仇敵レディと魔王を倒せ_3_4

起き上がった瞬間、プロイセンがヒーリングで細かい傷などを治していたアリス…もといイギリスの手をいきなり握ったので、スペインがその後頭部にさばいていたボッコの骨を思い切り投げつけて昏倒させたりしたのはご愛嬌。

二度目に目を覚ました時には、プロイセンもさすがに手は出さず、ただ敬意を示すため自分の胸に手を当てて礼をする。

それにもイラっときてスペインはもう1本骨を投げつけたが、2回目ともなれば普通に避けて、プロイセンはスペインを振り返って文句を言った。

「お前なっ!そのすぐ暴力に訴えるくせ止めろよっ!!」
「やって、プーちゃんキモいねんっ。プーちゃんのくせにっ!」
「何がだよっ!助けてもらったら礼すんのは当たり前だろうよっ!」
「それやったら、いつもみたいにケセセとか笑いながらしいっ!」
などの応酬。

いつもならこの3人ならスペインがつっかかる相手はイギリスで、それをプロイセンがなだめて…という形がほとんどである。
こんな風に自分が居る前でスペインがプロイセンにつっかかるというのも珍しく、イギリスはしばらくそのやりとりを眺めていたが、結局キリがないので割って入った。

「あの…トーニョさん、こちらの方は?」

飽くまでスペインがこちらの世界で知り合ったヒーラーの少女アリスで通すため、当然プロイセンを知らない設定だ。

そう振られてスペインは考える。
騙すとなると自分よりイギリスに主導権を取らせたほうが安全だ。
奴はプロだ。
そんな事を思って最低限の受け答えをしていく事にする。

「親分の悪友やねん。プー太郎言うんやけどな」
とそれでもチクリと落とすのを忘れずに言うと、即プロイセンが
「プロイセンだっ!!」
と否定した。

しかしそこで聡いプロイセンはふと気付いたのだろう。
「スペイン、お前はアントーニョの方名乗ってるのか?」
と聞いてくる。

そうだ、そこが重要だ。
スペインはちらりとイギリスに視線を送った。

もちろんそのスペインの視線の意味はイギリスも分かっている。
プロイセンは国名を名乗っている。
その時点で他国による妨害を視野には入れていないし、自分も妨害する気がない可能性が高い。

元々は戦略に長けた軍事国家だ。
ゲルマンによる世界支配などを神からの褒美として望む可能性も…と思っていたが、そんな事もないらしい。

ここでのプロイセンの行動はどちらかと言えば聖職者に近い方向、もっと具体的に言うなら、魔王を倒して世界を水没から救うという事に重点を置いているのだろう。

まあ…そう見せかけて…という可能性もないとは断言できないが、なんとなくない気がする。
イギリスはそう判断して、素早く今後を考えた。

プロイセン自身に正体を明かすのは問題ない。
が、スペインは隠す方向で行くつもりらしい。
まあイギリス的にはどちらでも良いと言えばどちらでも良い。
だからわざわざスペインに反対して説得の手間など取る必要はない。

それに知る人間が多くなればそれだけ秘密が漏れる可能性は大きくなる。
プロイセンが親しくする相手が必ずしも同じ考えを持っているとは限らない。
ここは正体は隠して、しかし敵に回らないよう上手にコントロールしながら同じ目的に向かって行動を共にするのが正解だ。

そう、別にスペインの意思を尊重しようとか、アリスとしてふるまえばスペインがいつもと違って優しく接してくれるとか、決してそんなわけではない。

もとい…正体明かすより騙していた方が楽しいじゃないかっ。

ニコリとイギリスの顔に可愛らしい笑みが浮かんだ事で、スペインもその意思を読みとった。

…ほな、大英帝国の本気を見せてみぃっ。
と視線を送ると、イギリスは両手を胸の前で組み、こくりと小首をかしげて見せる。

「もしかして…プロイセンさん…というのも、トーニョさんが出身地のスペインさんと呼ばれる事があるとおっしゃってたのと一緒で、出身地の名称なのですか?」

いかにも無邪気にあどけない様子で聞いてくる少女。
男には容赦なくとも、男だらけの騎士団出身のプロイセンは清楚な感じの娘には弱い。

また、少年期のイギリスの事も知らないし、さらに特徴的な太い眉とぴょんぴょんと跳ねた固そうな髪の代わりに、綺麗な細い三日月形の眉と綺麗なサラサラのロングヘアだと、よもやそれがイギリスだとは思ってもみないのだろう。

にこりと微笑みかけられて、知らず知らず顔を赤くした。

「そうやで。本名はギルベルト・バイルシュミット。」
と、スペインが固まっているギルベルトの代わりに答え、イギリスが
「そうですか。ギルベルトさん…とお呼びした方が?」
と、また微笑みかけると、コクコクと頷きながら
「別に俺様はプロイセンでもギルでも…」
と、ようやく口を開く。

「それやけどな、もし俺らと行動共にするなら、名前の方名乗ったって。」
と、そこでスペインが口を挟んだ。

そしてチラリとイギリスの方に視線を向け、またプロイセンに視線を戻す。
その視線の意味を考えつつプロイセンは黙ってスペインを向き直り、そしてその言葉を待った。

「自分がそういう認識あるかわからんけど、俺らが国名で身分明らかにすると、他の奴らから妨害受ける可能性あるやろ。
まあ…ギルちゃんが協力してくれるんやったら大抵の奴には負けへんと思うけど、アリスがおるし、出来るだけ危険を避けたいねん。」

少しプロイセンに近づいて、小声でそう言うスペインの言葉を、プロイセンはあっさり信じた。

普段はちゃらんぽらんなところもあるが、今こいつが言っている事は何よりも正しい。
女性や子どもを危険な目に遭わせるような事は決してすべきではない。

「もちろんだ。女性やガキは守ってやんねえとな。
でも彼女は?色々全部知ってんのか?」

スペインの提案に大いに同意しつつもプロイセンはチラリとイギリスに視線を向ける。
それに対してスペインは念のため他国に出会った時用の説明を脳内でまとめるため、逆にそれもイギリスにアドバイスされたままの言葉を述べた。

「先にぷーちゃんの方の現状教えてくれへん?
俺は守らなあかんもんがあるから、悪いけどこっちの情報はそれわかってからやないと教えられへん。」

…出来るだけ真剣に、途中で吹きだしたりすんなよ?
と言う以前イギリスが言った騙す時の心得の言葉を思い出し、なるべく顔の表情を引き締める。


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