実は子どもが出来たんだ_4(完)

うそ…だろ。
こいつどこまで人が良いんだ…。

過去あれだけ騙されて痛い目にあってるだろ…とりあえず疑うところから始めろよ…。
などなど色々思ってイギリスはひたすら戸惑う。

しかし今更嘘だとも言い難く、もしこれが本当の事だったら…次は自分はなんというんだろうか…と考えて口を開いた。

「…お前酔ってたから…覚えてないかもだし…そんなつもりなかった…だろうし……」

うん、きっとこう言う。
嘘というのを信じさせるポイントは、全部を嘘で固めず、真実を交えて話す事である。

色々考えるよりは、もしこれが本当のことだったら…と仮定するとどんどん言葉は出てくる気がした。

明るく人気者のスペインのことだ。
わざわざ嫌っている自分に好き好んで手を出さなくても相手は選り取りみどりだろうし、実際こんなことが起こっていたとしたら、それは酒で判断力が完全になくなっていたせい以外にありえない。

飽くまで嘘なわけだが、そう思うと思いのほか傷ついて、涙が零れ落ちそうになる。

「…ホントに…俺とのなんて嫌だろうし、別に俺一人で…」
と、ますます嫌われるのがわかっていてもついつい自虐に走らずにはいられないイギリスに、スペインは自分の額をポン!と叩くと、

「ちゃうわっ!もう、なんでそうなんねん、この子はっ!」
と、はぁ~っと呆れたようなため息を吐き出した。

黙って伝票を持って立ち上がるから、てっきり呆れて帰るのかとおもいきや、イギリスを助け起こし、

「とりあえず人目もあるし、部屋取るで。」
と、反論する間も与えず止めたタクシーにイギリスを押しこむ。
そうして着いたホテルの一室。

「大丈夫?気分悪ない?」
と、やはりまずイギリスの体調を気にしてくれる。

そうして当たり前に貸してくれたコートとイギリスのジャケットを脱がせてハンガーに。
さらに

「気分悪なったら、遠慮せずすぐ横たわり?」
と、優しくベッドに誘導された。

まるで遥か昔、上司同士の結婚で形ばかりの夫婦となったあの頃のように、本当に本当に真綿でくるむように労られて、嬉しいのか悲しいのかわからず、ただ鼻の奥がツンとする。


少し黙って俯いていると、いつのまにか用意してくれたのだろう、スペインがミネラルウォータをグラスに注いで

「とりあえず飲んで少し休み。話はそれからや」
と、渡してくれる。


ああ…本当にどこまでも優しいスペインを見ていると、500年ほど前、スペインの王女と入れ違いにスペインに輿入れした時の事を思い出す。

――遠い所疲れたやろ?そんな緊張せんでもええから、ゆっくり休みや?

まだ国としての体裁を整え始めたばかりの小国には不似合いなほどご立派な覇権国家様な夫。
さぞや厳しく見下されるのだろうと覚悟しての渡西だったわけだが、出迎えてくれたのは精悍なのに笑うと甘い端正なマスクの本当に温かい笑みを浮かべた青年だった。

スペインの城につくなり大切に大切に壊れものでも扱うようにエスコートされ、やっぱりこうやって疲れたらすぐ休めるようにと寝室へと促され、自らの手で淹れてくれた薄めた果実酒を勧めてくれた。

本当に本当に幸せだったあの頃…。
それを壊してしまったのは国策で拒否権がなかったとはいえ、自分自身なのだけれど…。

イギリスがそんな思い出に浸っていると、スペインは自分のためにはコーヒーを淹れて、それを手に戻ってきた。

そうして伝えられた言葉は、イギリスにしてみれば青天の霹靂、思いがけないものだった。


「誤解されとるみたいやから言っておくな?
俺は数百年前の昔、神さまの前で永遠を誓うたあの日から、イングラテラを唯一の花嫁やって思うて生きてきたんや。嫌うてるなんてありえへんよ。
今でも気持ちはあの頃のまま、ほんま愛おしい思うてるし、ずっと伝えたかってん。
国のいざこざで言えんようになって、でも今こうしてまた二人一緒に居られるきっかけが出来たのも、神さまのおかげかもしれんなぁ…。」

まるで愛おしい者に向けるような柔らかな視線を送られて、クラリとめまいがした。

怒って…ない?

あまりに意外にして衝撃的すぎて、言われた事がすんなりと頭の中に入っていかない。

ただただ馬鹿みたいに目を見開いて硬直するイギリスの前で、スペインは胸元の十字架にちゅっと口づけを落として、ベッドに腰を掛けているイギリスの隣に座った。

そのまま本当に優しく肩を引き寄せられて、優しい柔らかい声で囁かれる。

「親分出来る限りの事したるからな。身体大事にせなあかんよ?
子どもはめっちゃ嬉しいけど、イングラテラが元気で無事でいることが一番の前提やからな?」


え?ええっ??

イギリスはひたすら動揺した。

嫌われていると思ったのだ。
嫌われていると思ったから、いっそのこともう顔も見たくなくなるくらい徹底的に嫌われてしまえと思って、最終的に日本のイタズラに乗ったのだ。

それが嫌われてない?…というか、まだ好意が残ってる?
これまずい、非常にマズイんじゃないだろうか……

グルグルと色々な案が頭を駆け巡る。

謝るか?素直に謝っても怒るだろうか?怒るよな、こんな馬鹿にした嘘をついたなら…。
日本は全部自分のせいにして良いと言っていたが、実際に乗ってしまったのでイギリスも同罪だ。

それならいっそ事実にする?
もう妖精さんに頼み込んで魔法でも何でも使って子ども作るか?

でもそれだと自分だけの子どもだ。
スペインの血が入っているわけではないし、騙している事になる。

いや、この時点で十分騙しているわけなのだが……。

もしくは……ここはすっとぼけて、しばらくして子どもは勘違いでした、お騒がせしました…と、土下座するか…。

いやいや、これもどうしてそんな突飛な勘違いをしたんだ?と聞かれれば言い訳も出来ない。

どちらにしても八方塞がりだ。
どうする俺ぇ~~!!!

とにかく何か言わなくては…と、妙な焦りから
「あの…スペイン…実は……」

と、口にしたものの、さあなんて言い訳をしよう?




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