ローストチキンにローストビーフ。
生ハムメロンにサーモンのマリネ。
綺麗な色合いの各種テリーヌに涼し気に光るアスピック。
見目麗しいケーキの数々にフルーツも多数。
全部食べたい…出来ることなら持ち帰って明日の食事にもしたい。
が、こんなお城のパーティでさすがにタッパーで持ち帰るわけにもいかないので、ここは思案のし時である。
どれも普段…特に父親が再婚した数年前からは口に入る事など皆無だったご馳走の数々。
減れば奥から新たに出てくる食べきれない量に対して自分の胃の量は残念ながら有限だ。
さあ考えろ…後悔のないように……
「野菜も食わなあかんよ~。ほらこれ、美味いから騙されたと思って食うてみ?」
いつのまにやらそこに真っ赤な小さいトマトが添えられる。
よもや皆が王子の周りに群がっている中、ひっそりと料理に張り付いている自分に注目しているような人間がいると思わなかった。
びっくりして振り返ると、そこにはにこにこと人懐っこい笑みを浮かべる男が一人。
「このトマトはめっちゃ美味いんやで~。ほんま食うてみ」
トマトならかろうじて普段でも食べられる時は食べられる。
そんなものを食べている時ではないのだ。
そう主張したかったが、その暇も惜しい。
小さなプチトマト一つで腹が膨れる事もあるまい。
うるさい男を追い払うためにと、アーサーはしかたなくその赤い実を口に放り込んだ。
ツルリとした表面に歯をたてて噛みしめれば、甘い甘い果汁とかすかな酸味が口の中で広がる。
「甘いっ!」
思わず笑みが浮かんでしまうくらい美味しいそれに、男は
「そうやろっ?!」
と、本当に嬉しそうな…太陽のような笑みを浮かべた。
そこであらためて男に目をやると、キラキラ光るエメラルドの瞳。健康的に焼けた褐色の肌。笑うと白い歯がきらりん☆なんてもうそれはそれは絵に描いたようなイケメンだ。
こんなところで男の自分に構ってる暇があったら、その辺の令嬢でもナンパしてろっ!
…と思ったが、考えてみれば自分は今レディなのだった。
深い深い事情はあるものの、確かにレディの格好をしている。
もしかしてこれはナンパか?ナンパなのかっ?!
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