学園祭パニック3

天使あらわる


ギルベルトと賭けをした翌日から1週間。

毎日彼女候補を物色した。

クラスの女子から始まって、下級生から上級生まで、お前何睨んでるの?と聞かれるくらい真剣に見定めていたのだが、これぞという子がみつからない。

正直、可愛い子…と思って脳裏に浮かぶのはいつもあの舞台の上での無邪気な笑みや舞台裏での赤くなったあの子の顔だ。


はっきり言おう。

あの顔以外、可愛いと思えない。

みんな同じに見える。



それをどうしようもないものとして自覚したのは探して4日目。

その後はそれじゃあもう自分が可愛いと思えないなら周りが可愛いと思うかどうかで判断すればいいじゃないかと、周りに可愛いと思う子を聞きまくった。

そして3人ほど候補を絞る。


さてとりあえず告白するか…と、呼び出してはみたものの、いざとなったら口説き文句が全く出てこない。

『好きだ』の“す”の字も、『付き合ってくれ』の“つ”の字も出てこないくらいだ。

最終的に3人とも自分の事が好きなのか?付き合いたいのか?と向こうから聞いてきてくれたのに、

「いや、そういうわけやないねん」
と言ってしまって、怒らせて帰られる始末。


あかんやん…と頭を抱えて、結局彼女を作れずに迎えた当日。

まあギルベルトのことだから相手も彼女なんて作れてないだろう。

そう思って待ち合わせ場所に行くと、一際人目を引くデカい女とギルベルト。

確かに美人だ。
モデルのように華がある。

……が、アントーニョから見れば、どこをどう見てもフランシス

アホか……と、自分の事を棚にあげて思う。



「ギルちゃんの彼女って…まさかコレやないよな?いつから男OKになったん?」

呆れた顔でそう言ってやればお互い彼女は作れなかったということで痛み分けだろうと思って言うと、なんとフランシスから意外な言葉が降ってくる。

『え~、こんな美女がギルちゃんの彼女になるわけないでしょぉ~。
ほんのジョークよ、ジョーク。彼女連れてくるからちょっと待っててね☆』

そう言って走り去るフランシスを呆然と見送ったあと、ギルベルトに視線を向けるとギルベルトは気まずそうに顔を逸らした。

嘘か?やっぱり嘘なのか?と安堵したところに、しばらくして

「ごめ~ん!お待たせっ!!」
と、フランシスの声が。


「ちょっと遅れるって言ってたから俺ら先に来てたの」

と言うフランシスの後ろにはフランシスが着ているのとまったく同じデザインの白いワンピースを着た女の子。

しかし同じデザインでもほっそりとした彼女が着るとありえないくらい可愛らしい。

金色の長い髪に夢見るような大きくまるいグリーンの瞳。
透けるように真っ白な肌にうっすらバラ色に色づいた頬。
鼻は小さく整っていて、桜の花びらのように綺麗なピンク色をした唇。

手足も華奢でなんというか…守ってやりたいという気持ちがこみ上げてくるような美少女である。


「…名前は?」
「…え?」
「俺、アントーニョ言うんやけど、お姫さん、名前教えたって?」

ずいっと一歩アントーニョが前に歩を進めると、少女は焦ったようにフランシスの後ろへ隠れる。

「ちょ、トーニョ?ギルちゃんの彼女だからね?」

と、慌てて少女を隠すように前に出るフランシスをグイッと押しのけつつ、アントーニョはまずギルベルトの方に歩み寄った。


「ギルちゃん。」
「はいっ?!」

アントーニョの固い声に、やはりバレたのか…と、上ずった声で答えるギルベルト。

だが、アントーニョの口から洩れたのは予想に反する言葉だった。


「今回の賭け、親分の負けでええわ」
「っ??…おうっ……」

「で、改めて質問なんやけど…」
「おう」

「自分彼女作ったのって親分と賭けしたこの1週間やな?」
「おう、そうだけど…」

「ずっとこの子の事好きやったとかやないよな?」
「ま、まあな」

「賭けのために付き合い始めたようなもんやん?そのためだけに見つけられたんやん?」
「……とも言うな。まあ俺様がその気になったら…」

「そうやんなっ!ギルちゃんモテモテやから、この子やなくても次見つかるわっ!きっと。
せやからこの子は親分に譲ってくれるやんなっ!」

「はっ?はあっ??なんでそうなるっ?!!」

「ありがとぉ~!親分もうこの子逃したら二度と好きな相手できん気ぃするねんっ!
さすがギルちゃん男前やねっ!!」

「ま、まあな」


そう、きっと少年を好きになったと思ったのは、この子に巡り合うために神様が仕組んだちょっとしたいたずらだったのだ。

確かにこれまでは神様にちょっと意地悪されても仕方ないくらいいい加減な付き合い方をしていた気がする。

でもこれで最後だ。
この子が正真正銘最初で最後、本気の恋の相手だ。


「ちょ、なんでそんな事になってんのっ?!」

と慌てるフランシスの脛に容赦なく蹴りを入れて、ギルベルトに学祭で使える大量の食券を渡すと、アントーニョは呆然と立ちすくむ少女をひょいっと抱え上げる。


「ちょ、何してっ…」
落ちそうで怖いのか慌ててアントーニョの首に腕を回して言う少女に

「ちょっと舌噛んだら危ないから、今は黙っておいてな」
とウィンクすると、風のような速さで廊下を疾走。アントーニョはその場から逃走した。







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