生贄の祈りver.普英_1_4

一刻の猶予も許されない非常時に出動する最速の部隊、稲妻隊。

どんな困難な任務もこなす鋼の国最強の国王直属のその部隊は、全18人が3交代、一分隊6名で構成され、王を含めて7人で稲妻のように身軽に素早く行動するためにその名がつけられた特殊部隊だ。

一日のうちの3分の1の時間は何をしていても招集がかかったら10分で王の元に集合するように義務付けられていて、王の居場所はやはり王が吹き続ける笛の音で犬が判断する。


ギルベルトは笛を鳴らし続けながら、鎧を身につけマントを羽織り、一路馬屋へと急いだ。

その道々、すでに戦闘装束を身に付けた部隊員が続々と駈けつけ、馬屋に付いた時には7人揃っている。
そこで案内役の犬とは分かれ、王が金の笛を吹くと、今度は鷹達が飛んできて各隊員の肩に止まり、出発とあいなった。





「今回は森の人質を狙って風が動くのを想定しての出撃だ。
襲撃前ならそのまま護衛に混じって並走。
襲撃後なら襲撃者を追う」

こうして集まると説明がなくとも全員駿馬を走らせる王に続く。
非常時用の部隊だけあり、そのあたりは速やかだ。

説明は馬上が当たり前。
ギルベルトが馬を走らせながら指示をするとそこで初めて全員が了解し、あとはひたすらに馬を走らせる。


馬は訓練された駿馬で、丁度城から放射線状に8つの方向150kmの距離に砦。
そこで一旦2時間の仮眠後、馬を取り換えまた急ぐ。

それで一日におおよそ300キロ弱、馬車と徒歩の行列のおよそ9倍ほどのスピードで進む事を可能にしている。

一騎当千と言われる人材と共に、これが最も強く最も早いと稲妻隊が称賛される秘訣だ。



こうして1日半馬で飛ばし続けてついた国境沿い。
遠くに争う声と剣戟が聞こえる。

すでに渦中のようだ。
時間がない。


「とりあえず…人質確保が最優先で。
…っつってもまあ森の国の第四王子13歳としかわかんねえしな。
それらしき奴を確保出来たか確保にソロじゃ無理なようなら笛を吹け。
散開っ!!」

王が馬を降りてスッと手を伸ばして最低限の命令だけを告げると、6人はそれぞれ散って行く。


1人で多人数を相手に出来ないような輩は1人としていない。
ただ人質を文字通り人質として盾にされた時のみ、鳥笛を吹くようにとの指示だ。

こうして全員が散るとギルベルト自身も敵…もとい、敵に襲撃を受けているのであろう人質の姿を探して、人の気配のする森の木々の間へと身を翻していった。






遠くから聞こえる足音。
息をひそめて気配を消してギルベルトはそれが十分な距離まで近づいてくるのをジッと待つ。

普通にしていれば立っているだけでも圧倒的な存在感を持つ男と言われるが、何も気配を消せないわけじゃない。
爪を隠せない獣なんてただのバカだ。
能ある鷹ほど上手に爪は隠すものである。


敵はおそらく14,5名。
基本的には開けた戦場などで戦う兵などではないようだ。
金属の音がしないのをみると、装備は皮をメインとした軽装備。
武器も同じように大型ではなく小型だろう。
森の中で目的を遂げると言う事を考えると、正しい選択だ。

おそらく援軍が来るとは思っていないようで警戒もせず、気配も声も殺せてないあたりが上等な兵とは言えないとは思うが……


(俺様も武器は長剣かぁ…)

ギリギリ逃げられない位置まで待ちつつ、ギルベルトはなお音で確認する。
視線と言うのは意外に気づく人間が多いのだ。


集団の中で指示を出しているのが1人。
これが集団のボス。

集団の中央部に若干足音が重いのが1人。
これがターゲットだ。
おそらく人質を抱えているのがこいつだ。



ふむ…そろそろ頃合いか……

十分に距離を引きつけ木の陰から飛び出て瞬時に敵を視覚で確認。
1,2,3……15人。
おし、予測通り。
集団の後方にいる男がボス。
集団の中央後方には白い塊を抱えた男……

………
………
………

え?……天使か妖精の子ども…か?……



折れてしまいそうに細く華奢な身体
夜目にもわかる光色の髪。

まるで朝靄のようにふんわりと闇に浮かびあがる繊細なレースのヴェールの下、春の日差しに揺れる新芽を体現したような澄んだ淡いグリーンの瞳からは朝露のような涙の雫が溢れて、クルンとカールした驚くほど豊かで長いまつげの先を濡らしていた。

背に白い羽が生えていないのが不思議なくらい儚くも綺麗な子ども
それをこんな風に乱暴に拉致しようなんて、許される事ではない。

――俺様のテリトリーで随分とふざけた事してくれてるじゃねえか

ふつふつと腹の底から沸き起こる怒りの感情


――報いを受けろ

そう、これは国同士の利害とかではない。
まったくもって正しい罰…天誅だ。





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