「結構みんなあっさり信じたな」
片付けまでロマーノやベルギーなどがしっかりやっていってくれたため綺麗に片付きすぎてて、昼間に賑やかだったのもあって、ガランとした室内。
イギリスはスペインが入れてくれたホットチョコレートを飲みながら一息付いている。
と言いつつ自分もホットチョコレートのマグを片手にイギリスの隣に座るスペインだが、その言葉はフラグクラッシャーの前には通じなかったようだ。
「で?信じたのは良いけど、お前これからどうすんだ?
あれは嘘でしたって謝って回るのか?」
と来た。
ああなんて手強い…とスペインはため息をつく。
それでもここでフラグを折られて終わるなんて選択はない。
折られたら立て直すまでだ。
なんのために日本と共謀して頑張ったと思っているのだ…。
提案は日本からだった。
イギリスを幸せにしたい…そのために心から愛し合える相手を…という話が出た時は正直驚いた。
聡い日本のことだからスペインの気持ちくらいは気づいていたかもしれないが、そういう意味ならイギリスを好きな相手はいくらでもいる。
「なんで親分なん?」
思わず聞き返してしまった。
「気心知れてる言う意味ならフランスとかポルトガルとか色々おるやん?」
と。
悔しいがアルマダ以来…いや、フランスとの代理戦争あたりから始まってはいたか……国情で距離が出来てしまった自分とは違って、喧嘩しながらもなんのかんので協商まで組んで地続きになるトンネルまで開通したフランスや、自分がフランス側につかざるをえない時もずっとイギリス側に付くことが出来て、いまだに同盟が続いているポルトガルの方がどう考えても距離が近い気がする。
「おや?お嫌ですか?」
と、苦い顔をするスペインを前に涼しげに笑ってみせる東の島国は国策としては器用とは言いがたいが、国の化身の方はさすがに自分より長い年月を生きているだけに強かだ。
「わかっとるんやろ?嫌なはずないやん。
そりゃあ喉から手が出るほど欲しい地位やけど…。」
「大事な事だから慎重に…ダマされるのは絶対にごめん…ですか」
クスクスと笑う童顔な老国。
「…国の化身の首へし折るとかしたないやん」
「おやおや、怖い」
「もう…からかわんといてや。
他ならええけど、絶対に遊ばれたくない部分くらい親分かてあるんやで?」
他の国相手なら癇癪を起こして殴り倒しているかもしれない。
だが目の前の島国はスペインの想い人が大事に思っている親友だ。
手をあげたら最後だ…と、こらえて握りしめたこぶしが白くなる。
それにチラリと視線を落とし、日本はようやく笑うのをやめて、静かに目を伏せて語り始めた。
「フランスさんは…イギリスさんの事をわかってある程度は優先しても、自分や自国の事情を超えては優先なさらない方です。
あの方は自由ですから。
通り一遍以上に尽くしたとしても、最後の最後で美しい自国を傾ける事はできない方です。
ポルトガルさんの方はイギリスさんにとっては『家族』です。
誰よりも気を許して誰よりも気を使わず…そして誰よりも我儘を言える相手でもありますが、気を使うという事は反面、相手を思いやるべきと思い、意識するという事ですからね。
イギリスさんの側にそれが全くない以上、恋情が生まれる事はありません。
さらに言うなら…イギリスさんを支えるだけの強かさ、力に欠けます。
精神的には『家族』、物理的には『主従』関係ですよ、あの方達は。」
おそらくスペインに対してよりも日本自身と親しくしているであろう国々について語るその言葉はひどく淡々としていて情のようなモノが感じられない。
「国情ではない私個人にとっては他国の中では一番大事なのはイギリスさんですから。」
そこでニコリと向けられた笑みは美しくもどこか恐ろしい。
「私がスペインさんを買ったのは、大事だと思った相手を絶対に投げ出さない情の深さ。
フランスさんと違って身を削っても尽くして下さりそうですし、ポルトガルさんと違ってその気になれば個人レベルの事なら助けて下さるであろう友人もたくさんいて、国としても、今現在は貧しくても、たくさんの観光名所を抱え、実際にそれを売り込むだけの人当たりの良さもある、観光業での収入は世界2位のお国ですし?
もしお互いにどうしようもなくなった時、一緒に滅ぶくらいの思い切りはありそうなので」
底知れぬ黒い瞳に射抜かれた。
「もし…私のめがね違いなら…」
「日本ちゃん自らの手でトドメ刺してくれそうやけど……
まあ親分一度手に入れたら絶対に他にやりとうないし、殺されるのはええけど、その時はイングラテラも一緒やで?」
そう言うと、日本は
「それでこそ私が選んだ方です」
と破顔した。
こうして日本に言われるがまま策に乗ることに。
スペインの誕生日の間、恋人のフリをする相手を探している…そうイギリスに持ちかけ、一日仮の恋人にする。
その間にイギリスに想いを寄せる他国を牽制し蹴散らしながら、イギリスを口説き落とすというものだ。
普通に口説いても嘘だと逃げるイギリスでも、フリだと思えば素直に受けるだろう。
こうして外堀を埋めていき、最終的に仮を本物にしてしまえというその作戦のため、二人で色々策を練った。
前夜に色々あったと思わせるために前夜入りをさせ、普段はしていないであろう力仕事を手伝わせるのも、かぶれるであろう貼り薬を首筋に貼らせるのも、そのかぶれて赤くなった部分がよく見えるような、少し首元が緩やかな服を着させるのも、全て日本の策だ。
案の定まるで前夜の睦言のあとのように見えるかぶれも、腰を痛めてだるそうな様子も、他国にすでにイギリスが完全にスペインの手の内にあると思わせるのに、おおいに役立ってくれた。
おそらく今日のパーティーの出席者で疑っている者は一人としていないだろう。
あとは…
――情熱の国の本気を見せるだけやな。
スペインはギラリと捕食者の目で、目の前で愛らしくも美味しそうなピンクの唇を少し尖らせてマグからチョコレートを啜っている可愛らしい想い人を凝視した。
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