どうやら自分は結構長い間、無自覚に恋をしていたらしい…。
それに気づいたその日に、もうなし崩し的に押し切って、その最愛の相手と結ばれて幸せな気分で眠りについた翌朝のことだ。
スペイン的にはその己を毛布から蹴りだした白く細い足も可愛らしく見えるし、蹴られた足の裏の感触ですら愛おしく感じるのだから重症だ。
まあでも、スペインが愛したのはそんなやんちゃで素直になれない…不器用だが心根の優しいイングランドなのだから仕方がない。
現に、驚きと羞恥で大きな目をうるうると潤ませながら反射的に蹴りだしてしまったイングランドは、次の瞬間、自分がついふるってしまった暴力に動揺して、困ったように視線を泳がせている。
ああ…可愛え…
「…服……どこだ?」
思い切り迷って悩んだ挙句、イングランドは話をそらすことにしたらしい。
きまり悪そうに視線を反らせるイングランドを追い詰める気はスペインにはもちろんない。
「ああ、濡れてもうたから乾かしといたで」
と、ストーブの側に置かれた箱の上に置いたドレスに視線をやって、そしてふと気づいた。
そう言えば、何故イングランドがあんな格好であんな場所にいたのかをまだ聞いてなかった。
そして思い出す色々。
それでなくても可愛らしいイングランドがあんな格好であんな荒くれ者が集う場所にいれば色々不埒な奴が寄ってくるのは当然だ。
今回だって自分が見つけなければ危なかったのではないか…。
それこそ昨夜自分がしたようなことをその不届きな輩達にされていた可能性だってある。
自分以外がこの子に……そう思ったら怒りと憎悪で目眩がした。
そんな事になったら、たとえそれが可愛い自分の国民であっても八つ裂きにしない自信はない。
「…スペイン……あの…さっきの怒って…るのか?」
そんな事を考えていたら、無意識に殺気を飛ばしていたらしい。
イングランドが恐る恐る声をかけてきた。
あ、あかんやん。おっきいおめめから涙あふれそうや…。
それも可愛えけど…。
と、そこでハっと我に返るスペイン。
慌てて怒りを納めて少し怯えた様子のイングランドを抱き寄せた。
「あ~、堪忍な~。昨日のアホ共の事思い出したら、親分ついつい腹たってもうて。
ほんま親分が見つけてよかったわ。取り返しのつかないことになるとこやった」
本当に…この子を…ましてやこの子の大事な初めてをあんな輩に奪われるなんて冗談じゃない。
というか…無意識にそう見ることを避けてきたフィルターを取ると、まだ幼げでいて、でも少年とも少女とも見える危うい年頃特有の色気のようなものがあって、それが妙に征服欲をそそるというか…手折ってしまいたいという気持ちをかきたてる。
ああ、これからは一人での外出は禁止にしないと、本当に危ない。
よく最近の自分はこの子から目を離していられたものだ。
なんという無謀。
昨日までの俺、百遍テーブルの角の頭ぶつけとけや、どあほ!
そんな事を思いながらギュウギュウと抱きしめる腕に力を込めると、イングランドは、苦しいんだよ、離せよ、と、モゴモゴ文句をいうものの、特に押しのける事もせず、
「だいたい…可愛らしいレディじゃあるまいし、脱げば男だってわかるんだから、せいぜい気持ちわりいって殴られる程度だろ?
そのくらい大したことねえよ」
と、口を尖らせる。
「はあ??」
と、その言葉にスペインは思わず唖然とした。
「はあ?じゃねえよ。なんだよ、いくら気に食わねえからって殺すまではしねえだろ?
そのくらいで殺人犯にはなりたくないだろうしな」
と、それに対してイングランドはおよそスペインが考えているのと全く方向性の違う言葉を返してくる。
なんで?なんでこの子この期に及んで全然わかってへんの??
