コードネーム普憫!腐女子から天使を奪還できるか?!3章_7

5感のほとんどを奪われていたため、どのくらい時間がたったのかはわからない。

それでも随分と時間がたったように思われた頃、アーサーを乗せたワゴンが停まって、アーサーの閉じ込められていた箱が運びだされた。


いよいよ殺されるのか…と半ば覚悟を決める。
だが、箱から布が取り払われて伸びてきた手に丁寧に目隠しと口のガムテープを取り払われたアーサーの目の前に広がった光景はなかなか意外なものだった。

欧州の城のようなロココ調の部屋に調度品。
猫足のソファに腰をかけている小太りの男には見覚えがないが、仕立ての良さそうなスーツを着ている。

「ああ、やっと来たね」
と、非常に嬉しそうに言われて、アーサーは困惑した。

「来たっていうか…これ誘拐って言わないか?」
多少ムッとして言うアーサーに、男は苦笑する。

「不浄な環境から救い出したと言ってほしいね。
私の可愛いアーサーにあんな男の手が触れると思うとゾッとする。
これからは…私だけが触れ、私のモノを塗りつけ、私だけの色に染めるんだ…」

狂気をはらんだ瞳と、粘着質な物言いに思わずアーサーは身を固くした。

この男は何を言ってるんだ……と思う反面、何が言いたいかをわかってしまっている気がするのが嫌だ。

「ここ1週間くらいの…気味の悪いいたずらは…お前だったのか…」

寒気がして背筋がゾッとするものの、涙があふれそうな目元は熱い。
気持ち悪さに吐きそうになりながら否定してくれる事を祈っていたが、現実は無情だ。

「いたずらじゃないよ?恋人の愛情表現に対して気味が悪いなんて酷いな。」

恋人?誰が…?!
一応でもなんでもギルベルトの位置にあるはずモノがこの男のモノのように言われることに腹がたった。

だが同時に“ダミーの”恋人であるギルベルトとしたことがないような、“本当の恋人”がするような事をこの男が自分にする気なのだとしたら…と思うと、ゾッとして全身に鳥肌がたつ。

自分は同性が好きな人間なのかも…と思っていたが、違うらしい。
自分が好きなのは同性であるギルベルトなのだ…と、今更ながらに気づいて、今のこの状況と照らしあわせて考えて、死にたくなった。

姉が無理矢理見せて来た薄い本のように、触れられ…口づけられ…肌を重ねられたいのは、あの綺麗な紅い目の精悍な男からのみで…今の現状を考えると、早くそれに気づいて、せめて無理矢理でもなんでも“初めて”を経験しておかなかった事に泣きたくなる。

初めて触れられるのも、初めての口づけも…そして初めてのその先も…全部全部ギルベルトがいい…

あの少し薄い形の良い唇に口づけられ、あの少し骨ばった大きな手に身体中を触れられたい…

今更ながら自覚した偽りの恋人に対する恋情と劣情……だが今目の前にいるのはねっとりとした雰囲気のたらこ唇に脂っぽそうな丸い手の変質者で、それらが自分に触れるのかと思うと、思わず寒気を感じて身震いする。

そんなアーサーの内心の思いにも気付かず、男はアーサーを見初めてから付け回していた時の状況や心境を事細かに語っていった。

それはもう、アーサーからするとおぞましい以外の何物でもなかったが、男の脳内ではそれは非常にロマンティックなラブストーリーらしい。

ここがどこかはわからないが、どう考えても助けなど望めない。
両手両足を縛られているため、自力で逃げ出すことどころか、抵抗することすら不可能だ。

もう死んでしまおうか…死んだ方がマシだ…と思うものの、今死ぬ方法なんて舌を噛むしか思いつかない。
まるで時代劇のお姫様みたいだな…と苦々しく思うのだが、実際歯の間に舌を挟んでみても、噛み切る勇気などとてもわかない。

自分の覚悟など所詮そんなものなのか…とアーサーが絶望しているうちに、男は話したいだけ話し終わったらしい。

「あの男が触れたと思うと腸が煮えくり返るが、これからは触れるのも愛するのも私だけだ。
さあ…可愛い君…私のものにしてあげよう…」

ギルベルトの白いが大きく骨ばった手と違って、若干肉のついた白い手。

その手が伸びてきて自分の体中を這いずりまわると思ったらもうダメだった。

「く…来るなっ!嫌だぁあああ!!!!ギル~~っっ!!!!!」

泣いても叫んでもどうしようもない…そう思っていても涙は溢れるし、悲鳴をあげずには居られない。

ギルベルトにだって頬や頭、手以外は服の上からしか触れられた事がないのだ。
他の奴にそんな事をされるくらいなら死んだほうがマシだっ。


声の限り叫んで泣きわめいた瞬間、ガシャ~ン!!!!と、後ろでガラスの割れる音がして、伸びてきた大きな手が、近づいてきた男に向かったかと思うと、男が思い切り後ろへ吹っ飛んで壁に打ち付けられた。


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