BirthDayにはリボンをつけて恋人を1

「よお、来たな。早う入り。」

スペイン郊外のそこそこ大きな一軒家。

畑に囲まれたその家では明日昼過ぎよりスペインのバースデイパーティが開かれる事になっている。
そして前夜、他より一足も二足も先にその家を訪ねたイギリスをスペインは満面の笑みで迎えた。

はるか昔、国同士が決裂して以来、仕事でしかほぼ話もしていないような仲の相手に向けるような笑みではない…まるで愛しい者に向けるような優しい笑顔。

久々に見るその慈しみに満ちた視線に、イギリスは鼻の奥がツンとしてきて、涙が浮かびそうになる目を隠すように顔を背けて言った。



「…本当に俺で良いのかよ、だれも信じねえと思うぞ?」

とイギリスが可愛げのない口調で言うと、スペインは少し悪い笑みを浮かべる。



「この意外性が案外いけるんや。
今日はしっかり役割演じたって。大英帝国の本気みせたってや。」

そう言われれば一度引き受けた事もあって否とはいえない。


「ああ、まあ…俺にかかれば…な。」

と、いつもよりは若干勢いはないもののイギリスは了承して、促されるまま現代のスペイン宅に初めて足を踏み入れた。





「飯は?まだやろ?」

「いや…食べてきた。」

当たり前に腰に手を添えながらダイニングに案内すると、椅子を引いてイギリスを座らせるスペインに、されるままになりながら、その質問にそう答えるイギリス。



前夜入りするようにという話はされていたが、食事の指定まではされていなかったので当たり前に食べてから来た。

しかしスペインはそれに対して少し残念そうに眉尻を下げて

「ふ~ん、じゃ、ちょっと待っといて」
と、チュッと自然な動作でイギリスの頬にキスを落とすと、そのままキッチンへと消えていく。



もしかして一緒に食べようと思っていたのだろうか…と、少し悪い事をした気になったが、普通に考えて犬猿の仲と言われている自分と一緒に食事をしたいと思っているなどとは、想像しないだろう。
今日は打ち合わせのために前夜入りしたのだが、他の国の目がない以上、演じる必要はないはずだ。

そんな事を考えながら所在なげにスペインを待っていると、

「おまたせやで~。」
とにこやかに戻ってくるスペイン。

その手には料理の皿が湯気をたてている。


メインの食事は昼の国なので、ものすごいボリュームというわけではないが、まあそこそこの量で、

「久々にイングラテラと食おう思うてたから作りすぎてしもうてん」
とテーブルに皿を並べて行くスペイン。



「食事してきた言うとったけど、イングラテラ甘いモンやフルーツなら入るやろ?」
と、最後にイギリスの前にデザートや綺麗にカットしたフルーツの皿を置くと、スペインは当たり前にイギリスの隣に座った。



ふわりと香るムスクの香水とスペイン自身のおひさまと土の香り。
はるか昔とはいえ、なまじ親しく過ごしていた時代があるだけに妙に意識してしまう。


「…なんで隣なんだよ…。話にくいだろ」
と、フォークにリンゴを突き刺しながら言うと、

「ん~…恋人の体温は少しでも近くに感じたいねん
と、耳元で囁くように言われて、フォークを取り落として耳を押さえて飛び上がった。


なに、このラテン…なに、このラテンなにこのラテン男ぉぉ~!!!!


声も出ず口をパクパクしているイギリスにスペインはクスクスと楽しげに笑うと、イギリスがテーブルの上に取り落としたフォークを拾って

「イングラテラは慌てん坊さんやねぇ。ほい、あ~ん」
と、リンゴをイギリスの口元に持っていく。


何が『あ~ん』だあぁぁ~~!!!!
と心の中で絶叫しながら、

「自分で食えるっ!!」
と、イギリスがフォークを取り返そうとすると、スペインはやっぱり笑いながら

「あかんて。恋人に見えるようにするんやろ?練習しとかな」
と、ウィンクする。


ああ…そうだった…そうだったんだけどな…。


ぐっと言葉に詰まるイギリスの反応をどう取ったのか、スペインは楽しげにイギリスの口に運んで一口かじらせたリンゴの残りを自分の口に放り込んだ。


そう…イギリスは明日一日、スペインの恋人のフリをすることになっている。

誰にも疑いを抱かせる事もないくらい、完璧に演じてみせる……予定なのだ。




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