生贄の祈りver.普英_1_5

魔王と天使


天使を拾った……というか、救出した。


15人ほどの一般兵などギルベルトの敵ではない。
あっという間に全員地面の上に転がして、残酷なシーンを見せるのも…と、そっと天使の視界を塞ぐためにかけていた自分のマントをその金色の頭から取り去ると、ガラス玉のようにまん丸く澄んだグリーンの目がまばたきもせずにギルベルトを凝視している。


「…怪我…ないか?」
と、身じろぎもせず硬直している天使に手を伸ばすと、天使は身を固くして、ぎゅっと目を強く閉じて縮こまった。

…あ………
と、ギルベルトは伸ばした手をひっこめる。

こういう反応はたまに取られる。
怯えられている……

怖い…か、そりゃそうだな……

血に濡れた手…
剣を振り回し、命を奪うための手だ。

戦場などでも戦闘員以外は手にかけない主義ではあるし、非戦闘員に関してはきちんと安全な場所に誘導すらするようにはしているのだが、自国以外ではたいていの女子供には悪魔か猛獣にでも出会ったような目で見られていた。

目があったら殺されるとか背を向けたら呪われる銀の悪魔などと秘かに広まっている事ももちろん知っている。

そう、自分が関わりたいような相手には怯えられ嫌われているのがわかっているから、ギルベルトも敢えて人間とそういう関係を築こうとは思わないできたわけなのだが、やはり改めて面と向かって愛らしい子どもに怯えられるとなかなかショックは大きい。

それでも…相手はもっと怖くて不安な思いをしているのだろう…そう思いなおしてギルベルトは出来うる限り優しいと思われる笑みを浮かべて語りかけた。

「怖い思いさせて悪かったな。
俺様は鋼の国の迎えだ。
これから王城までは絶対に無事送り届けるから安心してくれ」

と、チラリと鋼の国の黒鷲の紋章の入った小剣の柄を見せてギルベルトが今度は丁寧にハンカチで血を拭ってから再度手を差し出すと、天使のような少年はおずおずと白い小さな手を伸ばす。

それはギルベルト的には随分と感動的な光景だった。

内心、おおっ!!と歓声をあげつつも、驚かさないようにあくまでこちらは微動だにせず、その白い手がしっかりとギルベルトの手に乗せられるのを待って、それを掴んで地面に座ったままの少年を助け起こす。

そうして立ち上がった少年の前に膝をついて真っ白なチュニックについた汚れを丁寧に払ってやると、ギルベルトは少し迷ったが結局少年を横抱きに抱きあげて馬まで戻った。

「向こうの兵力がわかんねえしな。
このまま駆け抜けた方が安全そうだから、ここからは馬だ」
と、言いつつ少年をまず馬に乗せ、続いて自分も飛び乗り、鳥笛を吹く。

そうして一番最初に戻ってきた兵に
「王子はこの通り確保した。
でも向こうの戦力もわかんねえし、援軍が来ないとも限らねえ。
だから俺は先に出発するから皆に撤収を命じといてくれ」
と、伝えた。

本来なら王が1人で行動などとんでもないと思いがちだが、王は王でも最強の軍事国家である鋼の国の最強の王だ。
たいていの相手なら問題なく切り抜けるだろう。

そう判断してその兵は
「了解いたしましたっ!お気をつけてお戻り下さい、陛下」
と、敬礼して見送る。

その言葉に当たり前に頷いたギルベルトは、腕の中の少年が固まるのを感じてゆるりと見下ろした。

「…へい……か?……」
まるで信じられないものを見たように見開かれる目。

「ああ、名乗ってなかったな。
俺はギルベルト・バイルシュミット。
鋼の国の現王だ」
というギルベルトの言葉はおそらく少年の耳には最後まで届いてはいない。

「え?おいっ?!!」
焦るギルベルトの腕の中で、少年はぐったりと気を失っていたのだから……。

これが銀の悪魔と称される王と生贄の少年の最初の出会いであった。


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