今日も世界会議後ドイツに怒られた。
それはいつものことなのだが、そこに通り掛かる超大国。
スペインの恋人、イギリスの元弟で、イギリスに片思いをしている男だ。
「イギリスも何が楽しくて万年経済危機な冴えない男を恋人になんてしてるんだろうね。俺にすれば苦労なんて絶対にさせないのに」
などと言われると、さすがに落ち込む。
「経済的には上回ってるはずやのに、その万年経済危機の男の方がええって思われる程度に個人の魅力にかけるって事やんな」
と、その場は笑顔で黙らせる事は出来るものの、確かに贅沢どころか、必要な物すらしばしば買えず、イギリスに出してもらう事すらある我が身があまりに情けない。
昔、距離を大いに縮める事になった双方の上司の結婚にあたって自分達も婚姻関係を結んでいたあの時代には、何でも好きな物を買い与える事が出来たなどという過去から関係が始まっているだけに、なおさらだ。
本当はこれからその愛しい恋人と彼の家で休暇を過ごす予定だったのだが、今自分はとても情けない様子をしていると思う。
…というか、今じゃなくても自分はもしかしてすごく情けない存在なんじゃないだろうか…。
気分はどんどん落ち込んで、もう今日はこんな状態じゃ会えないんじゃないかと発作的にイギリスにメールをする。
『堪忍。今日行けへんわ』
と、短く打って送信すると、即返ってくる返事。
…?
あまりに早かったので不思議に思ってメールをみると、本文なし、タイトルが
『やだっ!絶対来いッ!!ばかぁ!!』
(…なん!…かっ…可愛えっ!!)
落ち込んでいても可愛いものは可愛いのだ。
携帯を前に身悶えつつ、スペインはこれもほぼ反射で
『おん』
とだけ返すと会議場の外へ出た。
ピンポ~ンと年代物のベルが鳴る音にイギリスは玄関に急ぐ。
何か今日のスペインは変だった気がする。
そう思ってドアをあけると、いきなり突きつけられるケーキの箱。
確か並ばないと買えない美味しいと有名なケーキ店のものだ。
「まあ、入れよ。」
と、中に促して、スペインがかつて知ったる家の中で荷物を置き、イギリス宅に置いてある自分の着替えを出して着替える間に、イギリスは紅茶のための湯を沸かす。
落ち込んでいる…と思ったし実際に思うのだが、いきなりこのケーキはなんなんだ?
脳内はてなマークでいっぱいで、それでもケーキを皿に移し、紅茶の準備をすると、それらを持ってリビングへ移動する。
そこではもうスペインがソファに座って待機していた。
スペインの様子は気になる…が、カリッとした歯ごたえのチョコ生地の上に濃厚なチョコレートムースののったケーキの美味しそうな事。
思わず緩みそうになる表情を頑張って引き締めつつ、イギリスはスペインの隣に座って、答えやすそうなあたりから聞いてみる。
「で?なんでいきなりケーキ?ここすごく並ぶ店だろ?」
と聞いてみると、スペインはため息1つ。
「ちょっとした事があってな…。」
「何か良い事が?」
「いや、悪いことやけど?」」
「へ???」
それで何故ケーキ?
ああ、落ち込んだから食べたくなった?
と、聞いてみると、スペインは首を横に振った。
じゃあなんで?と聞くと……
――ん~。ケーキ見て喜んどるイギリス見たら元気出るかなぁて思うて。
………!!!
もうなんなんだっ!この前向きなのか後ろ向きなのかよくわからない行動はっ!
確かに美味しそうで食べたかったわけなんだが……
「ほら、食べ?さっきからもう意識がケーキに行っとるやろ」
と見透かされ、イギリスは迷う。
これは…恋人への愛と食への欲求を試されているのだろうか…。
ここは…言うとおりにしていいものか?
ああ…でもグズグズしていると紅茶も飲み頃を逃してしまうっ!
