仇敵レディと魔王を倒せ_1_1

「どこだ、ここ?」

がらんとした空間。
上も下も右も左も真っ白だ。

おかしい。
自分は先ほどまで世界会議の会場にいたはずだ。


確かいつもの通りアメリカが突拍子もない事を言いだして、自分がそれに反対して、フランスが『お兄さんはイギリスの言う事にはんた~い』とかふざけた事をぬかして…
主催のドイツが怒りにプルプル震えだし、会場がドイツだと言う事もあって補佐として同席していたプロイセンが

「フランス、ざけんなっ!ヴェストの邪魔すんなっ!」
と、フランスに向けて投げたペンをフランスが避けて…避けた先ではせっせと内職するスペイン。

それをさらに避けたはいいが、ちょうど持っていた造花にキャップを取ったままのペン先があたり、赤いカーネーションに黒いしみがついた時点で

「ざけんなは、自分のほうやぁぁ~~!!!!」

と、スペインがブチ切れて、なんと会議室の机をプロイセンに向かって投げ返した…ところで、室内が光に包まれた。

そしてまぶしさにつぶった目を開けてみれば、真っ白な何もない部屋にいる…というわけである。




「…っまた自分のせいかっ、この眉毛~~!!!!」
と、そこでいきなり後ろから聞こえる声に振り向くと、見覚えのある男。
まあ、さっきまで会議で同席していたのだから当たり前なわけだが。

「おい…どっちかっていうと、あれは状況からするとお前のせいだろ?!」
と、理不尽な言いがかりにイギリスが眉をひそめると、男…スペインは思い切り不機嫌に
「こういうおかしな事はだいたい自分のせいやって決まっとるやないかっ!」
と、近づいてくる。

今回に限って言えば自分は何もしていないし、妖精達の魔法の気配もしない。
本当に無関係なわけだが、そもそもが妖精を信じていない輩にそれを言っても仕方がないし、自分の側の魔法の気配がしないなんてことは、素養のない人間に証明する事は限りなく不可能だ。

一体どうなっているんだ…と、誰にともなく呟いたところで、

「じゃじゃ~ん!じいちゃんだぞ~」
と、この険悪にして緊迫した空気にはあまりに不似合いに、降ってきた男がいる。

こいつのせいかぁあ~~!!!
と、イギリスは即殴るためにこぶしを握りしめたが、スペインの方はその男に育てられただけあって、テンション高く再会を喜んだ。

「なんや、おっちゃん、久しぶりやなっ!どないしてん?」

イギリスに対するのとはうって変わった親しげな声音でそう言って、その初老の男、ローマに走り寄っていくスペイン。
しかし、勢い余ってそのまま突進していったスペインは、その身体をするりとすり抜ける。

「???」

トトッっとたたらを踏みつつ転ばずになんとか踏みとどまって、不思議そうな顔で振り向くと、ローマはやっぱり笑いながらとんでもない事を言いだした。

「あ、じいちゃんは本物じゃなくて映像だからな。
ちょっと神様のメッセンジャーなんて事を引き受けちまってな。」

「神様の…メッセンジャー?俺に?イギリスに?」
と、そこでイギリスをちらみするスペイン。

ローマはその問いには
「両方に…ていうか、会議に参加してた全部の国体にだ。」
と、シンプルに答えた。



そこからの話は聞くも恐ろしい語るも恐ろしいものだった。

「お前らさ、いっつも争ってばっかじゃん?
神様も呆れちまってな。
ちょっと世界を水に流そうか、なんて言い始めたのよ。」

うおぉぉぉ~~!!!ノアの箱舟って事かっ?!!!!
そんなもんをそんな軽く言うなぁぁ~~!!!
と、さすがにそれはスペイン、イギリス揃って青くなった。

「でもな、俺もこっちの世界には可愛い孫いるし?
まあついでに育てた奴らも多いしな。
じいちゃん、ちょっと神様に待ったをかけて引き出した妥協案が、国の面々が神様が作った箱庭の中で神様が設定した魔王を倒す事ってやつでな。」

「ほな、親分ちょっとその魔王どついてくるわっ」
と、そこで即腕まくりをするスペインを、
「ちょっと待てっ!説明は聞いてけっ!!」
と、ローマが容赦なく殴る。
卑怯くさい事に向こうに手出しはできないくせに、向こうの側からは出来るらしい。

「魔王を倒すって…武器くらいはもらえるんだろうな?」
と、そんな二人から少し距離を置いて、腕組をしつつ聞いていたイギリスも口をはさむと、ローマはそれには
「お前も…ちょっとじいちゃんの言う事黙って聞いとけ。」
と、小さくため息をついて肩を落とした。


「まずな、お前らはそれぞれバラバラな街から出発して、魔王の城を目指すわけなんだけどな、魔王の部屋のドアをくぐるのに、それぞれ条件がある。
で、お前ら二人の条件は、お互い手をつないでドアをくぐる事だ。」

はぁ?…と思い切り嫌そうに顔をしかめて、お互い顔を見あわすスペインとイギリス。
そして先に口を開いたのは、スペインの方だ。

「…チェンジでっ!」
「無理っ。」
「ほな、ドアの方をぶち壊すわ。」
「物理的に壊すのも無理なら、万が一壊れたとしてもくぐった瞬間街に強制送還だぞ。」
と、ローマが言った瞬間、二人分の舌打ちが聞こえた。

「まあでも魔王を倒せたら、世界の水没が防げるだけじゃなくて、ご褒美も出るぞ。
トドメを刺した1名様の願いを神様が叶えてくれるそうだ。」

「ほう?」
「え?じゃあこのまゆげを地面に這いつくばらせるとかでもええん?」
「ざけんなっ!!てめえの薄い髪にトドメをさして光らせてやろうかっ?!」

二人してまさに取っ組み合いを始めそうになった時、二人の間にドン!!と岩が落ちて来る。

「…次は外さねえからな?黙ってきけ。」

元祖覇権国家の迫力をちらつかせながら低い声でそう言うローマに二人してこくこくとうなづいて向き直ると、ローマはまた人懐っこい笑顔を浮かべた。


「…ってことでな、これからてめえらはジョブと獲物を選ぶことになる。
まあ一応魔王を倒すって目的があるわけだからな、農家や銀行家ってわけにもいかねえだろ?
戦士だの魔法使いだの好きなモン選べや。」
そこまで言うと、さあ、選べ、とばかりにローマは黙って手を広げた。

するとイギリスが
「質問だ」
と、手をあげた。
「ん~、なんだ?」
「容姿を変えられたりはするのか?」

(こいつ…楽しんでるんか、こんな状況で…)
と、スペインは半分あきれ顔だが、ローマが

「あ~…容姿は基本的には自分の姿だが、希望があれば15世紀くらいまでは遡らせられるぞ。服や髪形も変えられる。けど、性別変えたり全く違う容姿にとかはダメだ。」

と、答えたあと、自分の腕を無言で掴んでローマから少し距離を置き、小声で話し始めたイギリスの話に、その理由を知るのである。





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