まずパーティーの出席者リスト確認から。
しかし当然それで見つかるようなら逃げ隠れはしないだろう。
当たり前に出席者の中には該当者はおらず、次にアントーニョが取った行動は悪友の魔法使いを呼び出す事である。
【美と愛と魔法のお兄さんマジカルフランシス】(自称)というすね毛を晒した髭の変態(アントーニョ談)だが、腐っても魔法使いだ。
何かわかるかもしれない…。
――…一応さ、願いを叶えられる系の優秀で美しいお兄さんを、願いがあるわけでもなく、こんな事で呼び出すのはお前くらいだよ?
と、しばしば呆れられたものだが、フランシスが叶えられる願いというのは物理的に物を出すくらいで、アントーニョの立場を変えたり人の心を動かしたり出来るわけではないので、家臣に命じれば大抵の物は普通に出てくるアントーニョにとっては全く意味は無いのだ。
だから今までは遊び相手以外の要件で呼び出した事はなかったのだが、いまこそ魔法使いとして役にたってもらおう。
このガラスの靴の持ち主である少女を探してもらうのだ。
こうして
「フラン、来いや~。出番やで~」
と、ゴシゴシと乱暴にこするランプ。
「はいはい。今度はなあに?酒盛り?女性談義?
厨2病ごっこやチャンバラごっこなら、お兄さんの担当じゃないからね」
と、魔法使いとは思えないような言葉を吐きながらランプから飛び出すフランシス。
その鼻先にグイっとガラスの靴をつきだしてアントーニョは言った。
「今日は遊びとちゃう。人探しや。
この靴の持ち主を探したって」
「…この靴って……」
呼び出されて即、より目になりそうな位置でそれを凝視させられて、フランシスは内心ほくそ笑んだが、あくまで知らないフリをする。
「昨日のパーティーで親分の大事な子ぉが落として行ってん」
「ふ~ん…大事な子がねぇ…。で?見つけてどうすんの?
その子どこの子かわかってんの?」
「わかってたらわざわざ聞くかいっ。
自分で連れに行っとるわ。
そんでもって…側に置いて可愛がって可愛がって可愛がって…美味いもんいっぱい食わしたるんやっ」
と、アントーニョが昨夜の出来事を話して聞かせると、フランシスは、なるほどねぇと言ってニヤリと笑ったあと、一言
「お兄さんには教えられない」
と言い切った。
すると、とたんに目の前に突出されたのは古びたランプだ。
「これな、少し力を入れたらグニャっていくで?
もちろんその後は国中から古びたランプかき集めるお触れを出して、城の中庭でランプ溶解パーティーもええなぁ。
ああ、もちろん自分を中に戻してからな」
「ちょ、やめてよっ!何それ怖っっ!!! 」
目がマジだ。据わっている。
そういえば…国内では明るくて爽やかで大らかな人物として名高いこの皇太子は、国外では逆らう者は国ごと容赦なく踏み潰す、もっとも苛烈な侵略者として名高いのだった。
飽くまで逆らえば本当にやる。絶対にやる。マジでやる。
世界の魔法のお兄さんは自らの身の危険と使命を天秤にかけてみる。
そして…ほんのわずかに勝った使命。
でもこれでダメなら危ないから言うこと聞いちゃおうかしら…と思いつつ、おそるおそる言ってみた。
「だってね、本当に大切な子なら、お前がお前の手で探しだしてあげないとダメでしょ?
お手軽に魔法で探しだしちゃう程度の気持ちなの?」
一応そろりと距離を取ってみたりしたが、良くも悪くも思い込みの激しい男である。
「そうやな。親分の手で探しだして迎えに行ったらんとあかんやんな」
とコトリと人質になっていた古びたランプをテーブルに置いた。
そこでフランシスはホッとしてソッと手を伸ばすとそれを念のため確保する。
「一応ね、ヒントだけあげる。
トーニョのお姫様の衣装ね。全部元々の服を魔法で豪華に変えたものだから。
お兄さんに言えるのはそれだけ。じゃっ!!」
と、フランシスはいきなり魔法の絨毯に乗って遁走した。
「ちょ、自分なんか知っとるんかっ?!!!」
と、追いかけるも後の祭り。
窓から飛び出した絨毯を追いかけるすべなどあるわけもなく、アントーニョはそれを呆然と見送った。
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