空は快晴。海も程よく波があり、風が心地よい。
「船を見つけたぞ~~!!」
とマストのてっぺんで叫ぶ手下の声に、海賊の頭は、船の奥まで足早に走っていった。
そうして船の最奥の部屋のドアをノックする。
この部屋の隣の自室など、金銀宝石で飾り付けられていて、本人は豪華で良いと思っているが、はたから見るとセンスの悪い成金趣味と思われかねない。
まあ海賊の頭に洗練されたセンスなど求めても仕方ないわけだが…。
それに比べるとこの最奥の部屋はドアこそ丈夫だが、中はなかなか質素なものだ。
部屋の主はなんと自分達の祖国の化身だという。
丁重にお迎えしろと言われているのでそうしているわけだが、見た目はどう見ても可愛らしい12,3歳くらいの少年だ。
まあどことなく懐かしいような気がするので、嘘ではないのだろう。
そこで丁重に豪華に部屋を飾り付けてみたら、やめてくれと言われた。
あれも取れ、これも取れと言われて全てを取り去り、もう少しシンプルなモノに…と言われて家具も替えたら、ここまでの部屋の豪奢さと相まって、なんだか妙に質素な部屋になった。
が、本人の希望なので仕方ない。
国情がその身体に影響するということで、数年前の代理戦争の傷跡のためか、万年体調不良のこの少年。
それでも弓の1つでも握らせれば百発百中。
えらく強い。
そのくせいくら外に出て海上の強い日差しを浴びても雪のように真っ白なままで、手だってフォークより重いものを持った事はございませんとばかりに小さく柔らかい。
それで頭はさらに納得した。
怪我をしても結構すぐ治ってしまうとの噂の国体だ。
おそらく人なら変わってしまうような外からの影響を受けにくくできているのだろう。
こうして国の偉い人からの命令と自分達の身の安全を理由に、本土から覇権されてきたこの少年はこうして船の奥、丁重に丁重に滞在して頂いている。
機嫌を損ねればあの強さ、国の偉い人に訴えられる前に弓で射殺されるかもしれない。
だから気の利かない部下達には任せない。
報告するのも命令を承るのも全て頭自ら行っていた。
今日の報告はさっき部下が見つけたスペイン商船だ。
このところのイングランドの国の大きな収入源は自分達海賊の手で強奪するスペイン商船のあがりの一部だ。
海賊達は秘密裏に寄港する港、様々な情報などを国から提供され、その身分は保証され、その代わりにあがりの一部は税金として国に納めている。
一度入れられたら二度と生きては出てこれないと言われるロンドン塔に放り込まれて育ち、女王である実姉の死によってそこを出て女王の座についた悪運高き現女王。
その強かな女王の政策である。
これまでは自分達を追い、取り締まっていた国の側からのこの申し出に最初こそ『おいおい』と思ったのだが、始めてみるとこれが意外にやりやすい。
表向きは自分達の監視だが、実は国に二人のトップがいるのはやりにくいからでは?と思われる理由でこの船に滞在中のこの国体様とて、普段は大人しく部屋で刺繍なんざ刺してるだけなので、時間通りに食事を出し、こうして商船が見つかった時だけ参戦するかのお伺いだけたてていれば、他は全く手がかからないので無問題だ。
「祖国様、スペイン商船がみつかりやしたぜ。
今日はどうします?」
と、ドアの外から問うと、中からは実にのんきな声音で
「あ~、お前らだけでやっちまえ。俺は寝る。」
と、返ってきたので、
「へい、それでは」
と、頭は見えはしないのだがドアの向こうへ一礼して、また足早に船の甲板に戻っていた。
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