「あんなぁ……」
がっくりと力が抜けて、スペインは額を抱きしめたイングランドの肩にあずけた。
「自分…昨日親分になにされたか覚えとらんの?」
ため息混じりにこぼすと、ぴぎゃあっ!みたいな感じの悲鳴をあげて、腕の中でイングランドがわたわた暴れだした。
抜けだして距離を取ろうとしているようだが、もちろん抜け出させてやる気などない。
二度と腕の中から出してやる気などないのだ、という意思表示を込めて、スペインはイングランドを抱きしめる腕に力を込めた。
その上で肩口に額を押し付けたまま続ける。
「男同士でもな、そういう事できんねんで?
親分、自分があんまりちっちゃい頃から一緒におったから、無意識にそういう風に見るん避けとって気づかんかったけど、自覚し?
自分めっちゃ可愛えんや。
自覚した瞬間に手ぇ伸ばして、抱え込まな気がすまんくなるくらいに。
昨日かて親分がみつけんかったら、絶対に連れ込まれてヤラレとったで?」
「…そっ…そんなことは…」
「あるわっ!」
戸惑ったように言う声をピシャリと押さえつける。
「とにかく、自分はもう一人で外出は禁止やっ。
ほんま危ない、危なすぎるわっ!
そもそもなんで昨日はあんな格好であんなとこおったん?」
ああ、そうだ、また忘れてた。
まずはそれだ。
そこで思い出したスペインが問うと、イングランドはまた言葉をなくした。
「…なん?言えん事しとったん?」
とさらに問えば、困ったように視線を泳がせる。
そこで嫌な想像がざわりと胸のうちに広がった。
「あいつら…まさか知り合いとかなん?
あいつらに会うとったん?!」
そうなら殺すッ!
絶対に国中に触れを出してでも今から見つけ出して、殺すっ!!
そんな事を思って頭に血がのぼるスペインだったが、イングランドはそれには
「なんでそうなるんだよっ!!しらねえよッ!いきなり声かけられただけだっ」
と、首を横に振った。
スペインが何故そんな事を思うのかわからないといった感じの表情に嘘はなさそうだ。
「…ほなら、なんで?」
と、再度聞くと、イングランドはまた困ったような顔で顔を背けようとするので、スペインは自分も顔を上げて、片手はしっかりイングランドの腰に回したまま、もう片方の手でイングランドの後頭部を掴んで、自分の方に顔を向けさせた。
「なんであんな格好であんな所におったん?」
目線が合うと、イングランドの大きな目にまたじわじわと涙が溜まってくるが、今回だけは譲ってやる気はない。
またこんな事をされてはたまらない。
「どうしても言わへんのやったら、もう二度とこんなことできひんように、親分の手と自分の手、鎖でつないで絶対に勝手にどこか行けへんようにするで?」
脅しではない、本気だ、と、わかるように、しっかりと目を合わせていうと、イングランドの目からハラハラと決壊したように涙のしずくがこぼれ落ちた。
「…っ…だって……お前、俺見なくなったっ…。
ベルギーといると、怖い顔して睨んでたしっ……俺っ…邪魔なのかって思って……
ならっ…国にかえろ……って……」
シャクリを上げるイングランドの言葉に、スペインは凍りついた。
国に……帰る?
自分を置いて?一人で?自分と離れて…?
ガンガンと頭が痛む。
もう他の言葉など聞こえない。
頭に入ってきたのは、その言葉だけだ。
「あかんっ!!そんなん絶対に許さへんっ!!!自分は俺のやって言うたやんっ!!」
怒りと悲しみ、その他わけがわからない負の感情がグルグルと回り、体中の血が沸騰しそうな気がする。
絶対に…絶対に手放したりしない。
逃がさないっ!
イングランドは自分のものだっ!!
スペインの急変ぶりに驚いてぽかんと開かれたままのイングランドの小さな唇を噛み付くように奪うと、スペインは自分より一回り二回り小さく細いイングランドの体を床に押し倒す。
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