ダンデライオン_6章_3

「大丈夫やった?」

にこりと浮かべる笑みは、出会った頃によく向けられていた温かみのあるもので、最近あまりに向けられていなかったせいもあって、あまりに現実味がなくて、イングランドはとっさに反応できずにそのまま言葉もなくスペインを見上げた。

「…へ?」
笑みの形を作ったエメラルドグリーンの瞳が、視線があった瞬間に驚きに丸くなる。

「…イングラ…テラ?」

スペインの顔から笑みが消えた。
太陽の笑みが……。


自分以外には…たとえそれが行きずりの少女にでも向けられるのだと思った瞬間、目の前が真っ暗になった。

嫌だ…嫌だっ!!

拒絶の言葉も嫌悪の声も聞きたくないっ!!

消えるから…二度と会わないから小さな温かな心の灯火を消さないで、トドメを刺さないで…


イングランドはその瞬間、弾かれたように反転して、その場から逃げ出した。



後ろでスペインが何か叫んで追ってくる気配がする。

何故?もう放っておいてくれっ!
まるで終わりに追われている気になって、イングランドは必死に逃げた。



そうしているうちに先ほどまで止んでいた雨がまた降り始め、ドレスが水を吸って重くなってくる。

このままでは追いつかれるっ!

イングランドは少しでも距離を離そうと、足場の悪い小舟の上をピョンピョンと飛び移りながら逃げたが、それでもスペインはなお追いかけてきた。



そこまではっきり終わりを告げたいのか……

涙と雨で視界が曇った。


そして…さらに雨で滑る足元。
近づく気配。

焦る……。

ツルリと滑りかけて、踏みとどまろうとしたが、そこでドレスの裾に足を取られた。

バッシャアア~~~ン!と音がして冷たい水に放り出される。

息が出来ない…苦しい……
必死に水上に向かって手を伸ばすも、つかむのは冷たい海水だけだ。

しばらくはあがいてみるが、やがてふと思う。

あがいて…それでどうするんだ?

もういいじゃないか……
そう思った瞬間、力が抜けた。

軽く目を閉じ、波に流されるにまかせると、温かい何かに包まれた気がした。



――…好きや……俺の……俺だけのイングラテラ……

意識が完全に途絶える瞬間そんな声を聞いた気がしたが、気のせいだろう。

もう自分を求めていた存在は消えてしまったのだから…。


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