だまして化かして恋をして7

少し悩んだ結果、スペインは迷わず今日の会議をサボることにした。

幸いにして今日の会場は国境近くだ。
自国内には割合と国境近くに別荘がある。


「そうや、ちょっと待っとってな」
と、スペインは立ち上がった。

大急ぎで部屋を出て医務室で睡眠薬を貰い、ジュースを買ってそれに混ぜる。


「これ…飲んどき」
と、部屋に戻ってジュースのグラスを手渡すと、イングランドはなんの疑いもなくそれを飲み干した。

あとは薬が効くのを待つだけ…と、スペインはイングランドの隣の再度腰を掛けて、小さく歌を歌い始めた。

それは…イングランドがまだスペインの国に慣れずに寝付けない時によく歌ってやった、懐かしい子守唄だった。



すっかり眠ってしまったイングランドをこっそり別荘に連れ込んで起きるのを待つ。

幸いにして会議後、悪友を招いて飲み会をしようと思っていて食材は運び込んであるので、それを使って食事も作った。

すやすやと眠る様子は本当にあどけなくて、何より、もう数百年こんな風に無防備な寝顔を見る機会はなかったので、懐かしい。


ああ…可愛えなぁ…と、思わず顔がほころんでしまう。

もう歴史どうでもええか。この子このまま親分と暮らしたらええんちゃう?…などと、ドイツあたりの真面目な国が聞いたら怒りのあまり吐血しそうな事を考えながら、スペインがイングランドを寝かせたベッドの端に腰をかけて、ひたすら目を覚ますのを待っていると、突然ボワンっ!と目の前のイングランドが煙に包まれた。

ケホッケホッと煙にむせながらも、イングランドに手を伸ばし、そこにちゃんと存在するのを確認すると、スペインは煙を逃がすために窓を開けた。


「なんなん、一体…」
と、窓を開けた後にまたベッドサイドに戻ると、そこには同じく煙にむせて咳き込んでいる現代のイングランド…もといイギリスがいる。


「あ、起きたんや。」
と、煙をかきわけながら言うと、イギリスは丸い目をさらにまん丸くした。

「…ここ……?」
「あ~、親分の別荘やで。自分覚えとる?昔のイングランドになっとったん」
と言った瞬間、さ~っと血の気が引いたところをみると、覚えているらしい。

「あ、あれはっ!エープリル・フールだからなっ!!!」

と、慌てているせいか本気で意味脈絡がない返事が返ってくるあたりが、時がたっても突発事項に弱いところは変わってないらしい。


「うんうん、なんや、嘘つこうと思って失敗したん?
めっちゃ懐かしい姿になっとったけど」

と笑うと、そうじゃなくてっ!!と、イギリスはさきほどまでよりは大きい…でもスペインからしたら若干小さく感じる白い手を握りしめて叫んだ。

「あれが全部嘘だっ!本当は騙そうとして騙してたんだっ!
だからっ…だから、…怒れよっ!!」

大きな目を潤ませて叱られた子どものような顔をしてそんな事を言っても全く説得力を感じない。

少なくとも記憶があったにしろなかったにしろ、あれは確かにスペインが知る数百年前のイングランドだったし、その手首に残っていた幾つもの縄の痕も本物だった。

何故今それを嘘だと言いたいのかはわからない。


――でも…嫌いな相手を前にして、こんな悲しそうな顔せえへんわな…。


KYキング…そう呼ばれていても、スペインは感覚的なモノを感じる能力は人一倍あった。

だから思った。

この子は自分から戻ってこれない子なんだから、自分のほうが迎えに行ってやらなければならなかったのだ…と。



「ほな、怒ってええ?詫びも入れてもらうことになるけど?」

油断すると浮かびそうになる笑みを必死に押さえてそう言うと、イングランドはビクっ!とすくみ上がるが、それでも

「…いいぞ…。覚悟はしてるから…」
と、気丈に返してくる。

プルプルと怯える様子が可愛い。
めっちゃ守ってやりたい感じである。


「親分な、あの時めっちゃ待っとったんやで?
こんだけ待たせて戻ってこんから親分の方から連れに来たんや。
罰としてこれからは仕事は極力持ち帰れるようにして、親分と一緒に暮らすんやで。

飯は親分が作ったるけど、毎日親分のために美味い紅茶いれること」


「へ??」

ぎゅっとつぶっていた目を見開いてぱちくりと瞬き。

その様子があまりに可愛らしくて、抑えていた笑みが零れ落ちた。


「あ~、もう、ほんま、自分は何百年たっても可愛えなぁ。
他に取られんかったのが奇跡みたいや。
とにかく…もう逃さへんで?自分は一生親分の嫁、親分の家族や」

幸せが心の奥底から溢れてくる。

まだ動揺しているイングランドを抱きしめ、スペインが耳元で

「あの頃は…まだ子どもで出来ひんかった事もさせてもらうから、覚悟しといてな」


と、低くささやくと、可愛い可愛い花嫁の白い耳が真っ赤に染まった。





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