を連れ帰って自分より休息をとっていないはずのスペインはなんでこんなに元気なんだ?とイングランドは呆れ返る。
現実逃避のようにそんな事を考えている間に、着せられていた寝間着はあっという間に剥ぎ取られ、身体のあちこちに、スペインの唇でチクリチクリと赤い華を散らされた。
若干の痛みを伴っているはずのその行為は何故かイングランドの身体に官能を巻き起こして、イングランドを大いに戸惑わせた。
そして全くもって恐ろしい事に、スペインが満足するまでそれを続けられた後には、イングランドは息も絶え絶えになって、しっかりともう何戦も付き合わされたのである。
本当にもう、昨日から何回抱かれたのか、数えるだに恐ろしい。
こうしてイングランドの意識は再度途切れ、次に起きたのは翌日の朝。
「おはようさん、イングラテラ。
身体ツライやろ?親分が食べさせたるわ」
と、何事もなかったようににこやかに言うスペインの手から朝食を取らされた。
もちろん、何を子どもじゃあるまいしそんな恥ずかしい事を、というイングランドの至極まっとうな抵抗は、
「そんな元気なら、もう少し疲れてみようか~」
という恐ろしい提案の前に軽く封じられる。
それでも…スペインが実に幸せそうに自分を抱え込むのを見ているのは嫌じゃない。
このところ距離があったように思われるので、なおさらだ。
あ~ん、と、慈愛に満ちた笑みと共に差し出されるスプーン。
このところこんな笑顔を向けられてなかったため、それだけでもう胸がいっぱいだ。
なにかもう色々がこみ上げてきて、口をあけたまま目からポロリと涙がこぼれ落ちると、スペインはぎょっとしたように慌ててスプーンを置いて、オロオロとイングランドを抱き寄せた。
「え?え?どこか痛くしたん?
親分昨日から色々我慢きかんくて、乱暴にしすぎたか?
堪忍、堪忍な、イングラテラ。
ええ子やから泣かんといて?!」
そう言って顔中に落とされる口づけは、家族というくくりを超える前の昨日よりも多分に甘さを含んでいる気がする。
涙が止まらないまま食べた朝食は少ししょっぱくて、でもほんのり幸せの味がした。
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