イングランドを腕にスペインが泳ぎ着いたのは、どうやら崖に囲まれた入江のようだ。
見渡す限り海と木々。
そして幸いにも小さな小屋が立っている。
水の中にいる間に雨はますます激しくなってきたので、暴風雨の中帰り道を探すよりは、とりあえずはそこに逃げこんで雨が止むのを待つのが正しいだろう。
そう判断して、スペインはイングランドを抱き上げたまま、その小屋へ駆け込んだ。
本当に小屋というのが相応しいようなその小さな建物は、おそらく夏に漁や狩りに来た時に少し日差しを避けて休憩するためくらいの用途で使われているのだろうと見受けられる。
火種や毛布くらいはあるが、ベッドはもちろん、テーブルや椅子もない。
まあそれでも暖を取るための火種とストーブがあるのはありがたいと、スペインはストーブに薪をくべて火を起こすと、濡れた衣服をさっさと脱ぎ去る。
そして、とりあえずイングランドを温めてやらねば…と、一枚しかない毛布を手に取って、壁にもたれかからせたイングランドを振り返って、逡巡する。
クタリと力なく気を失っているイングランドの細い身体に張り付いているドレス。
(濡れたままやと…風邪ひいてまうやんな……)
と、誰にともなく言い訳をしながら脱がせると、下にもきっちりアンダードレスを着ていて、そこから覗く白い肌がスペインを硬直させた。
しかし気を失ったままのイングランドは濡れて寒いのかフルリと身震いしたあと、裸のスペインの身体に身を寄せる。
ズクリ…と、身体の奥から湧き上がる熱に気づかないフリで、スペインは抱きつかれるままに、一枚しかない毛布でイングランドと自らの身体を包み込んだ。
細い身体…。
目の前には濡れた髪が張り付いた白い項。
思わずソッと唇を落とすと、意識を失っているイングランドは、ん…と、かすかな吐息を漏らした。
しっとりと濡れた肌の感触。
はだけた下着の隙間から寒さに尖った小さな淡い薄桃色の突起が直に己の胸元に当たったあたりで、スペインの中で何かが切れた。
(堪忍っ…イングラテラ、堪忍やっ…)
ソロリと手を毛布の中に忍ばせ、小さな突起を何度も擦ると、その都度、ん、ん、と可愛らしい口から吐息混じりの声が漏れる。
調子に乗ってきゅうっと固くなった先端を摘むと、イングランドの身体が陸にあがった魚のように跳ねた。
「イングラテラ……イングラテラ……好きや……俺の…かわええイングラテラ…」
そのまま夢中で白い肌のあちこちに唇を這わせて行くと、その都度ぴくん、ぴくんと震えるのが可愛い。
寒さで青ざめていた顔色に血の気が戻り、ほんのりと淡い薔薇色に全身が染まる。
「…やっ……やぁっ……」
つぅ~と目尻に溜まった涙が、無意識に快感を逃そうとしてかフルフルと首を振った拍子に頬を伝うのをぺろりと舌で舐め取り、スペインはそのままか細い喘ぎ声をあげる小さな唇を己のそれで塞いだ。
その瞬間、ゆるゆると閉じていたまぶたがゆっくり開く。
そしてぼんやりと潤んだ綺麗なペリドットがその奥に覗いた。
「…スペイン……なんか……身体……変だ。」
まだ寝ぼけているのだろうか…。
拒みもせず、受け入れもせず、ただぼ~っと宙を漂う視線。
強い刺激は避けて、スペインがゆるやかに愛撫を続けると、白く細い腕が何か救いでも求めるようにスペインの首に回る。
「んっ…んんぅ……や…だ……なんか…変……変だ……」
訴えるペリドットから溢れる涙をまたちゅっと口付けて吸い取ると、スペインは片手でイングランドの見た目に反して柔らかい髪をソッと撫でた。
「堪忍な…親分、イングラテラの事好きすぎて、家族だけや足りひんかった。
親分はイングラテラの唯一になりたい…。
結ばれたい……一つになりたいねん…。
お願いや…受け入れたって?」
「…す…き?」
「おん。好きや…この世の誰より愛しとる。
自分のためやったら、世界やって滅亡させても構わへん。
もしいなくなってもうたら、地獄の果てまでやって追いかけてくで?」
「…俺……邪魔じゃ…ないか?」
「なんでやねんっ。
むしろイングラテラ以外のもんが皆邪魔や。
自分だけおればええねん」
かき口説くように言葉を重ねると、イングランドはまだぽやあっとした目で少し視線を宙に彷徨わせていたが、また子どもが覚えたての言葉を繰り返すような調子で
「…す…き?」
と、聞いてくる。
そのあどけない顔が可愛くて愛しくて、スペインが
「おん。めっちゃ好きや」
と、コツンとイングランドの広い額に自分の額を軽く押し当てると、イングランドはふわりと柔らかい笑みを浮かべて、ぎゅうっとスペインに抱きついた。
そんなイングランドが可愛くて愛おしくて、ラテン男の全身全霊で愛を注ぎ込んで、幸せな気分で眠った翌朝……完全に目が覚めたイングランドの悲鳴で起こされ、毛布から叩きだされる事は、この時のスペインはまだ知らない。
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