「うわぁ。良かったぁ。
これで王子様とアーサーはめでたしめでたし、幸せに暮らしたんだね?」
夜…小さな子どもが二人並んでベッドに横たわっている横で、ギルベルトは椅子に座って寝物語を聞かせている。
忙しい親類から預かっている柔和な少女のような顔立ちの子どもは、その結末にホッとしたように目を細めて笑った。
で、昔々遠くの国で世界の半分を征服したっていうマケドニアって国の王様みてえに、この国の王様も祖国は兄貴と東国から来た兄貴の恋人の少年にまかせて、自ら戦場にでて他国を制圧して、その文化を取り入れると同時にその国が落ち着くまではそこにいて、また次の国へって転戦してるんだ。
今どのへんに居っかなぁ。
色々な国で料理習って自ら調理してアーサーに食べさせてやってるって聞いてるぞ」
と、ギルベルトが言うと、子ども、フェリシアーノはまた、すごいねぇ、幸せで良かったねぇと素直に喜ぶ。
しかしその隣、ギルベルトの弟のルッツは難しい顔で眉を寄せている。
「でも兄さん、この話は変じゃないか?」
「ん?何がだ?」
「片方のガラスの靴だけ魔法がかかったままなのは不自然だ。
0時までしか魔法の効果が持続しないなら、ガラスの靴だって元のボロ靴になってるはずだろう?」
「お~、ルッツ、良いところに気づいたな。そのとおりだ」
普通なら可愛げがないと一掃されるそんな質問に、ギルベルトは顔をほころばせて弟を褒める。
「魔法使いはな、別に0時までしか魔法をかけられなかったわけじゃねえ。
わざと0時に魔法が解けるようにしたんだ」
「どうして?ずっと居られるようにすれば良かったのに」
とそこで口を挟むのはフェリシアーノだ。
そうしたら慌てて帰らないでも良かったでしょう?という素直な子どもにもギルベルトは微笑んだ。
「ん~、人間て逃げられれば追いたくなるもんだからな。
誘われるままホイホイ長居する奴より、もう少し一緒に居たいくらいの所で切り上げられると、よりまた会いたくなるもんなんだよ。
だから魔法使いはわざとアーサーを早く帰らせて、でもアントーニョがアーサーにちゃんとたどり着けるように、ガラスの靴だけ残したってわけだ。
アントーニョはアーサーを好きになるって言うのはわかってたけど、よりその仲を強固に確実にするためにな」
なにしろあいつはプロの愛の魔法使いマジカルフランシスだからな☆
「なるほど…そういう駆け引きだったわけだな。
相手をより惹きつけたければ、少し足りないと思うくらいのところで引いておく…わかった。兄さん、覚えておこう」
「おう、一見不自然に思える他者の行動の中には、時に深い教訓が含まれていることがあるからな。
常に物事は注意深く観察し、自分の頭であらゆる可能性を考えていけよ」
「わかった。」
城内の一室で寝物語に難しい顔で頷く幼児に、訓説を垂れる兄。
それを窓の外から眺める影…。
「本当に…世紀の大ロマン物語になんて色気のない解説つけてくれちゃうのかしら。
これだからギルちゃんは童貞なんだよね…」
やれやれと小さく首を振る美と愛と魔法のお兄さんのそんなため息が、静かな夜空に溢れるのだった。
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