学園祭パニック2

彼女募集中

  
マジ頼むっ!お願いします、フランシス様っ!!

まず唯一の女友達と言えるエリザベータの所にかけこんでフライパンで殴られたギルベルトが次に駈け込んだのはフランシスの所だった。


ぱんっ!と顔の前で両手を合わせておがむギルベルトに、フランシスは困った顔をする。

確かにフランシスは女友達も多いし、頼めば来てくれる女の子もいなくはない。

が、頼めば来てくれる女の子=フランシスに好意を持ってくれている子なわけで…自分への好意を盾に悪友二人の売り言葉に買い言葉的な賭けに巻き込むのは、フェミニストなフランシスとしては出来るはずがない。



「あのねぇ…馬鹿だ馬鹿だと思ったけど、お前達本当に馬鹿だよねぇ…。
彼女なんて賭けで作っちゃダメよ。女の子に失礼でしょ。自力でなんとかしなさい」

綺麗な眉を寄せてそういうフランシスのいう事は本当に全く正しくて、ぐうの音も出ない。


「まあ…あれだ。一週間で作れなかったら、最悪お兄さんが女装して彼女のフリするくらいはしてあげるから。」

と苦笑されて、ああ、もうそれでもいいかも…と遠い目をするギルベルト。



とりあえず人間まず自分が努力をしなくては…ということで、まず学校帰りに本屋によって【素敵な彼女を作るには?】というハウツー本を買う事から始めた彼が、1週間後に彼女が作れているなどという奇跡は当然起きる事はなかった。



そして1週間後…例の賭けの期限であるアントーニョの学校の学園祭当日。

待ち合わせの場所ではえらく背が高い、だがゴージャスな美女が周りの注目を浴びながらギルベルトを待っていた。

細かいレースをふんだんに使った白いワンピースに白い幅広の帽子。
手には同じくレースの白い手袋。
胸元はパッドを入れているのか形の良い胸が揺れ、腰はきゅっと引き締まっている。

強いて言うなら肩幅が少し広すぎる気もするが、肩パッドのせいと言われればそうなのかと思えなくはない。

そう、背以外は少し体格が良い美女と言われればうなづけるレベルの女装っぷり。
さすが子どもの頃からのモデル経験者である。



「どうよ、この完成度。」

唖然とするギルベルトの前で美女、フランシスはポーズを取って見せる。
その横では面白がってついてきたらしいアーサーが爆笑している。

「確かに…すげえ美女っぷりだけど……でけえっ!モデルかよっ」
「ん~、最近は女の子の服着てないけど、昔はよく着てたよ?」

と、にこりと答えるフランシスの母親は有名なデザイナーで、確かに幼い頃は女児用の服のモデルもやっていたので、女装も全く抵抗がないらしい。


「俺が女の子用、アーサーが男の子用のお揃いの服着て雑誌に載った事もあるのよ?」
と、懐かしいなぁと笑うフランシスに、アーサーは

「昔はな、美少女だったんだよ、これでも。でも今のこれはねえだろっ。
背はとにかくとしてごつすぎっ」
と笑う。

「そう?肩パッドだと思えばいけない?
あれからうちのお針子さんに急いで縫ってもらったんだけど。アーサーのもお揃いでぬってもらったのに、この子着てくれないんだよ」

と袋を揺らすフランシスに、アーサーはぎょっとした顔をする。

「マジ持ってきたのかっ?!」
「持ってきたよ~。もちろん。アーサーの体型なら今でも十分いけそうだけど」
「貧弱で悪かったなっ!!」

と、コンプレックスを刺激されて蹴りをいれかけたが、蹴りが入る前にアーサーは慌てて足を止めた。
今は曲がりなりにも女性の格好をしているフランシスを本当に女性だと思う人間がいたら、自分はレディに暴力を振るう紳士の風上にもおけない行動を取っていると思われる。
それは心外だ。

仕方なしにチッと舌打ちをするにとどめるアーサーにウィッグもあるんだよ~と袋の中を見せるフランシス。

しかしアーサーは手をあげられないのでこれ以上相手をするだけ腹がたつとばかりに、

「さっさと行くぞっ!」
と、先に立って歩き出した。



こうして着いたアントーニョの高校の学園祭。
待ち合わせは丁度使ってなくて人が少ない音楽室前。

「ちょっと俺トイレ行ってくるな~」
と、トイレに向かうアーサーを見送ると、フランシスは手鏡を出してうっとりと自分に見とれる。

「やっぱり美しいよねぇ…。」
とつぶやく声は冗談ではなくて本気だ。

まあ確かに美人は美人だ。
ただやはりごつい。

こんなごつい彼女は俺様嫌だな…と、ギルベルトはさすがに思うものの、ここで帰られたらアントーニョに散々馬鹿にされた挙句おごりなので黙っておく。

………が、ギルベルトが黙っていたところで現実は無情だ。


「ギルちゃんの彼女って…まさかコレやないよな?いつから男OKになったん?」
といつのまにやら来ていたらしいアントーニョが呆れた顔でフランシスを指差した。


(あ…やっぱりバレるよね(笑))
(俺様ピンチ?(涙))
(う~ん、仕方ないなぁ。奥の手出してきたげるっ!)

「え~、こんな美女がギルちゃんの彼女になるわけないでしょぉ~。
ほんのジョークよ、ジョーク。彼女連れてくるからちょっと待っててね☆」
と早口に言うと、フランシスは脱兎のごとく消えて行った。

そして向かう先はアーサーの消えたトイレ。



「おう、フラン。どうだった?やっぱりそれいくらなんでもバレるだろっ」
と、ハンカチで手を拭きながらトイレから出てきたアーサーをフランシスは再びトイレへと押し戻す。

「アーサー、お願いっ!!」
「はぁ??」

グイっと袋を押し付けられて目を白黒させるアーサー。


「一瞬で良いのっ!
本当に一瞬チラっと姿見せてギルちゃんの彼女だって紹介させてもらえればっ」
と続いたところで、ようやく何を求められているかを察して

「冗談じゃねえっ!なんで俺がっ!!」
と、憤るアーサーにフランシスは手を合わせて頭を下げる。

「ギルちゃんあの手の事にはナイーブだから、下手すれば音に出ちゃうからさ。
クリスマスライブまでに良い曲作ってもらわないとだし。
これから1か月毎日美味しいお菓子作ってきてあげるからさ。
お願いっ!助けると思って…」


お菓子…に釣られたわけでは決してない。

自分の演奏を褒めてくれた相手になんでそんなみっともない格好を見せないといけないんだ…と思わないでもない。

が、確かに自分だったら、ついついそんな賭けをしてしまって、こんなごつい女装男を彼女だと偽って笑われて、実は彼女作れませんでしたなんて言う羽目になったら、立ち直れない。

しかも、アーサーにとってはもしかしたらもう会う事がない人間かもしれないが、ギルベルトにとっては今後も付き合っていく幼馴染だ。
余計に恥ずかしく辛いだろう。


う~~ん………
………
………


「仕方ねえっ!相手が信じたら即帰って帰りにファミレスでお前のおごりでデザート食べ放題なっ!」


羞恥に同情心が勝った。
武士の情けだ…と、アーサーは紙袋を受け取ると、トイレの個室で着替え始めた。







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