「親分な~昔からイングラテラが美味そうにモノ食っとる顔が好きやねん」
とダメ押しをされて、まあいいか…と、フォークに手を伸ばした。
どんなことがあろうと、所詮EUに入っている現在、数百年前自分がやらかしたことよりすごい事にはなってないだろう。
あれで平気だった男なんだから大丈夫なはずだ。
一応…気になってないわけではないが、ケーキは美味い。
トロリ濃厚なチョコレートは甘すぎず、かと言ってビターすぎもしない絶妙さ。
ああ、さすがにすごい時だと1時間待ちという店のモノだけある。
デリーシャス!
……と、忘れてたっ!!
い、いや、忘れてたわけじゃない。気になってはいたからなっ!と、誰にともなく心のなかで言い訳をしながらイギリスが慌ててスペインに目をやると、甘いもの好きな男が珍しくケーキに手を出さず、紅茶のカップを手に、こちらをニコニコと見つめている。
とりあえず何か言わねば…と、口に頬張っていた大きめの塊をもぐもぐごっくんした後に紅茶を一口。
「…食わないのか?」
という言葉は飽くまでスペインが普段は甘いモノが好きだという認識で言っただけなのだが、
「食ってもええよ?」
と皿を差し出されて若干焦る。
なに?こいつ落ち込んでる?真面目に落ち込んでる?
そう思いつつ、何故か手に持ったフォークがスペインの皿に伸びているのはご愛嬌…ということにしておこう。
「で?何があったんだ?」
と、聞いてからケーキを一口また口に。
いや、心配してないわけじゃない。
お前なら叩いても踏み潰してもきっと這い上がってくるから大丈夫なんて思ってないんだからなっ!とまた心のなかでだけ言い訳…。
そんなイギリスの内心を知ってか知らずか、は~っと肩を落とすスペイン。
「親分…甲斐性ないなぁて思うてな。いっつも貧乏やから何も買うてやれへんし…」
言われてイギリスはケーキに視線を落とす。
その視線の意味を珍しく性格に読み取ったスペインは
「さすがにケーキくらいは普通に買えるわ。
そうやなくて服やら時計やら宝石やらって高級品とか買うてやれてへんやん」
と苦笑する。
「もっと裕福な国やったら色々買うてやれるし、そういう国と恋人やったら幸せやったのかなぁと思うてな」
何故いきなりそういう話になったのかはよくわからない。
だがまあ言えることは……
「国としての体裁は整えないとだから紳士として恥ずかしくない格好は必要だが、まあ体裁がつく格好は政府の方で揃えてくれるし、プライベートで美味いモノとお洒落な格好どちらを選ぶかといったら前者だな。
その美味いものも…お前と食べるとさらに美味いぞ?」
と、フォークで一刺ししたケーキをスペインの口元に運ぶ。
それがスペインの口内に消えていくのを見届けて、イギリスはさらに続けた。
「お前といると気楽だしな~。馬鹿みたいに甘やかすから嫌な事を言われるんじゃって身構えることもない。
手作りのトマト美味いし、あ~体温も高くていつも寒いこの国だと心地いいな。
飯作るのも上手だし、体の相性もいいと思うし?
食べ物買うのに困らない程度の金はあって、何より同じ時を生きる事ができる国同士で、さらにEU内で今後戦う事もないだろう。
で?他に何が問題だ?」
慰めようにも、正直なんでそうなるのか本気でわかんねえ…と、小首をかしげるイギリスに、スペインはぷ~っと吹き出した。
「人が真剣に考えてんのに、笑うな、KY!!!」
ぽこぽことイギリスが怒ると、堪忍っ!と言ってイギリスの肩に額を押し当てて笑いをこらえようとするが、失敗するスペイン。
「あ~そうやなぁ。自分そういう奴やんな。金色毛虫言われてたくらいやしな」
「誰が金色毛虫だっ!」
「親分の…可愛え可愛え眉毛ちゃんが?
ほんま自分みたいな恋人で親分世界一の幸せもんやわ~」
よくわからないことで落ち込んで、勝手に立ち直ったらしい恋人は、
「ほな、可愛え恋人のために美味い飯作ったるな~」
と、上機嫌でキッチンへと向かったのだった。
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