「なんだい、これっ!どうしろって言うんだいっ!!」
すでにもうこれで終わった気になった。
これがイギリスあたりなら、素直に言えばくれそうだし、くれなくても飲ませれば勝手に脱いでくれそうだ。
だが、ロシア。よりによってロシアだ。
事情を話したらかえって面白がって意地でもくれなさそうだし、飲んで酔って脱ぐ癖もなさそうだ。
というか、あの国で酔うたび脱いでたら凍死する。
パンツ…ロシアのパンツ……
ブツブツとつぶやいていたら、天使に出会った。
正確には…天使のように見えるリトアニア。
「あの…アメリカさん、ロシアさんのパンツが何か?」
少し青ざめて見える。
そりゃあ怖いだろう。
曲がりなりにも超大国がロシアの家の側でロシアのパンツなんてブツブツつぶやいていたら。
それでも声をかけてくれるリトアニアに目頭が熱くなった。
というか…泣いた。
「お…おれ…絶対にロシアのパンツが要るんだぞ」
ガタガタと寒さに震えながらそう言って泣く元雇い主を見て、リトアニアはどう思ったのだろうか……。
クルクルと色々な想像が頭を駆け巡り、関わらないほうが…という考えも当然脳裏をよぎりはしただろう。
しかしながらリトアニアはやはりリトアニアだった。
「俺…ロシアさんの家の整理を頼まれていたんですが…そういえば下着もそろそろ古くなってきたから、処分するものはしないとですよね。
新しいのをおろして、古い物は何枚かゴミに出して置きましょうか」
と、大きなひとりごとを言って、ロシアの家の中に入っていく。
そして…大きなゴミ袋を抱えて戻ってきた。
「さて、ごみの日は明日ですが…生ごみも入ってないので庭先に出しておいても大丈夫そうですね。下着なんて漁るカラスもいないでしょうから…」
と、庭先に置かれるゴミ袋。
「さあ、あとは室内の掃除もしないと」
と、室内に戻るリトアニアに心の中で手を合わせ、そっと軽く口を縛ってあるだけのゴミ袋をあけて、中からパンツを一枚入手した。
「ロシアのパンツげっとだぞぉ☆」
戦利品を片手に掲げてはみたものの…寒い。
この寒さは決して気温の寒さだけではなさそうだ。
ちらりと視線を感じてロシアの家の窓に目線を向ければ、ちらりとのぞく茶色の髪とさっと閉められるカーテン。
「…うん…まだ終わってないんだぞ…」
と、急に泣きそうな気分になって、アメリカは今度は自家用機で西に向けて旅立つ。
目指すはベラルーシ。
入手したのはいいが、仮にも女性にいきなりパンツなんか渡したら変質者なんじゃないだろうか…。
そんな事を考えながらもベラルーシ宅まで着くと、バン!!と開くドア。
綺麗な長い髪を翻して飛び出してくる美少女。
「お前っ!!そのポケットの中の物を寄越せっ!!!」
と、いきなりナイフをつきつけられて、おそるおそる両方のポケットの中身…財布に携帯、ハンカチにキー…そして……ロシアのパンツを両手に広げると、ベラルーシは迷わずパンツをひったくった。
「これは……2012年物の兄さんのパンツっ!!」
マジマジとそれを検分したあと、そう呟いて迷わずパンツを大事そうに折りたたんで自分のハンカチにくるむとポケットへ。
「これは貰っておく。で?どうやって手に入れたっ?」
と言われて仕方なくロシアの家の庭のゴミ袋からという話をすると、
「なんだとっ!!無くなる前に急がなければっ!お前、兄さんの家まで大急ぎで送れっ!」
とまたナイフをつきつけられ、二人で自家用機に。
「急ぐから礼はあとで送ってやるっ!!」
ロシアの家の近くまで送ると、少女はまた綺麗な髪を翻して駆け出していった。
白い雪が降りしきる中、それは美しい光景だった。
目的がパンツ奪取のためとかではなければ…だが。
こうして最大の難関は意外にあっけなくクリアできて、アメリカはほ~っとため息をつく。
「次は…なんだい?」
と、おそるおそるリストを覗けば、今度はまあなんとかなりそうだ。
【ペナルティ3.ポルトガルとマカオを年末年始ラスベガスで過ごさせる】
そしてアメリカは迷わずカナダに電話する。
「やあ、兄弟。ポルトガルとマカオってどこにあるんだい?」
これが一番の難関なくらい、こちらはあっさりと終わる。
まあ途中で中国が出てきてポルトガルと一緒というあたりで揉めたが、マカオのアドバイスで弟分の香港に小銭を握らせて仲裁に入ってもらい、事なきを得る。
こうしてどうやら恋人同士らしい二人を仲良くラスベガスに放り込み、任務完了。
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