BirthDayにはリボンをつけて恋人を2

――イギリスさん…実は折り入ってお願いがあるんです…。


それは大親友である日本の誕生日の1週間前のこと。
イギリスは早めに休みをとって誰よりも早く日本入りをしていた。

こうして滞在する日本宅。

気温はそこそこ寒いモノの、日本の冬の風物詩の1つであるコタツ、これは素晴らしい。温かい。

光沢のある茶の木のテーブルの上にかけてあるコタツ布団を覆うカバーは、イギリスが端正込めて縫い上げた和柄のパッチワークに刺繍を施した自信作で、少し早めに渡した日本の誕生日プレゼントだ。


日本も大層喜んでくれて、すぐ取り付けてくれ、こうしてその日の夜は二人でコタツで鍋をつついている。

自宅でもあるし、これはがぶ飲みせずに色々な物をつまみながらチビチビ口を濡らすもの…と教えたため、それだけは無茶な飲み方をしない口当たりの良い日本酒もテーブルに並んでいるが、もちろん悪酔いなどしない。



そんな風にほかほかと温かくふわふわとした高揚感を楽しみつつ和やかに楽しんでいたところに、日本に、

――私…知人は多いんですけど、無理なお願いできるような親しい相手は大親友のイギリスさんしかいないんですよね…――

と、実に嬉しい言葉を添えて冒頭の言葉と共に可愛らしい上目遣いで手を合わされたら、断るなんて選択があろうはずもない。



イギリスは当たり前に

「俺に出来る事なら何でも。なにしろお前と俺は、し…親友だしなっ」
と、ほんのりと頬を桜色に色づかせて口元をほころばせた。


ああ良かった…やっぱり持つべきものは親友ですよねっ。

と、ほんわりした笑顔で小さな手を胸元で合わせる日本は可愛らしい。
何かしてやりたい…そんな気分にさせる。



「で?何をすればいいんだ?」

まあなににしろやってやる気満々なのだがそう聞くと、

「実は…最悪私がやらないとと思っていた事で…こんなことを人様にお願いするのは大変心苦しいんですけど…。」
と、日本は少し困ったように眉をよせた。


親友なんだから、遠慮なんかするなよ。」
と、とさらに言えば、日本は少し目を見開いたあと、安堵したように、はい、と笑顔でうなづいた。



「実はですね、私の誕生日の翌日のスペインさんのお誕生日なんですが…」

「ああ、そうだな。だから他国の移動時間考えて毎年日本の誕生日って一日前の210日にやってるし、スペインの誕生日は逆に一日遅れの213日にやってるだろ」

「ええ、そうなんです。今年もそうさせて頂くんですけど、問題はプレゼントの方で…」

「……?」

「今年はたまたま先日仕事がてらスペインさんのところへお邪魔いたしまして一緒にお食事をさせて頂いたんですが、その時にお互いの誕生日の話になりまして…誕生日プレゼントにお願いされてしまったんですよね…」

ほぅ…と片手を頬に当ててため息をつく日本。

そんなに無茶なモノを頼まれたのだろうか…。

「…一体何を?」

そんな日本を気の毒に思いながらも、好奇心をそそられながら聞くと、日本はありえない言葉を吐き出した。



「……恋人…」
はあ???

いやいや、あのラテンに限ってそれはないだろうと思う。
昔から知っているが、モテる男だった。

そりゃそうだ。
イギリスが親しくしていた頃は天下の覇権国家様。
精悍で強くて力があっておまけに容姿が良くてキラキラしていた。

その後衰退してヨーロッパの一国に落ち着いてからは、今度は優しい甘さが増して親しみやすさが加わった気がする。

…その衰退の要因の1つを作ったイギリス以外に…ではあるが…。



まあどちらにしても、わざわざ東洋の島国の日本に頼まなくても、恋人なんて自力で作れるはずだ。

それとも日本人、もしくは東洋人の恋人が欲しいから紹介してくれということなのだろうか…。



イギリスは無意識にため息をついた。

ああ…スペインに紹介される相手は幸せだ…と思う。

国策に逆らえなかったとは言え、スペインを陥れた張本人となってからは、仕事以外ではろくに話も出来ずにいる。

あの戦い以前なら…自分だってあの大きな懐の中で可愛がられたりしていたのだ。

あの時以前なら………。



――可愛え可愛え親分のイングラテラ…


程よく筋肉の付いた褐色の腕の中に閉じ込められて胸板に頬を押し付けると、ムスクと太陽の匂い。

自分と違って常に武器を振り回し続けて固くなった大きな手のひらで頭を撫でられると、とても気持ちが良くて幸せな気分になった。


もちろんもう二度とそんな時代が戻らない事はわかってはいるが、スペインが誰か特別な相手、恋人を求めているという事実を改めて突きつけられると、なんだか悲しい気分になってくる。


…さん?…イギリスさん?


急に黙り込んだイギリスを日本が心配そうに覗きこんでいるのに気づいてイギリスが

「あ、すまない。少し酒が回ったかな。」
と、ぎこちない笑みを浮かべると、日本はちょっと困ったように

「…やっぱり…お嫌ですか?」
と、小首を傾ける。


「え?あ、悪い。途中から聞いてなかった。
スペインに誕生日プレゼントに恋人をねだられて、それからなんだって?」

胸の痛みをこらえながら聞き返すと、ああ、そうでしたか、と、日本は少しホッとしたように微笑んだ。

「ええ、なんだか誕生日当日に招いた国々に対して今現在恋人がいるという事にしたいらしいんですね。

人間相手だと色々差し障りがあるので、国の中で一日恋人のフリをしてくれる相手を紹介してくれないかと…。

私はそういうの慣れてませんし、上手にフリを出来る自信が全くありませんし、他にこんなことをお願いできる相手もおりませんので、イギリスさんにお願いできないかと……」


やっぱりダメですか?と、日本自身の飼い犬のポチ君のようなつぶらな瞳で見上げられて、イギリスは夢でも見ているのだろうか…と、一瞬呆然とした。

スペインの恋人役…たとえフリでも一日だけでもスペインの恋人になれる。



「…も…もちろん日本にそんな事させるくらいなら、俺がやるのは全然構わないが……スペインが嫌がらないか?」


日本にさせるくらいならどころの話ではない。

ぜひやらせて下さい。本当にっ!!と言い出したいところをグッとこらえてそう聞き返すと、少し心細げだった日本の表情がぱ~っと明るくなった。



「ああ、さすがイギリスさんですっ!ええ、スペインさんにはもう言ってあるんですっ!」

「言ってって……」

「ああ、私もご協力したいのは山々ですが、私のような者がお願い出来て聞いてくださりそうなのはイギリスさんしかいないのですが…と、正直に申し上げたら、イギリスさんさえ宜しければぜひというお話でしたので…」


キラキラ光る日本の眼差しと同じくらい、イギリスの心の中はキラキラと光っていた。

スペインが…あのスペインがフリで一日のみとは言え、自分が恋人になるのを嫌がらなかった…。

もうこの思い出を胸に一生生きていける気がしてきた。


「わかった。親友のお前のためだからなっ。ぜひ一肌脱がしてもらうぞ。」
「イギリスさんっ!」

テンション高くお互いの両の手を握りしめて見つめ合う島国達は傍目から見るととても可愛らしい。

スペインのセリフではないが、楽園的な光景である。


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