仇敵レディと魔王を倒せ_3_8

「閣下ぁ~、お人が悪い…っつ~か、俺試されてますね?」

俺らの野営場所に行くと、俺はスペインとアリスちゃんを少し離れた所に残して、トリックに声をかけた。

最初は…言われた通り、同じ方面を目指す二人組に会って、一緒に行く事にした。
それだけだ。

俺がそう言うとトリックは二人に視線を向けて、上記の言葉を言い放ったわけである。

「人が悪い?」
と、素知らぬふりで眉を少し寄せて見ると、トリックはいかにも怪しそうな顔にさらに怪しい笑みを張りつけた。

あ、ダメだ。
これ見たらスペインが余計に警戒するな…。
などと思いつつ言葉を待ってみる。

すると、トリックは二人に視線を向けたまま、
「1人は…勇者候補ですよね?男の方。閣下の仲間だ。
国…でしたっけ?オーラでわかりまさぁ」
と言う。

おおっ、やっぱわかんのか。

「女の方は…ちょっともう少し近寄ってみねえとなんとも…」
と、目を眇めて言うので、俺様は二人に向かって手招きをした。

そこで二人が近寄ってくる。


「なんや、アリスになんかふざけた真似しよったら、ギルちゃんの連れでもどたま叩き割るでっ!」

アリスちゃんをあまりにジロジロ見るんで、アリスちゃんは怯えたようにスペインの後ろに隠れ、スペインが気色ばむ。

それでトリックは慌てたように、俺様の後ろに駆け込んだ。

「す、すいやせんっ。最近あちこちでイルスの神子や神父が誘拐されたり殺されたりしてるらしいんで、それかと思いやして…。」
「へ?そうなのか?」
「へぃ。ちょうど勇者候補が現れ始めた頃だと思いやす。」

「殺す…やてっ」
スペインの表情が険しくなった。
あー…スペインはアリスちゃんの事があるから仕方ねえけど、それよりも……
「それもあるけどよ、勇者候補、つまり俺らがここに飛ばされた頃からってのが嫌じゃねえ?」
俺の言葉にスペインがさらに顔をしかめた。
「国の誰かがやっとるって事か。」
「ああ、神様のご褒美とやらのためかもな…。
自分だけヒーラー連れて、他の奴にヒーラーがつかねえように…。」

そんな事を二人でひそひそやっていると、ふと気付くとアリスちゃんが不安げな目でこちらを見ている。
そこで騎士な俺様としてはその前に膝まづいて、
「大丈夫、お姫さんは俺様がぜってえに守るから…」
と、我ながらイケメンオーラ満載でその手を取って口づけようとしたら、スペインに蹴り倒された。

容赦ねえ…とは思うが、ここは仲間割れをしてる場合じゃない。
もしかしたら、あの神様の褒美とやらは、こうして俺らを仲間割れさせて魔王討伐を達成出来なくする罠かもしれねえ。

「スペイン…」
「なんや?」
「協定を組もう。」
「協定?」
「おお。俺様は親父に頼まれたからには絶対に世界の水没を阻止してえ。
正直、褒美とやらはまあ諦めても良い。
だから俺らはとりあえず魔王倒すまでは絶対に互いを裏切らない。
そうしねえか?」

俺様はすかさず立ち上がってスペインの肩を抱えると、少し顔を近づけて小声で言う。
アリスちゃんにもトリックにも聞こえないように。

アリスちゃんは巻き込まねえために。
トリックは…それプラス、万が一何かを企んでいる人間だった時のために…。



結論から言うとスペインは即了承した。
つ~か、元々その気がなければ得体のしれない連れと一緒になるとかいうリスク犯してまで一緒にこねえだろう。

だからそれは想定の範囲内。
意外だったのは、そのあとスペインが出した条件だ。

もしどちらかが魔王にトドメを刺して神様とやらの褒美をもらえる事になった場合、個人的なレベルを超えた事、ようは国や世界に関わるような事は頼まないということだ。

スペインに言わく、神様とやらは信用できない。
これは俺様も同意だ。
褒美とやらが互いが互いを妨害して目的を遂行できなくする罠かもしれない…という俺様の考えを奴に告げると、スペインもそう思うと言ってきた。

だからもし国や世界にとって良いと思われる事を願ったとしてもわざと曲解しておかしな形で叶えられてとんでもない事態を引き起こす事もありうると思う…と言われればなるほど、と納得した。

しかし謎というか…俺様が気付かなかっただけか?
スペインはこんなに物事を深く考える奴だったか?
思わず黙って凝視しちまったことで、俺様の疑念に気付いたんだろう。
スペインはにやりと笑って

『一応な、親分も元覇権国家やで?素直なだけやったらやっていけへん。
せやけど…色々面倒やから親分は親分のキャラでいくさかい、面倒事はぷーちゃんが考えたって事にしといてや。』
と、暗に色々考えられる事は秘密にしろと言ってきやがった。

なんというか…俺様も青いっつ~か、まだまだ若かったということか。
もう数百年、すっかり騙されてた。
つ~か、今でも意外すぎて信じられねえ。

でも確かにそうだよな。
スペインは修羅場をかいくぐってきた年月が違う。
奴は実は欧州でも古参の古だぬきだったってことか。

まあいい。
今回も、元の世界に戻っても、こいつを敵に回してなんちゃらということは、おそらくないだろうし、味方は賢いに越した事はない。

こうして俺様達は協定を結んで敵(魔王)に立ち向かう事にした。

褒美…は、まあもしもらえたら…だが、俺様ブログをより超絶にカッコよく作成するために高性能のPCを頼んでみるといったら、スペインに少ししょっぱい顔をされたのは、忘れようと思う。


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