「親分、海賊が見えましたっ!」
「よっしゃっ!今日という今日は許さへんっ!根絶やしにしたるでっ!!」
「お~!!!」
海賊…というからには無頼の輩。
国家とて制御出来ないというのはある程度は仕方ないが、帰船する港を閉鎖するなり多少なりとも取り締まりを強化するなり出来ないものだろうか…と、その国を束ねる女王に何度も言っているのだが、自分の制御下にはないものだからと、のらりくらりとかわされ続け、スペインは彼の国に期待するのは無駄だと諦めた。
海賊の祖国が取り締まらないなら、海の覇者、覇権国家スペインの化身の自分が自ら取り締まってやろうじゃないか。
そう思い立ったのは当然の成り行きである。
かつてレコンキスタの頃は自ら戦斧を引っさげて先頭に立って戦ったものである。
まだまだ海賊なんかに負ける気はしない。
こうしてお忍びで数人の手練の部下と共にスペイン商船に乗り込む事数日。
スペインはとうとう海賊船に遭遇した。
「親分かて他にやることあるし、モグラ叩き的にポコポコ沸いて出る海賊を倒すためにずぅ~っと商船にこもるわけにはいかん。
せやから徹底的にやるでっ!
海賊は皆殺し、情け容赦はせん。
他がおそれをなしてこんな事やめとこ思うくらいに徹底して叩き潰すで!」
ブン!と軽々戦斧を振り回す国体の頼もしさに、船員達から歓声があがる。
こうしてそんな罠とも知らずに接近してきた海賊達。
飛び出してきた恐ろしく強い男の前に混乱を極めた。
バッサバッサと数を重ねていく海賊の死体。
スペインの国軍の中でも選りすぐりの者を連れてきたため、小一時間でスペイン側の有利は決定的なくらいの戦力差になった。
そんな中で部下に囲まれていた頭らしき人物が船の奥に逃げていくのが目の端に止まったスペインは、
「ちょ、ここ任せたわっ!」
と部下に言うと、それを追う。
これが陸地であるならば、抜け道逃げ道の類もあるだろうが、あいにくここは海の上である。
よしんば脱出用の小舟でも用意してあったとしても、スペイン船の方に残っている者達に気づかれて、大きな船で追われたならば、逃げ切るのは不可能だろう。
頭に付き従っている側近も同じ事を思ったらしい。
スペインが追いかけているとは気づかず
「お頭、こっちは奥ですぜ?逃げたところで追い詰められて終わりでさあ」
と進言している。
しかしそれに対して、いかにも海賊と言った感じの浅黒い顔にもじゃもじゃの黒い髭を生やした中年男は
「こんな時に利用するために置いといた奴がいんだよ。役に立ってもらわあ」
と、にやりと悪い笑みを浮かべた。
(なんや、それ…)
これだけ戦力差が出てる今、よほどの手練が投入されたとしても、それがひっくり返るとは到底思えない。
一体何を隠しているのか……。
それを探るために足音を消して海賊達についていく。
なんやろ…もしかして猛獣の類でも飼っとるのか?
廊下を奥に進むにつれてあたりは豪奢になっていく。
おそらく幹部の部屋が連なるあたりなのだろう。
ドアも高級なマホガニーなどに変わり、下も紅い絨毯が敷き詰められている。
そんな中を走り抜けて最奥。
ドアの前で海賊の頭が大きな鍵束を取り出した。
(よし、あそこやなっ!)
それで戦局がひっくり返るとは思えなかったが、何か隠し玉があるのなら、それを出されて味方の被害をふやすこともない。
「道案内ご苦労さんやな」
パッと飛び出てにこりと笑い、スペインは戦斧を思い切り振り下ろした。
飛び散る血しぶき、倒れる死体2つ。
ガチャリ…と、その1つ、頭の手に握られた鍵束がたてる音に、スペインはその手から鍵束を奪って目の前のドアに目をやった。
ここまで来るまでに通った部屋のドアとは違い、拍子抜けしそうなくらい飾り気のない普通のドア。
「やっぱり動物系か…」
と、鍵束から一番質素な鍵にあたりをつけて鍵穴に差し込めば、当たりだったらしくカチャリと鍵が開く音がする。
この部屋自体が檻になっていてドアを開けたらいきなり襲いかかってくるなんて事はないだろうが、スペインは若干の緊張感を感じながらそろりとドアを開けて中をのぞき込んだ。
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