仇敵レディと魔王を倒せ_3_6

画策


『自分…まさかあんな怪しい奴を仲間にするつもりなん?!』

小声で言いつつも、スペインの目は思わず吊り上がる。

絶対に失敗出来ない、他にはスペインとイギリスが組んでいるとか、二人一緒でいる事が魔王に辿りつく条件だとか、絶対に悟らせないようにしないとと言ったのはイギリスの方じゃないか。

そんなスペインの言外の声に、イギリスはさきほどのエンジェルスマイルはどこへやらといった感じの黒い笑みを浮かべた。

それでスペインは半分確信する。
ああ、こいつまた企んどるな…と。

スペインが正々堂々の武力で覇権に登りつめたとしたら、イギリスは権謀術数でそこまで登りつめた国である。
騙し合いとなったら強い。

その証拠に
『いざとなったらプロイセンからそいつより強い信用を勝ち取りゃ良いだけだろ。』
等と平然と言う。

そう結論を先に言っておいて、イギリスは手早く根拠を述べ始めた。

『そいつはプロイセンを国だと見破った。
ってことはだ、3つの可能性があるよな。
一つ目は他の国の誰かから参加している国の特徴を聞いている。
二つ目は…俺ら全員の情報が神の側から漏れている。
三つ目は本人の言うとおり本当にオーラが出てて、一部の勘の良い奴にはこの世界の住人とは違う何かがあるとわかる。』

『どの可能性が高い?』

『それを知るため会ってみた方がいい。
まず最初はプロイセンにお前の事を知り合いだって言わせないで会う。
それで断定できなければオーラなんて見えてねえって事で1か2。
神側からの情報なら結構詳細を聞いてる可能性高いから、どちらかと言えば1か。

普通、同族ならプロイセンがまずそう言うだろうと思うだろうから、他国から簡単な特徴だけ聞いてるだけだとすりゃ、プロイセンが言わねえとすれば同族じゃねえって判断するとこだろ。

その後、他の奴らやプロイセンに対するのと同様に、俺は単なるお前に助けられたこっちの世界の住人だという紹介をして、それでばれないようなら1確定だ。
オーラ見えないし、“イギリスが若返って女装してスペインと同行している”という神だけが知っている事実を知らねえって事だからな。

逆に俺の正体までバレるようなら、2か3だ。女装したイギリスってとこまでバレるなら2か。

俺がイギリスだってとこまでバレた場合は、仕方ねえ。
プロイセンにもお前にしたのと同じ説明、神が信用ならねえし、世界に影響する可能性のあるような願いだとわざと曲解されて危険だから願うなら個人の範囲の事にする事、国によっては妨害してくると思うから出来るだけ手は隠したい、だから俺の正体は隠す事って話をする。
そのうえでトリックは神側の良くねえ事を企んでる輩確定と言う事で処分だ。

俺が国と言うところまでなら、誤解だってプロイセンを騙しきる。
そのうえでお前はトリックが俺に対して良からぬ事を企んでいると言う事で敵対心を持つという態度を作れ。
で、どこかでそいつが俺に対して危害を加えそうになっているように見える場面を作るから、そこでお前はそいつを叩き斬れ。』

『うあ~、えっげつなぁ~』
そう言うスペインに、イギリスはにこりと可愛らしい笑み。

『…そうおっしゃるわりに、とても楽しそうな顔をしておいでですわよ、スペイン王国様?』
『あ~、バレてもうたかぁ』
『敵とみなした相手に対する態度は、俺(イギリス)よりよほど苛烈だしな、お前。』

何しろ異端審問のお家元だ。
身内以外の人権なんて踏みにじるためにあると思っているんじゃないか?と、イギリスは笑う。

『まあ…なぁ…』
と、こちらも黒い笑み。

『せいぜい楽しく騙して魔王城に一番乗りしようなぁ』
『どっちが魔王かわかんねえ気がしてきたけどな』
『違いないわぁ』

顔を見合わせて互いに黒い笑みを浮かべる二人。
それじゃあ意思の疎通ができたところで…と、即イギリスがプロイセンの方に戻って行く。


「お待たせしました。トーニョさんも分かって下さったようなので、合流いたしましょう。」

クルリと振り返った時には、さきほどの黒さなど微塵も見せず、本当に良家の箱入り娘然としているイギリスにスペインは感心する。

「おう…でも…いいのか?」
と、戸惑ったような様子のプロイセンに、イギリスは胸の前で手を組んでニッコリと首を傾ける。

「ええっ!ギルベルトさんを助けて下さった方ですものっ!きっと良い方ですわ。
それに…もしも、万が一にでも害のあるような方でしたら、お二人で守って下さるのでしょう?」

