「大丈夫やで。親分が守ったるから、もう大丈夫やで。」
声をかけながら、スペインは自船に戻ると医者を呼ばせた。
そして…こうして連れて帰られた少年の方も、よもや風邪でふて寝している間に海賊が壊滅し、敵の総大将に救出という名の元、拉致られているなどとは、夢にも思ってはいなかったのだった。
強い睡眠薬を飲まされているのだろう。
自船に連れてきてベッドに寝かせて医者に診せても全く目を覚ますことのない少年を前に、スペインが同行させていた自慢の名医は、海賊船で与えられていた副作用の強い安い薬とは違い、効果は高いが副作用が出るほど強くはない…その代わりそれなりに良いお値段の薬を処方すると、スペインにそう言って部屋を出て行った。
あまりに被害が減らない海賊船の襲撃にしびれを切らせて自ら商船に乗って討伐に出て数日。
ようやく遭遇した海賊船の奥には、いとけない天使が閉じ込められていた。
まわりじゅうが悪趣味なまでに金がかけられた部屋な中、逃げられないようにだろうか、一番奥の、ドアだけはやけに頑丈な小さな部屋のベッドの上で、スペインからすると碌でもない安物の風邪薬1つ与えられただけで、高熱にうなされていた。
スペインが助けださなければ、この子は人質として刃を向けられた状態で自分達の前に突き出されていただろう。
可哀想に…という子どもへの同情と、こんな天使のように可愛らしい、しかも病に侵された少年をそんな用途で使うために拉致していたらしい海賊への怒りでスペインの心は占められていた。
とりあえず消化に良さそうな物を使用人に命じると、スペインは少年を寝かせたベッドの端に座って、その顔を覗きこんだ。
「かっわええ子ぉやなぁ…。ほんま天使みたいや。」
柔らかい布で額の汗を拭いてやりながら、目を細める。
イングランドのように人間の都合で神を歪めて変える国もあるが、本当の神は唯一だ。
そしてその神はこの神の国スペインと、このような全ての汚れない純真無垢な子どもの上にある。
こうしてこの子が自分と巡りあったのは神の思し召しだ。
神の元に悪事は栄えたりはしないのである。
そうしてどのくらいの時間がたっただろうか…。
丁度食事が届いて、温かなシチューが良い匂いを漂わせ始めた頃、少年のまぶたがぴくりと動く。
…おおっ……
ゆっくりと開いた金色のまつ毛に縁取られた瞼の下から出てきたのは、綺麗に透き通った淡いグリーンの、驚くほど綺麗な瞳だった。
「おはようさん。気分はどない?ご飯食べられそうか?」
太陽のような…とよく称される人好きのする笑顔を意識して顔にはりつけてそう問えば、ぼ~っと焦点が合わなかった瞳がぼんやりとスペインをみつめ、驚きに目が丸くなる。
…かみさま…?…
口だけ動く。
声にならない声がする。
声が出ないのだろうか……
いや、そんなことはどうでもいい。
この子にとってきっと今までの環境は過酷なもので、今のこの状況が信じられないのだろう。
その結果が…これは神の計らいである…ということなのか。
なんて純真でなんて可愛らしいのだろうか…。
ああ、神よ、自分にこの子を託してくれてありがとうございます。
スペインは胸元のクロスに片手を添え、自分をこんなにも清らかで可愛らしい子どもを保護する者として選んでくれたのであろう神に、深く深く感謝した。
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