実は子どもが出来たんだ_3

どうせやらなきゃならないなら、完璧に演じきってやるっ!
フォローはヒゲにさせるっ。断固としてさせるっ。

…というわけで……作戦決行だ。


最初のメールは切迫感とか追い詰められた感を出すために敢えてシンプルに

――話したい事がある――と、場所の日時の指定だけ。



本当は怖い。

もう嫌われるのも今更で、どうせならこれで嫌われきったらスッキリするんじゃないかと思っての行動なのだが、それでも怖いものは怖くて、その日が近づくにつれて眠れなくなっていたので、ちょうどいい感じに隈が浮かんでいる。

馬鹿にされる言葉も嫌悪される言葉もこの数日で反復したから大丈夫だ。
今更傷ついたりはしない。
さあ行くぞっ!

色々を決意して1時間前に待ち合わせのカフェへ。

さすがにスペインもまだ来ていない。
…というか、会議ですら30分、1時間の遅刻は当たり前の男だ。
来ているはずもない。

頭を冷やすために外の席を指定して待つこと30分。
なんとも珍しく遅刻どころか30分も前にスペインが来ている。


「おい、ここだ」
と、外の席なので手をあげて声をかけると、
「待たせてごめんな~」
と、やけに友好的に走ってくる。


私的に会ったのなんて数百年前なので、スーツ以外の現代風の服を着ている姿なんてほとんど見たことがなかったが、こうしてジーンズに黒のセーター、それに濃い茶のダッフルを羽織っている姿はなかなか新鮮でカッコいい。

どこか明るい雰囲気で華があり背も高くスタイルも良いので、道行くレディ達が振り返って見ている気がするのは、イギリスの気のせいではないはずだ。


「早めにと思って出てきたんやけど、結構待たせてもうた?堪忍な?」

と、白い息を切らせながら、まるで太陽のようなと言われるのも納得な、暖かで明るい笑顔で言う様子は、爽やかすぎてもう眩しいくらいだ。

自分と違ってしょっちゅうこうやってスペインと過ごしていたのだろう悪友達は、日々こんな素晴らしいモノを享受していたのかと思うと、悪友二人…主にフランスに対して殺意が沸く。

スペインに対するフォローを入れ終わったら即撲殺しよう…と、イギリスは物騒な考えをとりあえず置いておいて、現在を堪能することにした。


いつもなら仕事以外ではほぼ話すことはなくなっていた相手。
こちらから普通に話しかければ案外普通に話せてたのかもしれない…と、イギリスは一瞬後悔しかけて、しかし心のなかで小さくそれを否定した。

だって自分が求めているのは普通の友人以上な関係だ。
そう…はるか昔一緒に暮らしていた頃のように親密な…。

もちろんそれはまだ少年期を脱していない中性的な頃ならとにかくとして、今の成人してすっかり男っぽくなった状態では望めるものではない。
ちゃんとわかっている。

望んでも無理なものなら、いっその事完璧になくしてしまった方がスッキリするじゃないか。

そんな気持ちでイギリスは気を取り直して計画を実行することにして、スペインがコーヒーを注文し終わってウェイトレスがいなくなったタイミングで口を開いた。


――実は…子どもができたんだ…

そう切り出した時のスペインの驚いた顔。

成人男性にしては少し丸めの大きな目を見開いて、同じく形の良い唇をぽかんとあけて呆けている。

さて、最初の驚きが去ったらどう出るのだろうか。

怒る?呆れる?軽蔑する?

覚悟はしていてそれが半分目的なのだが、心が痛まないわけでは決して無い。
テーブルの上で握りしめる手が震える。


こうして双方無言のまましばらく続いた沈黙に耐え切れなくなったイギリスが

「…い…一応、父親だし報告しておこうと思っただけで、お前に…迷惑はかけないから…」

と、震えながら言った事で我に返ったらしいスペインのその次の行動はイギリスからしたらあまりに意外すぎて対応出来なかった。

なんといきなり
そんな寒そうな格好しとったらあかんやんっ!!
と、立ち上がって自分のコートを脱ぐと、それをイギリスに着させたのだ。



ああ…温かい…。

スペインの体温で温まったコートを着ていると、あらためて昔与えられていた暖かさを思い出す。

イギリスがそんな風にボ~っとしている間、スペインはウェイトレスを呼んで席を屋外から屋内へと移させる。


ああ…こいつ本当に優しいな…。
普通は身に覚えがなければとりあえずその辺りを指摘するところからだろうが。
それをまず俺の身体気遣うって、やっぱり違うよな…。

されるがまま屋内のソファ席にイギリスが落ち着くと、スペインはまだ立ったまま

「え~っと、まだ安定期ではないやんな?どのくらいなん?」
と聞いてきた。


いや、お前突っ込むところはそこでいいのか?

まず身の潔白だろうよ…と思いつつ、あ、でも初期だと堕胎という手もあるのか…。
と、だます側のイギリスとしてはハッとする。

ああ、ここで日本からの指定のセリフを使えるか。

「堕ろさないぞ?」
と、これは日本からの指定のセリフなので口にしてみると、即

「当たり前やんっ!!」
と怒られた。


堕ろすと言って何故怒る?
大嫌いな俺の子なんか欲しくないだろうよ、お前だって…。

演技のはずなのになんだか色々がいっぱいいっぱいになってきて泣きそうになると、スペインは慌てたように

「…怒鳴って堪忍。…大丈夫か?」
と、椅子を引いてきてイギリスの隣に座って肩に手をやり、顔を覗きこんできた。

本当に…信じて心配してくれているらしい。
それに対して湧いた感情は、だます事が出来て愉快とかそういうものではなく、ただただ気にされ心配してくれていることが嬉しい…。
そこまで嫌われてなかった事が嬉しかった。

大丈夫かという問いに対してイギリスが頷くと、スペインはホ~っとため息をついた。
そして再度イギリスの顔を覗きこんで、真剣な顔で言う。

「でもなんで大事な可愛え自分の子ども死なせなならんねん。
とりあえず安定期入ったらうちの国でちゃんと籍いれるで。
それまではうちにおいで。そんな身体で一人なんて危ないわ」



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