ヒクリ…と、スペインは噴出しそうになるのを堪えて喉を震わせる。

う…上手いわぁ…親分よりぷーちゃんの扱い分かっとるんちゃう?
騎士団出身で今回もジョブは迷わず聖騎士を選択しているプロイセン。
そこにいかにも清楚で清らかな乙女のフリで守って下さいときたか…と、大英帝国の本気を前に、スペインは笑いを漏らさぬように自分で自分の手をつねるが、感動したようにイギリス、もといアリスに視線を釘づけにされているプロイセンは気づかない。

「もちろんっ!もしあんたに危害を加えるような輩がいたら、フリッツの親父の名、そしてドイツ騎士団の名において、何があっても俺様が守るから。」

と、恭しくその場に膝をついてアリスの手を取って言うプロイセンは、さすがに絵になっている。…のが、なんとなく気に障って、笑いがスッと引いて行く。

「ぷーちゃん従者候補の分際で何格好つけとるん。ええから、荷物持つの手伝ってや。」
と、不機嫌に言うと、スペインは移動すべくボッコの肉やディンの実を整理し始めた。


『自分…ぷーちゃんにあんま接近しすぎんといてな。そこからポカやってバレたら親分まで一蓮托生なんやからな。』

プロイセンに思い切り荷物を持たせたあと、スペインはアリスの腕を掴んで引き寄せると耳元で、そう小声でささやく。

そう、単に二人一緒でなければ魔王の間の扉を開けられないので、必要以上にイギリスに他を近寄らせないのは、仕方のない事なのだ。
と、スペインは思う事にするが、そんなスペインの複雑なもやもやに気づく事無く、

『バレるようなヘマしねえよ。』
と、肩を抱かれて抱え込まれたまま不思議そうにこちらも小声で返すイギリス。

怪訝そうにはしているが、その表情には険もなく、きょとんとした顔はあどけない。

こんな風に密着する事はあまりなかったので、この身長差でこんな距離で見あげられるのは久々というか…初めてかもしれない。
思いのほか細く小さく頼りないその姿に、遠目で見るのが精いっぱいだった頃を思い出してスペインは言葉に詰まる。

あの頃だって本当はこうしてみたかった。
それが短期間であんなふうに終わるとしても、一時的にでも良いから…。


ぎゅうぎゅうとイギリスを抱きしめるように歩き続けるスペイン。
荷物を抱えて少し離れて歩いているプロイセンが不思議そうにこちらを見ている。
スペインはその視線を全く気にする様子はない。
何か様子がおかしいなと思いつつも、イギリスは仕方なくプロイセンに向かって少し困ったような笑みを浮かべて笑いかけた。

「私…なんだか誘拐されてたみたいでトーニョさんに助けて頂いたんですけど、その後も色々似たような事あったりしたので……危機感無さ過ぎて危なっかしくて怖いみたいです。
いつも心配させてしまってまして…」

と、暗に自分がよく誘拐されかけるので、信用しきれない相手に会うと言う事もあり、スペインが神経質になっているのだと伝える。

すると身の内に入れた者に関しては過保護なスペインの性格を知っているプロイセンは「ああ、そいつそう言う奴だから」と、苦笑いした。

『おい、本当にどうしたんだよ?気分でも悪いのか?』
表向きはプロイセンに言い訳をしてみたものの、実際の理由はわからない。
なのでイギリスはスペインに小声で聞いてみるが、スペインは無言で肩を抱いて抱え込んだままで、返事がない。

ただ引き寄せられた胸元からトクン、トクンと聞こえる心臓の音が心地よかったので、イギリスはそのまま引きはがす事はせず、歩き続けた。




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