「ロヴィ~、今日の昼めし……」
「あ、悪い、アーサーと約束あるから」
「明日の…」
「あ、明日もアーサーと……」
「じゃ、明後日…」
「…も、アーサー……」
「一体なんやねんっ!!!」
ガン!!と乱暴にグラスをカウンターに叩きつけるように置くアントーニョに嫌そうな顔のギルベルト。
「なあ、どうでも良いけど、愚痴ならフランに聞いてもらえよ。
俺様、これからタマと夕飯なんだけど…
それでなくても昼飯はバラバラだから、夜くらい一緒にゆっくり摂りてえし…」
夕方のバー。
食堂の隣にあるセルフサービスのそこにアントーニョから呼びだされたギルベルトは自室にアーサーを残してきていて、迷惑顔で時間を気にしている。
そう、ロヴィーノが昼食をアーサーと一緒にと言う事は、当然アーサーもロヴィーノと一緒なわけで、それでも遥かに普通に比べれば多いとしても、減ってしまったアーサーとの一緒に過ごせる時間はとても貴重だ。
朝食と夕食は一緒に摂って、夜も同じ部屋に帰るとしても、日中一緒に居られない分、ギルベルトだってその他の時間は一緒に過ごしたいのだ。
そう主張をするが、アントーニョはぐいっとそのギルベルトの襟首を掴んで詰め寄った。
「そんなに大事なんやったら、昼も抱えこんどってやっ!!
そしたら全部解決やんかっ!!!」
そう言われてギルベルトは肩をすくめてきっぱりと言い放つ。
「束縛する男は嫌われるしな。
嫌がられて逃げられるくれえなら、夕方から昼前まで一緒にいることで妥協しとく」
「えぐれてまえっ!!!親分なんかどうせ最近全く相手にされてへんわっ」
珍しく弱気につっぷすアントーニョに、ギルベルトは
「昼がダメなら夕飯誘えばいいだけじゃね?」
と言うが、
「あかんねんて…。
ブレインは夕飯はその日の進捗と翌日までの予定報告がてらのビジネスディナーやねん」
ブレインは夕飯はその日の進捗と翌日までの予定報告がてらのビジネスディナーやねん」
と、スンスン啜り泣く。
「あ~…そうなのかぁ…」
と、くしゃっと自分の髪を掴むギルベルト。
「ほんま…あんなに手ごわい子ぉ初めてや。
伊達にブレイン本部長なんてやってへんわ」
と、言うアントーニョに、
「いや、手ごわいのはブレイン関係なくね?」
と、もっともな突っ込みを入れた。
まあアントーニョに言われるまでもなく、最近アーサーとロヴィーノは一緒に居すぎだと思う。
なにしろ毎日だ。
アーサーの恋人であるギルベルトとしても、あまり面白い状況ではない。
それでもギルベルトはアーサーと両思いであるという事実があり、実際に夕食と朝食は一緒に摂って、その時はアーサーも当たり前にギルベルトに全面的に甘えてくるし、夜には恋人同士がするような、いわゆる愛の営みのようなものもあるため、面白くないだけで焦りはない。
これがそういう関係でない頃に想い人が他の男と毎日一緒に居て自分の誘いを断り続けていたとしたら、さすがにめげるだろう。
そう考えると気の毒だとは思う。
「そもそも…あの子ら毎日昼食だけやなくて午後まで一緒になにしとるん?」
「さあ?」
「ギルちゃん、恋人が毎日昼から4時間も他の男とおって気にならへんの?」
そう、アーサーとロヴィーノは12時に待ち合わせて昼食後、午後4時くらいまで何か一緒にやっているらしい。
「まあ気にならないと言えば嘘だけど…浮気とかじゃねえし?」
「なんでそんなんわかるん?飯食うて1時間で残り3時間あったら、何戦かはできんで?」
泣きやんだかと思うと今度は口を尖らせるアントーニョに、ギルベルトは火に油かもなぁと思いつつ言い放った。
「毎晩身体確認してっし?
本人と俺様以外の匂いもなければ、怪しい痕も、“してきた”痕跡もなし。
そもそもがタマは体力ねえから、俺様以外とさらにやるなんて無理」
「爆発してまえ~~!!!!」
再び突っ伏すアントーニョ。
まあ…毎晩全身を見ているのは確かなのだが、それがなくても…
――浮気…はねえよなぁ……
と、思う。
ギルベルトは自分で言うのもなんだが、アーサーに関してだけは察しが良い方だし、顔色もわかる。
『タマ~、お前毎日ロヴィと何してんだよ?』
と聞いた時に、ちらりとギルベルトに視線を向けて
『別に…なんでもいいだろ…』
照れたように赤くなったのは、あれはたぶん…何かギルベルトにしてくれようとしているが恥ずかしくて言えない…そんな時の顔だ。
自分が誰でも良くてアーサーを選んだわけではないのと同様、アーサーにとっても自分が特別だと言うのはなんとなく感じる。
だからそういう意味では心配はしていないのだが…むしろアーサーが無理をしていないか、ブレイン本部長であるロヴィーノに何か無茶ぶりをされていたりしないかの方が心配だ。
そう言う意味では、これは…まあチャンスかもしれない…と、ギルベルトは脳内で計算をして思う。
自分が気にしたのがばれたらまずいが、ロヴィーノが気になるアントーニョに引っ張られて…なら万が一バレても大丈夫なんじゃないだろうか…。
「お前がどうしても気になるっつ~んなら、こっそりつければいいんじゃねえ?」
と、振ってみれば、
「それやっ!!もちろんギルちゃんも来るやんな?!」
と、案の定巻き込もうとするアントーニョ。
「え?俺様関係なくね?」
と、形だけ拒否してみるも、
「お姫ちゃん死なずに済んだのは誰のおかげやったっけ?」
と言われるのも予想通りである。
「それ言われると…」
と、渋々了承という形を取るのも計画通りだ。
「ほな、明日決行やで~!見つからんようにな~」
張り切って言うアントーニョの宣言でプチ飲み会というか、アントーニョの愚痴聞き会はお開き。
――まあ…タマに見つからねえようになんて無理なんだけどな…
アーサーが数百メートル先に針が落ちた音さえその気になれば拾える遠隔系ジャスティスである…と言う事は忘れ去っているアントーニョの言葉にそうは思うものの、それを言ったらおしまいなので、ギルベルトは空気を読んで黙っておく。
そう、ギルベルトにとって、大切な恋人が無理をしていないか…それを確認する以上に大事な事情などありえないのである。
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