俺様の俺様による俺様のための教訓的シンデレラ3

なんとかパーティーに行く方法はないだろうか…そんな事を思いながら1週間。

とうとうパーティー当日になった。


ギリギリまで連れて行かないフリをしていたけど、実はね、嘘だよ~ん☆

ちゃっちゃとこれに着替えておいでっ。

  
……なんて奇跡は起こるはずもなく、母親と兄3人はアーサーを一人置いて、馬車に揺られて城へと出かけていった。



「あ~あ…俺も行きたかったな…」

と、それを見送ってため息をつくアーサー。


今日もお腹がペコペコだ。

腹立ちまぎれに乱暴に箒で棚の周りをはいていたら、ついつい箒の柄が棚にあたって、上から年代物っぽいランプが落ちてきた。



「やば…傷とかついてないよな。」

と、慌ててそれを拾って、表面を確認し、丁寧に自分の服の袖口で拭うと、なんとランプはアーサーの手から飛び出し、ぽわん!と間の抜けた音と共に白い煙に包まれる。

そして…なにかヒラヒラした布切れが目の前を舞う。


美と愛と魔法のお兄さんマジカルフランシス登場☆

と、薄れた煙の合間から見えたのはふわふわの七分丈のローブから伸びた毛むくじゃらの足。


サラサラの蜂蜜色の髪も海のように深いブルーアイズも全体的な顔立ちも、まあ悪くはないのだが、髭…そう髭が全てを台無しにしていると、アーサーは思った。


そして言う。

きっぱり言う。

断固として言う。

チェンジ!


ちょぉ~~っと待ったあぁぁ!!!!

慌てる変質者。

いや、本人いわくは”魔法のお兄さん”らしいが、人の家にいきなりランプから登場して髭とすね毛を晒していたら十分変質者と思って間違いないだろう…と、そんな失礼な事を考えているアーサーに、変質者もといマジカルフランシスは、ふふ~んと片手を腰に当て、


「お兄さんにそんな事言って良いのかな?」

と、片手の指を一本たてて振ってみせる…が、ドゴっ!とアーサーに思い切り脛を蹴り上げられて床に転がった。


「ちょ、坊っちゃん、なんでそんな凶暴なのよっ!!」

「うるせえっ!こちとら腹減って気が立ってんだッ!
衛兵呼ばれないだけありがたいと思ってさっさと消え失せろっ!!!」


ああ、無駄なことで体力を消費してしまった…と、アーサーがくるりと反転して倉庫を後にしようとすると、

「いいの?」

と、後ろから男の声がかかった。


いいの?お城のパーティーに行かなくても…


ピタッと足が止まる。

クルリと反転。



城のパーティー?行けるのかっ?!


なんてわかりやすい、さすがに子どもだねぇ…などとニヤニヤしていたら、また蹴られた。

容赦無いお子さんだと思う。

…が、その目が切実な光を帯びているのに気づいて気を取り直す。

ここは美と愛と魔法のお兄さんの腕の見せ所だ。



「お兄さんはランプに住んでる美と愛と魔法のお兄さん、マジカルフランシスだよ♡
今日は坊っちゃんの願いを叶えてあげるよ♪お城のパーティーに行きたいんでしょ?」


なんて事を言われたとて、それで素直に喜べるほどお幸せな脳みそは持ちあわせてはいない。


「物理的には歩いてだって行けるんだよ。
でもこんな格好で行ったって追い返されるのがオチだろう?


元は白かったシャツは暖炉の煤で灰色になっている。

もう洗ったって落ちやしないのだ。

ズボンだって元々グレーだといっても擦り切れてボロボロだ。

靴だってひどい有様。

街のいたずらっこ達だってもう少しマシな格好をしていると思う。


一応王子様の仕事などを手伝う公私にわたるパートナーを探すパーティーなのだ。

こんなこ汚い子どもが行ったって入れてもらえるわけがない。


そううつむくアーサーに向かって、フランシスはウィンクをした。


「だ~か~ら、お兄さんは魔法のお兄さんなんだよ?
綺麗な服を出すくらいお手の物だよっ」

と、にこりと笑い、魔法の杖を振り上げると、魔法の呪文を唱える。

――ビビデバビデブ~☆


ほわほわと白い煙に包まれるアーサー。

それまでと違う肌触りの服に、これはっ!!と思うものの、足元が何かスースーする。



「……おい……」

煙が霧散したあと、こめかみに青筋をたてて佇む少年一人。



「可愛いでしょ☆」

可愛いでしょ☆じゃねえええぇぇ~~!!!!!



ペパーミントグリーンのふわっふわのドレスに長い髪。

金色の繊細なティアラの中央には瞳の色と同じペリドットの飾りがついている。

しかしそれを身につけているのは紛れも無く少年、アーサーだ。


「これでどうやって城に行けって?!馬鹿かっ?!それとも喧嘩売ってんのかっ?!!」

見かけは可愛い少女だが、中身が変わっているわけではなく、地団駄を踏むアーサーに、フランシスは蹴ったり殴られたりできない程度の距離を取りながら、チッチッチッというように顔の前で指を振った。


「だって、男のままで正装なんてして行ったらお母さんやお兄ちゃん達にバレてあとで困っちゃうでしょ?ご飯食べるだけなら、この方がバレないでいいじゃない。」

「なるほど。」


ご飯と女装の恥を天秤にかけたなら、育ち盛りのお子様としてはご飯に大きく天秤が傾く。

仕方ない。この際ちゃっちゃと食べてちゃっちゃと帰るべし。



「仕方ねえっ!我慢してやるから、さっさと城に運べよっ!」

「…坊っちゃん……ま、いっか。
とりあえず馬車は用意するけどね、これだけは気をつけて。
夜中の12時には魔法がとけちゃうから、それまでには戻ってこないとダメよ。」

「おう、それまでには腹いっぱい詰め込んで早々に戻ってくるからっ」

「…せっかく可愛い格好してるのに色気がない……」

と嘆くマジカルフランシスをガン無視で、アーサーは用意された馬車に飛び乗った。



…というわけで、こうして女装で食事をするはめになったのである。



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