BirthDayにはリボンをつけて恋人を7

こうして各国もだいぶ集まった頃、若干遅れて到着したのはスペイン、イギリス共に縁の深い例の国だ。

いつものように気怠げにリビングに入ってきたポルトガルはスペインに目もくれず、一目散にスペインの隣に座っているイギリスへと駆け寄ってくる。


「イングランドも来とったん?」
と、普段は変わらない表情を嬉しそうに若干ほころばせて言うポルトガルに、呆れたため息を付くイギリス。

「お前…何しに来たんだよ。俺よりも先に声かける相手がいるだろ?

と、チラリと隣に視線をやって言えば、何かに気づいたように表情を固くしたポルトガルはその言葉も全くスルーで、グイッとイギリスの腕を掴んだ。

「イング、これどないしたん?…誰がやったん?」
「へ?」
「絶対に騙されとるわ…。自分変な所で警戒心薄いから…」

いつもほとんど変わらないポルトガルの表情。
その微妙な違いを理解出来る数少ない二人がここには揃っていた。

まず反応したのはスペインだ。


「これはやめたって。いきなり恋人に乱暴な態度取られたら、相手がポルトガルかて親分対応考えなあかんくなるやん」

少し身を乗り出して、イギリスとポルトガルの間に入るようにして、イギリスの腕をつかむポルトガルの手首を掴んでギリっと力を入れるスペイン。

腕力の差は歴然としていて、ポルトガルの手がイギリスの腕から離れた。


「……自分…誰にモノ言うてんねん…恋人ってなんや?
と、ポルトガルはそれでも視線にだけは怒りを含んでスペインを睨みつけるが、スペインの方は余裕の笑みだ。

「大事なんは…”誰がお姫さんを”好きかやなくて、”お姫さんが誰を”好きかやん?
もう国同士のあれやこれやもないことやし、本人に対しての気持ちだけで選んでもええ頃やろ?」

と確信は避けつつも遠回しに答えるスペインの声音はあくまで爽やかで、かばわれるようにスペインの後方に押しやられているイギリスからはスペインの表情は見えないが、スペインに挑発的な黒い笑みを浮かべられてギリリと表情を険しくするポルトガルの顔はよく見え、そして見える部分でだけ判断を下す。

「ポルが悪い。なんでそう喧嘩腰になるんだ。
心配しなくても別に国同士の関係に影響はさせないし、お前の立場が悪くなるような事にはしねえよ」

というイギリスの言葉は、常にイギリスの側にいて尽くして尽くして自国の経済を傾けるような条約すらあえて飲んでまで尽くした自分の真意が全く伝わってなかったことをまさに表していて、ポルトガルは目眩すら覚えた。

「なんで俺やないん?」
と、思わずこぼれ出た本音に、残酷で愛しい女王は心底わからないと言った風に、きょとんとした目で首を傾けた。

「お前…俺の兄の代わりだろ?自分でもそう言い続けてたし、俺もそのつもりだし?」
「それは例えで…」
と言い募ったポルトガルの言葉はもっとも容赦のないかたちで遮られた。

兄弟で恋人とか、ありえねえだろ?
俺は近親相姦とか特殊な趣味ねえし、むしろそれは嫌だ。気持ち悪い」


ガ~ン!!!

本当にそんな擬音が脳内を駆け巡ることがあるのだと知りたくもない事を知ることになり、がっくり膝を付くポルトガルの目の前では、ポルトガルの予想外の反応にイギリスが慌ててスペインの影から身を乗り出した。


「いや、違うぞ?お前の事が気持ち悪いとかじゃない。
お前の事はすごく好きだし、本当の兄も同然だと思ってるし、大切だと思ってるぞ。
ただ、兄弟同然のお前と恋人同士とか言うのは気持ち悪いって言っただけだ。」


(…うん…ポルトガルもその辺は言葉は正しく認識しとるとは思うわ。
やっぱフラグクラッシャー言われるだけあるわ~)

と、さすがに自分が望んでいるその関係に関して気持ち悪いを連発されて心底落ち込むポルトガルに同情を覚えるスペイン。

「あ、あの子来とったな?距離もあるしポルトガルも会うの久々なんやないか?」
と、少しフォローを入れようと、庭の方へと伸び上がって確認をする。

「あの子?ああ、マカオか。
もしかして…お前、マカオがすぐ気づいて迎えに出てこなかったから機嫌悪いのか。
今日は中国も一緒だからな。お前を軽んじてるわけじゃないぞ。
ちょっと待ってろ。香港に言って抜け出す手伝いしてもらってやる」
と、イギリスは香港を呼びつけて、マカオを中国から離して連れてくるように頼んだ。


「おっけい。で?」
と話を聞いて即、手を出す香港にイギリスが数枚の札を握らせると、香港はにんまりと笑って敬礼して庭に向かい、しばらくするとまるで転げるような勢いでマカオがリビングに戻ってきた。

「セニョールっ!お久しぶりです。
ご気分がお悪いのですか?何か飲み物でも持ってきましょうか?」

膝をついたままのポルトガルに合わせるように、綺麗な衣装が皺になるのも構わずマカオは膝をつき、ポルトガルを助け起こす。



「…マカオ……」
力なく顔をあげるポルトガルに、

「お会い出来て本当に嬉しいです」
と優しい柔らかい笑みを浮かべるマカオ。

これはもうマカオに任せて置いたほうがいいだろうと判断して、スペインが

「ほな、そろそろ揃ったし親分行かなあかんけど、ポルトガルの事お願いしてええ?
気分悪いようならこのすぐ隣りの客室やったら休めるように準備しとるから」
と、言うと、何故かポッと顔を赤くするマカオ。


(自分の方が色々色っぽいしとるんやん、ポルトガル…)
と、スペインはその反応を見て察すると、なんだかバカバカしくなった。

そして、もうこれ以上こうしているのも野暮とばかりに、

「みんな庭で好き勝手にしとるさかい、必要なモンあったらキッチンから自由に持ちだしてや。気ぃ使わんでええからな~」
と、確認も取らずにイギリスを助け起こして、二人でそそくさと庭へと向かう。

「…ポル…もしかしてマカオと会えるからってそのつもりで来てて、マカオが抜け出られそうになくて出来ないかもしれないから機嫌悪かったんだな。
ホント、ひとの誕生日にかこつけて困った奴だな」

と、自分のことだとちょっとした事で真っ赤になるくせに、他人ごとならまるで照れもなくそんな言葉を吐くイギリスに、苦笑するスペイン。

イギリスがこんな事を言っているのを知ったら、またポルトガルが落ち込みそうだが、どうせ今頃マカオと一緒に客室のベッドの上だろう。

まあ、中国の後ろ盾のあるマカオに手を出している時点で、イギリスにしろ誰にしろ、他とうつつを抜かしたりしたら色々終わりそうである。

自業自得とはいえ、ご愁傷様だ。



こうして慌ただしくも一部にはなかなか衝撃的な誕生日が過ぎていった…。




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