学園祭パニック1

※注意:やまざき貴子先生の【っポイ! 】のパロです。
  

本編


あかん…あかんわ…こんなんおかしいわ…。



アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド、高校2年生。

成績は中の上、運動神経◎、容姿◎、性格は明るくて男女ともに人気者。

そんな順風満帆な男が今非常に追い詰められていた。



彼はそう、片思いをしている。

別の高校へ行った幼馴染達が通う学校の文化祭に行った時の事であった。

バンドを組んでいる悪友二人のライブを見に行って、アントーニョは人生最大の衝撃を受ける事になる。



ベースのギルベルトとキーボードのフランシス。

ドラムはなんと女の子でギルベルトとアントーニョの幼馴染のエリザベータ。

そんなお馴染みのメンバーの中で唯一見知らぬ少年。

ギターを手に実に嬉しそうに楽しそうに舞台を飛び回るその様子にアントーニョは見惚れた。



走り回る度ぴょんぴょんと跳ねる金色の髪も汗に濡れた真っ白な肌も甘い甘いキャンディのようにまんまるく澄んだ大きなグリーンの瞳も、それはそれは可愛らしくて、アントーニョはライブ中ずっと彼の姿を目で追った。


本当に目を離すことが出来ない。

可愛い。本当に今まで見たことがないくらい、その少年はキラキラと輝いて見える。



そしてライブ後、楽屋に行き、悪友達と共にいるその少年を紹介してもらった。

アーサー・カークランド。

1学年下のなんと学年トップの成績の秀才らしい。

舞台を降りた彼は随分とはにかみやらしく、演奏が素晴らしかったとアントーニョがほめると、真っ赤な顔でぷいっとそっぽを向いて、ほとんど聞こえないくらいの小声で…そりゃどうも……とつぶやくように言う。

舞台の上の無邪気で楽しげな様子も可愛いが、そうして照れて素直になれない様子も可愛らしい。



こうしてその日はふわふわとした気分のまま帰宅をして、翌日、休み時間に呼び出された校舎裏で待っていた、それまで結構いいなと思っていた女の子に告白されて、

「堪忍な~。今めっちゃ好きな子がおんねん」
と、当たり前に返した瞬間に気が付いた。



これは…まさかの一目惚れかっ?!と。

いやいや、相手は男の子やし?

親分、フランと違ってノーマルやし?

ありえんわ、ありえん…と、何度心の中で否定してみても、脳裏に浮かぶのは先日の少年の姿。

そしてあろうことか、その翌朝、その少年の夢で夢精している自分に、心の中で悲鳴をあげた。



あかんっ!あかんわっ!これは気の迷いやっ。
最近彼女おれへんかったから。

と、心の中で言い訳をし、もうこれは彼女を作って更生するしかない、と、学校へ行って適当な相手を探そうとするも、それまでは結構レベルが高いと思っていた自分のクラスの女子達が皆同じような顔に見える。

告白する気力がわかない。



はぁ~と肩を落としてその日も帰宅する途中、諸悪の根源、自分を文化祭に呼びやがった悪友の一人、ギルベルトと偶然遭遇した。



「よお、なんか元気ねえな?」

ポン!と肩を叩いてくるギルベルトは全く一欠けらも悪いところはないのだが、自分をここまで悩ませる遠因を作っておいて、能天気に声をかけてくるところが気に障った。



「うっさいわっ!一人楽しすぎるギルちゃんと違って、こっちは色々あんねん!」

とその手を跳ねのけると、さすがにギルベルトも内心は腹がたったが、それでも気を取り直して並んで歩き始めた。


「俺様だって作ろうと思えば作れるけど、作んねえだけだからなっ。
それよりお前んとこの学祭、来週の土日だよな?
フランと一緒に行くけど、どこ行けば合流できる?」


ああ、自分のところの学祭などすっかり忘れていた。

サッカー部の方は模擬店をやるのだが、前日に体育館倉庫を一部空けるため大繩などを丁度アントーニョ達の教室の隣の更衣室に運び込む作業を手伝うため、当日は無罪放免。

クラスの出し物は喫茶店でアントーニョの当番は午前中だ。


「ん~うちのクラス喫茶店で、親分午前中当番やから午後なら空いとる」
と、当たり前に答えたあとに、ふとまた苛立ちをぶつけてみたくなった。


「あ~あ、何が悲しゅうてムサイ男で学祭回らにゃならんのやろ。
てか、ギルちゃん、彼女作れるならそれまでに作って連れてきたってや」

と、ため息をついて小石を蹴ると、あまりにしつこくそのあたりを絡まれてムッとしたのだろう、ギルベルトも

「それ言うならお前もあと1週間で彼女作れよっ!」
と、返してくる。


学祭まで1週間…ああ、それは良いかもしれない!

何か目標があれば彼女を作る気になる気がした。


それええなっ!決めたわっ!
お互い1週間後の学祭までに彼女作って見せあうって事で。
作れんかったらその日の飲み食い全部おごりやでっ!」

え?!ちょ、待て!!なんでいきなりっ!!

唐突な申し出に焦るギルベルトだが、そこでアントーニョはにやりと煽る。

「なんや、その気になったら作れる言うたのは嘘やったん?やっぱり一人楽しすぎ…」

「嘘じゃねえっ!!
わかったっ!当日までにとびっきりの彼女作って連れてきてやるから覚悟しとけよっ!!」

ピシっと指をさすギルベルトだが、アントーニョの方は全然心ここにあらずだ。



「あ~、楽しみにしとるわ~。ほなな~」
と、ちょうど来た電車に飛び乗った。

これできっと彼女を作る気力もわいてくるだろう。

そう、その気になれば作れる自信はあるし、きっと作れる。
ようは、その、“その気”をどうやって出すかが問題だったのだ。


こうして哀れな巻き込まれ犠牲者のギルベルトは、走り去る電車を指差したまま硬直する。


「…って…あと1週間でどうするよ、俺様…」

こちらは全く作れる気がしないのにしてしまった約束に、頭を抱える事になった。






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