コードネーム普憫!腐女子から天使を奪還できるか?!3章_8

「アルトっ!平気か?!!」

ぎゅうっと抱きしめられて見上げると、見慣れた端正な顔。
窓を割った時に切ったのか、頬にツーっと傷が出来て、赤い血が滲んでいる。


なんで…と思う。

まるでドラマでヒロインのピンチに危険を顧みずに飛び込んでくるヒーローのようだ。
ヒロインでもないただのダミーの恋人のために何故ここまでするんだ…。


もう色々混乱するばかりで、アーサーはとりあえず手首の所で縛られているため自由にならない両手を伸ばして、ギルベルトの頬の血を拭った。


「お前バカだろっ!せめて何かで窓割ってから入ってこいよ。
こんな怪我してホント馬鹿だろっ!!」

元々は自分の姉が迷惑をかけたのに、その姉から自分を守るために一緒にいてくれることになった…そんな関係だ。
迷惑しかかけてない。
それを自分なんかのために怪我をさせた…と思うと、申し訳なさでいっぱいになる。

なのに嬉しくて…他の誰でもないギルベルトが助けに来てくれた事が嬉しくて、そんな風にさらに迷惑をかけているくせに嬉しくてたまらない自分が申し訳なくて、頭の中がぐちゃぐちゃになった。

お人好しにもほどがある…そう思って思わず言うアーサーにギルベルトは真面目な顔で

「俺様が怪我するくらい全然良いんだよっ。
アルトが…無事で良かった」

と、温かい手で冷え切ったアーサーの頬に触れ、

――本当に…無事で良かった…
と、次の瞬間ぎゅうっと腕の中に抱きこんだ。

冬の冷たい空気と…クールなのにどこか優しく包み込むようにホッと心が温かくなるようなギルベルトの匂い……

スン…とそれを吸い込むと、すごく…すごく安心出来る。

あまりにホッとして、ああ、もう大丈夫なんだと思うと嬉しくて、助けに来てくれたのなんて本当に嬉しすぎて、もう色々いっぱいいっぱいで、アーサはまたブワっと涙が溢れてきた。


「待ってた…すごく待ってたんだ…」
そう言って厚い胸に額を擦り付けると、

「遅くなって怖い思いさせちまって勘弁な」
と、ギルベルトはまたぎゅうっとアーサーの背に手を回して抱きしめた。




その後誘拐事件ということで警察が介入。

事情を一通り聞かれて開放された後、アーサーは初めて姉達も来ていた事に気づいた。

しかし姉が近づいて来ても、ギルベルトはぎゅっとアーサーを抱きしめたままだ。


そして少し眉尻をさげて、

「…悪い……。今日はアルト、俺様ん家に泊まらせて良いか?
ちとまだ実感わかなくて……今回は本気でダメかと思ったから……
側にいねえと無事だったのが夢だったのかとか思っちまいそうで…」
と、姉に言う。

一応姉も実の姉弟なわけだから全く心配をしていなかったわけではないだろうが、それでもおそらくはギルが今回の救出劇の一番の功労者な事と…あとは自分の趣味もあるのだろう。

姉がそれを了承して、アーサーはギルベルトのマンションに帰る事になった。




こうしてギルベルトにしっかりと手を引かれてギルベルトのマンションに向かうと、かつて知ったるそのマンションの前で何故か桜が待っていて、何やらギルベルトに袋を渡してから、アーサーに駆け寄ってきた。


ぎゅっと抱きしめられるといい匂いがする。

「無事で良かった。幸せになってね。」

と、何か別れのような言い方なのが気になったが、自分も色々ありすぎて思考がまとまらないのもあって、ただ

「ありがとう。」
と返すと、桜は帰って行った。


アーサーはそれを見送ると、
「さ、アルト、うちに帰るか…。」
と言って差し出されるギルベルトの手を取って、ギルベルトのマンションのエントランスのドアをくぐった。







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