「で?聞かせたって?ちょっと親分色々あって、今の自分の状況がわかってへんねん。
自分は今どういう状況なん?」
スペインはイギリスをソファに座らせた上で自分も隣に座り、その肩を抱くと顔を覗きこんでくる。
とにかくスペインの同情を引いて、何かあっても止めてくれるであろう他の国々が来るまで身の安全を確保しなければ…と、イギリスは脳内で台本を書いていく。
もちろん、嘘をつく時は全てを嘘で塗り固めたらバレるというのが持論なので、ところどころに真実を織り交ぜるのは必須だ。
「ベスの…女王の戴冠式のために戻って欲しいっていうの、アレ嘘だったんだ。
でもっでも俺知らなかったっ!本当にそうだと思ってたんだっ!
戴冠式が終わったらちゃんとエスパーニャのとこに戻るつもりでっ…」
と、さっそくイギリスはそこでぎゅっとスペインのワイシャツの胸元を掴んで訴える。
スペインが信じようと信じまいと、これは完全に本当の事だ。
ここで疑われたらもうどうしようもないのだが、幸いにして信じてくれたようである。
「ああ、そうやろな。大丈夫。そんなことやろうって思うとったから、安心し」
と、スペインはなだめるようにイギリスの背をポンポンと軽く叩く。
その声音には最近にはない、親しい者に対する親愛がこもっていて、胸の奥がツキンと痛んだ。
「ごめん…ごめんな、エスパーニャ。
俺、何度も帰ろうとしたけど、ダメだった」
「ええよ。こっちも何度も迎えよこしたんやけどな、返されてもうて、手ぇこまねいとったんや」
と、そこで初めてスペイン側からも迎えを寄越してくれていた事を知り、当時のスペインの自分に対する愛情を思うと、その後の事にいたたまれない気分になる。
怒られるのを回避する方向でいたのだが、新たに発覚した事実に、なんだか全く責められないのも落ち着かなくなってきて、イギリスはやっぱり元々出す予定にしていた話題を出してスペインの不快感を煽ることにした。
それは思い出すたびスペインは腸が煮えくり返る気分になるであろう話題…海賊…。
ちょうどこの頃それに加担していたと知れば、この姿に怒りも湧いてくるだろうし、嫌味や恨み事の1つも言いたくなるだろう。
「…あの…あのなっ…帰りたいっていうのもあったんだけど、俺エスパーニャに言わないといけないことがあって……でも……言ったら…さよならだ…。
エスパーニャはもう…俺が嫌になる……」
そこで語って怒りを受け止めようとスペインと視線を合わせようと顔をあげたが、スペインの視線はスペインの胸元…シャツを握るイギリスの手を見て固まっている。
「…エスパーニャ?」
不思議に思って首を傾けると、あの頃より大きい褐色の手が、震えながら少年期のイングランドのまだ細い手首をそっと撫でた。
「…これ…どないしたん?」
と言われて視線を落とせば、いい加減何度も縄で縛られたため痣やかさぶたになった手首のあたりに、ミミズ腫れのような痕。
なんだっけ…と、記憶を探って思い出した。
ああ、そういえば縛られた痕が痒くて掻きむしっていたら伸びた爪のせいで切れてしまって、ひどい傷痕になってしまった時期があった気が…。
それを知ったエリザベスにひどく怒られて、しっかり治るまで包帯を巻かれて、爪も定期的にチェック、切られた気がする。
それをどう説明しようか…と、思っていると、いきなりギュッと抱え込むように抱きしめられた。
「…海賊の事やったら…知っとるから心配せんでええよ?
親分こう見えても一度はほとんど異教徒に占領されても消えずに今こうして大国になったくらい打たれ強いからな。
小国にちょっとくらいじゃれつかれたくらい何でもないわ。
それより…イングラテラ、自分を大事にせなあかんよ?
今すぐは無理でも、いつか絶対に迎えに行ったるから…」
なんだか泣かれているらしい。
何がそんなに泣きどころだったのかよくわからず、イギリスはスペインの胸元に押し付けられたままの状態で首をかしげた。
「そうや、ちょっと待っとってな。」
と、唐突に立ち上がるスペイン。
展開についていけず、ただただ頭にはてなマークを浮かべるイギリス。
「これ…飲んどき。」
と、戻ってきたスペインが手にしていたのはジュースのグラス。
何がなんだかわからないが、とにかくイギリスが可哀想に思えて、甘いものでもやりたくなったのだろうか…。
とりあえず…それで気が済むなら…と思って礼を言ってグラスの中身を飲み干すと、スペインは再度イギリスの隣に腰を掛けて、小さく歌を歌い始める。
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