BirthDayにはリボンをつけて恋人を4

そうして当日の朝。

イギリスよりも遅く寝たはずのスペインはもう起きているらしい。
午後からだす料理の下ごしらえを済ませて、イギリスの朝食までしっかり作って起こしに来た。


スペインに心配されたようにしっかり筋肉痛になった身体を起こすのが辛い。

「やから言うたやん。」
と苦笑しながらも、スペインはベッドまで朝食を運んでくれた。


それまでの確執が嘘のように穏やかな朝。

「どこ痛い?シップ貼ったろうか?」
と、自分も運び込んだ食事を取りながら言うスペインに、今日の午後が本番なのでその前に体調不良ではここまで来た意味もないので、素直に

「腰と…足?でもシップはなんだかかぶれるみたいで…。
昨日のもテープにかぶれたみたいだ」
と、すでに貼り薬を取り去った首の付け根や肩口を見せた。

「あ~、ほんまや。自分肌弱いんやな。塗り薬の方が良かったか…」
とスペインが、あとで出したるわ~と言って食事を続ける。

「まあ…支度は元々親分一人でするつもりやったし、あんま無理せんで時間まで寝とき?別に甲斐甲斐しく働かんでも、恋人らしく見せてくれたらええんやし」

チュッとこめかみにキスを落とすと、スペインはそう言って食器くらいはと起きようとするイギリスを制して、食器を片付けに部屋を出て行った。


まあ…ぎっくり腰とかにならなかっただけ、良しとするべきか…。

その後、客室のシーツを洗うからいったん自分の寝室にいてくれと言われて、いきなり姫抱きで隣のスペインの寝室へ運ばれるという事態が起こったが、パーティーに出られなかったら本気で笑えないので、11時前くらいまではイギリスも大人しくベッドの住人になっておく。


11時を少し過ぎたあたりで何故か用意されている服に着替えて下に降りて行くと、客…というよりはお手伝いの身内という扱いなのだろうか…すでにロマーノとベルギーがせっせとテーブルのセッティングをしたり料理を運んだりしている。


「お、おはようございます、イギリス様っ」
と少し引き気味にロマーノが、

「おそようさんやね、イギリスさん。まあ悪いのはうちの親分やけど
と、ケラケラと笑いながらベルギーがそれぞれ挨拶してくるのに、

「あ、ああ、おはよう。手伝うのが遅れてすまない」
と、返すと、ベルギーがアヒル口をにんまりさせて、

「ええよ、ええよ、身体辛いやろ?皆が来るまで休んどって」
と、イギリスの背を押してリビングまで連れて行くとソファに座らせた。

え?と首をかしげるイギリスを前に、ベルギーは、ん~と人差し指を口元に当てて考えこみ、さらりと自分が巻いていたスカーフを外してイギリスの首元に巻きつける。

え?ええ??

とますますわけがわからず首をかしげるイギリスに、ベルギーは、ここ、と、自分の首元をトントンと指さした。


「親分ああ見えてめちゃヤキモチ焼きやから牽制のためわざとしてはるのかもしれへんけど……もう少し首元隠す服やないと、思い切り痕見えてるから、年嵩のあたりはええけど、若い子ぉ達にはちょっと目に毒やわ。」
と言われてイギリスはようやく思い当たってぱ~っと真っ赤になった。


「い、いや、これは湿布薬にかぶれて…」

と慌てて言うが、ベルギーは、はいはい、そういう事にしときましょか、と、全く信じていないように笑いながら、また庭に戻っていく。


国なので見た目の年齢通りではないにしろ、うら若き乙女といった感じのベルギーにそんな誤解を受けてイギリスが思い切り動揺していると、ちょうど大量のグラスを積んだワゴンを押しながらスペインが通りかかったので、焦って呼び止める。


「あ~、イギリス起きたんやね。
ぼちぼち早いあたりは来るとは思うけど、お腹空いとるんなら、何か摘むか?」
と、にこにこと上機嫌で言うスペインに、イギリスは真っ赤になったまま、さきほどのベルギーとのやりとりを訴える。

「どうすんだよ、これっ!絶対に変な勘ぐり入れられるぞっ!!」
と、自分の首元を指して焦るイギリスとは対照的に、スペインはのんびりとした笑みを浮かべて

「ええやん。恋人同士ってことになっとるんやし。むしろ誤解も好都合ちゃう?」
とのたまわる。



ああ…そうかも…そうかもしれないけど…。

自分がスペインと…などと想像すると、転げまわりたくなるくらい恥ずかしい。

そんな風に意識してしまうと、自分とは違い男らしい大きな口元からしっかりとした首元…たまに動く喉仏やそこから鎖骨に至るまでのラインなど、もう恥ずかしすぎて見られない。
あの唇が自分の首元に触れて痕を残すのか…などと考えたら、もうなんだか気を失いそうな気分になる。


「親分のお姫さんはほんま恥ずかしがり屋さんやね。」

スペインはそう言っていったんワゴンを放置でイギリスの隣に座り、涙目になるイギリスの目尻に口付けて、チュウっと溢れかけた涙を吸い取ると、よしよしと言った風に頭を引き寄せた。


「なんも心配せんでもええよ。
何かアホな事言うてくる奴がおったら、親分がどついたるからな」
と言うスペインは逆に後頭部をどつかれて振り向く。


「お前が言うな、お前がっ!
本当に今日パーティーで人がくるってわかってるのに、てめえの辞書には理性って文字がねえのかっ!コンチクショウ!」
と言いつつ、今度はいつのまにか来たロマーノがイギリスのもう片方の隣に座った。


「誰かが馬鹿な事言いやがったら、全部このバカヤロウが猿なのが悪いって事で片つけますからッ!イギリス様がお気になさらないでも大丈夫です。」
というロマーノに、スペインは

「しゃあないやん。親分のお姫さん可愛すぎなんやもん」
と苦笑。

「しゃあないやんじゃねえっ!せめて見えるとこに痕つけねえとか理性ねえのかっ!」
とまたロマーノにどつかれる。


ああ、なんだかのたうちまわりたいほど恥ずかしい誤解をされているようだが、とりあえず恋人だという事はトマト一家にはすんなりと信じられているらしいから、目的は果たしてはいるのだろうか…。

そんなことを考えつつイギリスが羞恥にスペインの肩口に顔をうずめていると、


「ロマも親分もっ!さぼっとらんで働いたってやっ!お客さん来てまうでっ!!」
と、スコン、スコン、と、ベルギーにどつかれて、二人揃って謝りながら仕事に戻っていく。

こうして色々あって力が入らずにいるイギリスが一人残されて、周りの好意に甘えてソファで休んでいるうちに、パーティの準備は着々と進んでいった。






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