仇敵レディと魔王を倒せ_1_3

けほけほと煙にむせつつ手で白いものを払うイギリス。
その姿はまさに15世紀。
外見年齢にしたら13,4歳くらいだろうか…。

「おお~懐かしいなぁ。うちに嫁に来た頃やんな。」
と、こちらも懐かしそうに目を細めるスペイン。

フランスのようにふわふわした物ではないものの、真っ白な生地に白で丹念に刺繍を施した服は、確かスペインが用意してくれたものだった。

「ほら、自分も着てみ?これがええわ。」
と、何故かテンション高くクローゼットから出される真っ白なドレス。

もうどうせ恥をかくなら何を着ても一緒とばかりにイギリスは黙ってそれを受け取ると袖を通した。

ふんわりと柔らかな生地はデリケートなレディの肌を守るように優しく心地よい。
自分が着るとかでなければ上質で素晴らしいドレスだよな…と、イギリスも思う。

「まゆげ…は、剃るとかせんでも一時的にでも細くできひんの?別に基本的な骨格変えるわけやないし、まけたって。」
と、そこでもうイギリスがやるものと決めつけて、さっさと交渉に入るスペインをイギリスは睨みつけるものの、童顔な今よりさらに幼い顔で、大きな澄んだ瞳を潤ませて睨んでも可愛らしいだけで、迫力など皆無である。

交渉を持ちかけられたローマも元々面白がり屋なところもあり、ノリノリで、
「おうっ!ついでに髪も伸ばしてやらぁ。
特別サービスで、髪質だけは少しかえてサラサラのロングヘアにしてやるよっ」
と、手を軽くあげて、再度イギリスを煙に包みこんだ。



――遥か昔…世界のサラサラを目指した事があったよなぁ……

色合いは今と変わらぬ小麦色だが、見事にサラサラロングになった髪を、何故か妙に器用な手つきのスペインにツインテールに結ばれて、仕上げにとリボンまで結ばれている間、イギリスは虚ろな目をしつつ思い出す。

よもや…その頃切望した願いがこんな不本意な形で叶えられる日が来るとは……。

「さあ、これでええわっ。
ロマくらいなら余裕で騙せるでっ」
と、達成感に満ち満ちた顔でふうっと額の汗を手の甲で拭うスペイン。

いや、お前良いのか?大事な大事な子分をそんなことの引き合いに出して良いのか?
…などと普段なら突っ込みをいれるところだが、そんな気力もない。

まあ確かに…ふわふわのフリルの真っ白なドレスに包まれた身体はまだかなり華奢で中性的な頃だし、髪はさらさらのロングヘア。
イギリスのトレードマークとも言える太い眉もなくなったと言う事もあり、下手をすればフランス以外は騙せるのではないだろうか…。

姿見に映る少女の格好をした自分は、なるほどさきほど見たすさまじいスペインの女装と比べるべくもなく、自分だと思わなければ可憐で愛らしい。

「…しかたねえ…。絶対にばらさない方向で魔王に一番乗りするぞ。」
と、もう背に腹はかえられないので開き直る事にして、イギリスはスペインを見あげて言った。

「俺はアリス。ジョブはプリーストだ。てめえは戦士を選択して、街で魔王を倒すために回復出来る人間を探してて見つけたって事でいいな?」
「おん。ボロだすなや?」
というスペインの言葉に、イギリスはにやりと笑う。
「それはこちらの台詞だ。
まあ見てろ。たとえアメリカだろうとフランスだろうと余裕で落としてやるよ。
大英帝国の本気の前にひれ伏して崇めたてまつれ。」


こうしてどこか逆方向に吹っ切れてやる気満々のイギリスと、根が面白がりなためにノリノリになったスペインはそれぞれ装備を整えて、街に降り立つ。

最初の犠牲者は誰になるのか…それはまだ神のみぞ知る…であった。






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