それから5日ほど、まるで初めて某夢の国に行く事になっている子どものように浮かれて過ごして、スペインの指定通り、打ち合わせのために早めにスペイン入りをするため、日本の誕生日祝いの日にはヨーロッパにトンボ返りをした。
日本はああいったものの、本当にスペインは相手が自分で不快ではないのだろうか…。
そもそも何故当日恋人がいるなんてフリを?
悪友達と悪ノリして賭けをしてしまった…とかならまだいい。
誰か断りにくいが付き合いたくはない相手に交際を求められて…とかなら、もしかしたらその後も出番があるかもしれないので、さらに良い。
…が、誰か本命がいて、相手に嫉妬させたいとかだったら……。
――なあ…なんで恋人がいるって思わせたいんだ?
そう聞いてみたい気もするが怖くて聞けないまま、もうスペインに口に運ばれるのは諦めて、フルーツやケーキ、ムースなどのデザートをモグモグと咀嚼する。
――そうやって頬ふくらませて食べとるの可愛えなぁ。まるでちっちゃな小動物の子どもに餌やっとるみたいや。
と、昔言われた時のように、やわらかな視線で見つめられて、理性では美味しいはずとわかっている甘い甘いデザートの味もてんでわからなかったのだが…。
そうして食事も終わり、食器を片付けるスペインを手伝おうと立ち上がるが、
「ああ、ええで。どうせ一人しか洗い物はできひんし」
と言われて、さすがに悪い気がする。
そんなイギリスの様子を察してか、
「ほんなら地下のワイン倉庫から明日ようのワイン出しといてくれる?」
と、スペインが鼻歌交じりに皿を洗いながら言った。
「重いしお姫さん腰でも痛めたら大変やから、少しずつな~」
と後ろから声をかけられて、まるでか弱いような言われ方にむ~っとする。
細い、貧弱と言われるが、単に筋肉がつきにくいだけで、ちゃんと力はあるのだ。
毎年かなりの数が集まってガーデンパーティになるスペインの誕生日。
例年の事を考えるとそこそこの本数が必要になるのだろう。
地下室にはすでに山のようなワインが用意されている。
それを木箱にとりあえずまとめてイギリスは持ち上げた。
ホラ見ろ、俺だって出来るんだっ!貧弱なわけじゃねえっ。
と、思いつつ、それを持ち上げて1階への階段を上がった。
「ちょ、そんなにいっぺんに持ってきたら危ないやんっ!」
と、そこで気づいたスペインがエプロンで手を拭きながら慌てて駆け寄ってきた。
「俺だってこれくらい平気で持てるんだぞ。」
と、それでもフラフラと歩を進めるイギリスからヒョイッと木箱を軽々と取り上げて、スペインはキッチンへと運ぶ。
悔しいが少し…そう、少しだけスペインの方が筋力はあるようだ。
まあ最近デスクワークしかしていない自分と畑仕事にも勤しんでいるスペインとの差なのだろう。
決して元々それほど違うわけではない、断じてないはずである。
「残り持ってくるな」
と、スペインが箱を置いたのを見てイギリスがクルリと反転すると、ガシっと腕を掴まれた。
「ワインはもうええからっ!
ほんまあんな量何度も持ち運びしたらどこか痛めるで?」
と困ったような顔で言われて、
「大丈夫だ」
と振り解こうとするも、まったく振りほどけない。
「わ、わかった、少しずつ持ってくる」
と、結局妥協して言うと、それでも完全に信用されていないのか小さくため息をついたあと、
「ほな、一緒に運ぼうか」
と、スペインもついてくることに…。
こうして当たり前に木箱で持ち運びするスペインの横を子どものお手伝いよろしく数本の瓶を抱えて往復した。
この他にも庭に出しやすい部屋にテーブルや椅子を運んだり、色々支度をするスペインのあとをくっついて手伝って回る。
最初は良いから休んでいろと言っていたスペインも途中で諦めたようだ。
なるべく重くなさそうなものを選んで運ぶように指示をし始めた。
こうして良い時間になっておおまかな下準備が終わる頃にはイギリスもクタクタだ。
促されるままシャワーを浴びて出てくると、スペインが、
「これつけとき」
と、磁気タイプの小さな貼り薬を渡して寄越す。
「今は痛なくても、普段動いてへんから明日あたり筋肉痛になるで」
と言われるまでもなく、あちこちが痛い気がして、それはありがたく受け取って貼っておいた。
その後はもう用意された客室で朝までぐっすりだ。
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