合流
「ほな、親分食料探しに行ってくるから、ここ動くんやないで」
現代より幼くなって体力がなくなったイギリスと未だ畑仕事で鍛えていて体力のある自分。
どちらがより動くかと言ったら自分だろう。
泉近くで野宿をする事にして、久々に大量の水が確保できる事だしと、ややたまってしまった洗濯物をイギリスに任せてスペインは食料を探しに行く事にした。
果物にこのあたりではボッコというらしい野性のイノシシに似た獣の肉。
その日食べる分以外は街で買っておいた塩をして塩漬けにしたり、干したりして持ち歩く。
イギリスはヒーラーを選んだ時点で特別な攻撃力は皆無に近いので、自分が離れる時は弱い魔物なら入って来られないように神聖魔法で結界を張らせている。
だが、強い魔物に対しては効かないし、あまり人が来ない森の奥とは言っても夜盗の類も心配だ。
なにしろ15世紀の頃の姿をしたイギリスは可愛い。
今でも十分華奢で童顔ではあるのだが、あの頃の可愛さは異常だと思う。
本当にまだ男になりきっていない…子どもから青年になる途中の危うい美しさ。
そんななりで、女装までしているのだ。
さらに言うなら…本人は周りを騙すためだろう。
ことさら愛らしさ、はかなさ、か弱さを前面に押し出していて、けしからんことこの上ない。
あれで惑わされない男は居ない…と、スペインは全世界に向けて断言できる。
まあ…それに騙されて無体を働こうとしたところで、実は中身は1000歳を超えた老大国。
ナイフ1本与えておけば大抵の男はのしてしまうだろうが、それでも現代より幼くなって単純な腕力と言う意味で言えばかなりなくなっているのだ。
押さえつけられてしまえばどうなるかもわからない。
なので、スペインもあまり遠くには行かないように気をつけてはいた。
その日もボッコを一頭狩り、それを抱えて後ろに背負った籠にはディンという林檎に似た果物をいっぱいにして、スペインは急ぎ足でイギリスの待つ泉へと戻る。
そうしてもうすぐ着く…という所まで行ったところで、スペインは泉を覗き込む不審な人影に足を止めた。
どこかで見たような銀色の頭…。
泉の方を凝視しているその男が顔を赤くして、鼻から血を流した。
その男の視線の先にはイギリス。
洗濯物を広げている…のは良いが、問題はその洗濯物だ。
以前に最初の街でナイトもどきに贈られたフリフリのベビードール。
…あんなんまだ持っとったんかいっ!
寝間着なら自分が新しいモノを買ってやるから捨てろと言ったはずだ。
スペインはいらっと舌打ちをする。
本当に自分のパートナーだと言って歩いているのに、油断も隙もない。
みんながイギリスに言いよってくる。
確かにそれは作戦としては成功で、実際に彼らの贈り物で装備が成り立って入るのだが、まがりなりにも自分のパートナーと言う相手が他の男が贈った物を身につけるのは、腹がたつのだ。
もうこれは性分だから仕方がない。
もちろん、それをイギリスにぶつけたら色々破たんする。
それはスペインとてわかっている。
だから苛々しながらもイギリスから視線を反らした。
その反らした先に見える銀色の頭……
そしてスペインは決意する。
うん、殺そう。
あれはぷーちゃんやない。ぷーちゃんそっくりな変態や。
そう決意して横から後ろに周り、そっと気配と足音を消して近づいた。
普段なら気配に聡いプロイセンだが、ベビードールに気を取られているのか、スペインに気づく様子はない。
…さすがに…刃の方やと色々まずいな……今後魔王退治で協力せなあかんし……
と、最後の理性で斧の柄の部分を振り上げて、スペインはその頭に振りおろす。
ガツン!と良い音がして、ガササっと草の中にプロイセンが倒れ込む音に、イギリスの周りに集まって戯れていた小動物達が驚いて逃げていく。
その様子はまるでディズニーの絵本の眠れる森の美女の1ページのようだ。
そして同じくビクッ!と驚いてガラス玉のように澄んだ大きなグリーンの目を見開いたイギリスが振り返った。
「…自分……もうちょい用心しぃ?」
ああ…可愛らし…と思ってしまう気持ちを押しこめるように、はぁぁ~とことさら大きくため息をついて姿を現すスペインに、目に見えて安心した様子を見せるイギリス。
それに、先ほどからの苛々がス~っと薄れて行く。
「…脅かすなよ、ばかぁ!」
と、よほど驚いたのだろう、非難するように見あげてくるが、少女のようにクルンと長い金色の睫毛に縁取られた綺麗なグリーンの瞳で涙目で見あげられても愛らしいだけである。
「せやかて…さっきから覗かれとったの気づいてないやろ。危ないで。」
よいしょ、と、イギリスから少し離れた場所にボッコを放り出して籠を置くと、『これは没収な』と、硬直していたイギリスの手からベビードールを奪い取る。
ああ…と、伸ばされる手。
…捨てぇって言うたやろ?と言われると、白い頬がぷくぅっと膨れる。
「…で?あっちは?」
と、膨れたまま、それでも話題を変えるようにイギリスはチラリと倒れているプロイセンの方に視線をやった。
「あ~、プーちゃんな。その下着見て興奮しててキモかったさかい、殴っといた。」
さらりと乱暴な事を言いつつ、スペインはさりげなくイギリスに背を向け、その視界に入らないようにボッコをさばき始める。
動物を殺して食べる事は当たり前の事で、イギリスも特にそれについて何も言わないし、普通に肉も食べるのだが、以前ウサギに似た小動物を殺してさばいた時に、一瞬、ほんの一瞬だけ悲しそうな顔をされたので、それ以来なんとなくそうするようになった。
毛皮は取っておいて街に行った時に売り、肉はさばいて今日食べる分と保存する分に分けておく。
「プロイセン…どうすんだよ。」
と、後ろからイギリスが聞いてくるのに、スペインは考え込む。
「ぷーちゃん次第…やなぁ。
とりあえず一緒に旅するんでもわかっとるやんな、“アリス”?
言葉遣いには気をつけたってな?」
と、暗に正体は明かさずに行こうと言う意思を示すと、イギリスも
「分かってます。ではそういう事で手当てしますわ。」
と、言葉遣いを変えて、プロイセンの方を振り返った。
そして…返事を待たずにヒーリングの詠唱に入る。
イギリスの呪文に呼応するように光る手のひら。
小さな光がキラキラとこぶの出来たプロイセンの後頭部の辺りを照らすと、見る見る間にこぶが無くなって行く。
こうして完全に回復したプロイセンが目覚めたのは、それからほんの2,3分後だった。
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