実は子どもが出来たんだ_2

子どもができたぁ~?

イギリスは隣でクスクス笑う日本に思わず聞き返した。
世界会議の後の飲み会の席のことである。

会場が宿泊先のホテルという事もあり、みんな好き勝手に飲んでいてすっかり出来上がっている。

自分の酒癖の悪さは知っているので主催者として自粛中のイギリスとそれに付き合ってそこそこで押さえている日本以外のほとんどの国が恐ろしいことに潰れるか正体をなくしているという体たらく。


部屋の中央では誰と間違えているのか、いや、会話の内容からすると間違えてなくてポロリしてしまったのか、

『…育ててくれた事は感謝してるよ…でも…君が好きなんだ…男として好きなんだぞ…いい加減一人の男として見てくれよ~…』
と、フランスの腰に抱きついているアメリカ。


その隣ではスペインが飲んでいて、その襟首をにこやかに掴んでいるのはポルトガルだ。

『ほんま…自分腹立つわぁ。
俺はこんなにずっと捨て身であの子に尽くしとるのに、なんで自分みたいなのがええねん』
と、スペインの襟首をグイグイ締め上げるポルトガルに、

『しゃあないやん。トマトは食いもんやし…』
と、謎の言葉を吐いているスペイン。

もちろん会話が全く噛み合っていないこの二人もべろんべろんに酔っている。


ああ、ポルの奴、好きな子いたんだな…というか、スペインにそれ言ってるって事は、あれか、相手はロマーノか悪友のどちらかか…。
もしそれがフランスの方だとしたら下手したらアメリカがライバルなのか…大変だな…。
などと壮大な方向に勘違いしつつ頷くイギリスを、おそらく盛大におかしな方向の勘違いをしているんでしょうね…と思いつつも指摘せずに楽しむ日本。



さらに部屋のすみでは

『ねえ…君もロシアになろうよ……』

と、これは完全に誰かと間違っているのだろう。
なんとベラルーシを口説いているロシア。

ああ、あれは酔いが覚めて正気になった時思い切り後悔するパターンだと、日本と二人で半分くらいしか減っていないグラスを前にクスリと笑いあった。



「みなさん、すごいことになっていますね。それぞれに正気をなくしていらして…」
「ああ、これはまだ全員が今日の記憶なくしてればいいけど、何人か覚えている奴がいたら言った奴すごく後悔するな…」
「おや、全員…はないでしょう?私達がおりますし」
と、顔を見合わせて金と黒のどちらも童顔な島国が微笑みあう図は可愛らしくも和やかだ。

しかし話はここでおかしな方向に進んでいった。
発端はイギリス自身の言葉だった。

「これ…1つくらい嘘を言ってみてもバレそうにないよな…」
「嘘…と申しますと?」
ふと思いついた事を特に考えもなしに口にしたイギリスに日本はコトンと首をかしげた。

「そうだな…例えばドイツがイタリアにプロポーズしてイタリアも了承したとか?
ありそうで、もういい加減そうしろよとか思うのに、やらないこととか…」


日本あたりが言ったら信じるんじゃないか?
と、いたずらっぽく笑うイギリスの目はキラキラしている。

ああ、この国はエイプリルフールに情熱をかけるお国柄でしたね…と、日本はやはり笑い返しながらも、ふと思いつく。

もういい加減にくっつけよ…と思っている両片思いカップルなら日本ももう一組知っている。


「ああ、じゃあ私はそれを言ってみます。
でも私だけじゃ不公平ですね。
イギリスさんも1つ秘密を持って頂かないと…

と持っていけば、飲んでいないとは言え少しはアルコールも回っていたのだろう。
機嫌よく酔っているイギリスは

「おう、いいぞ。何でも言え」
と、軽く請け負った。

「言いましたね?男に二言はなしですよ?」
「もちろん?」

楽しげな笑みで返すイギリスに、日本はわざと考えこむように、そうですねぇ…と、人差し指を頬のあたりに当てて首を傾けた。


「じゃあ…子どもが出来たって言って下さい」
「は?」

あまりに唐突な言葉にイギリスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で呆けた。
ああ、そんな無防備な顔もお可愛らしい…と、内心悶えながらも、日本はしたり顔で言う。

「ようは…ですね。今日酔った勢いで関係を持ったため子どもが出来たと…そうですね…1か月後くらいに?」

出来ますよね、天下の大英帝国ですもんね、二言はありませんよね?
と、畳み掛けられて、イギリスは

「言うのは良いが、さすがにそれ信じる馬鹿はいなくねえか?
関係持ったまでは良いけど、子どもはさすがに…」

と、特徴的な眉毛を少し寄せて笑うが、日本は、だからですよっ!と、そこでさらに勢い込んで言う。


「関係持っただけだったら、いくらあとでこちらが否定しても信じないという可能性があるじゃないですか。
子どもは…万が一信じても、いないものはいませんから、嘘だと証明できます」

なるほど…と、そこで思ってしまったのがイギリスの敗因だ。

「ま、酒の席での戯言だしな。言ってみるか」
と、まさにその酒で気が大きくなって了承してしまったのである。


さすがイギリスさんっ!とキラキラとした尊敬の目
――実際は夏コミのネタキタ━(゚∀゚)!的な目だった事は当然イギリスは知らない――
で見られて、少し気分の良くなったイギリスは

「で?誰にしかける?」
と、こちらもノリノリで聞きさえする。

元々こういうイタズラは大好きなのだ。

「そうですねぇ…一応信じないだろうとは言っても少しでも信じる可能性のある方の方が楽しいですねぇ…」
と、日本はすでに仕掛ける相手を決めてはいるのだが、考えこむふりだけはしてみる。

「強く言い切ればなんのかんの言って信じてしまいそうなお子様はただ今フランスさんに絶賛告白中ですし、バレても笑い話ですませて下さりそうなポルトガルさんはどなたか他に想い人がいらっしゃるようですし、かと言ってあまりに関係の遠い方だとあとで揉めそうですしね」

「そうだなぁ。意外に人選難しいな」
「そうですねぇ…」

う~んと唸る島国二人。
しかしやがて頃合いを見計らって、そうですっ!と、日本がパン!と両手を叩いた。

「決まったか?」
「ええっ!スペインさんにしましょうっ!あの方なら下手すれば信じますっ!」
スペイン~~?!!!

確かに下手をすれば信じそうだ。
あとのフォローもフランスあたりに押し付ければ無問題である。
しかしスペインは……ダメだ。

いや、スペインは…とイギリスが拒否する前に、日本は驚くべき早さでバッと席を立ち上がり、従業員に何か言っている。

早く、早く、と、手招きをされて行ってみれば、

「今スペインさんをお部屋に運ぶようにお願いしたのですが、一応セキュリティやプライバシーの問題もありますし、主催のイギリスさんも同行して下さい」
と、すでに手を打たれていた。

会議の時の歯切れの悪さとは別人のように強い押しでどんどん事を進めていく。

ここでイギリスは初めて自分がとんでもない約束をしてしまったことに気づいたが後の祭り。
泥酔状態のスペインを部屋のベッドまで運び、ついてきた日本に言われるまま自分の携帯を渡すと、日本はスペインの懐から携帯を拝借してメルアドを交換させる。

「そうですね…途中の会話にはこのキーワードを入れて下さい」
と、会話の内容まで厳選されて、もはやNoと言えないところまで追い詰められていた。


こうして戦々恐々としながら1か月後、イギリスはスペインにメールを入れることになるのである。


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