生贄の祈りver.普英_1_2

銀の王


――俺様のテリトリーで随分とふざけた事してくれてるじゃねえか

全てを運命に任せる事にして身を固くしたまま不快感に耐え続け、一体どのくらいの時が過ぎたのだろうか…
どんよりと全てが薄暗い中、それは強い光のような眩しさを持って目に耳に飛び込んできた。

凛とよく通る声。
圧倒的な存在感。

不敵な笑みを浮かべながらそう言う男はプルシアンブルーの柄の大剣を担ぎ、それとは別に腰にやはり同色の柄の若干細身の長剣、そしてその長剣よりはやや短めの小剣の2本の剣を携帯していた。


そして襲撃者達に声をかけると、腰にさしている方の2本の剣を抜いてそれぞれを両手に構える。
そのどちらも襲撃者達の掲げた多くの松明の灯りが反射して光っていて、まるで燃えているように見えた。

翻る黒いマントの下には細かい金の細工の入った白銀に光る鎧。

そしてその鎧の上、暗闇の中赤く照らされるのはまるで精巧な細工師が作った彫刻のように一部のズレもなく美しく整った顔。

涼やかな切れ長の目におさまる瞳の色が世にも珍しい透明感のある真紅なのもあいまって、どこかこの世のモノとは思えない神秘的な雰囲気を醸し出している。

魔と思えば魔、聖と思えば聖とも思えるような不思議な存在……
そのどちらであるにしろ、男は上に立つ者特有の輝きを持ってその場に立っていた。
そう、強いて言うなら森の精霊王と言ったところだろうか。

この場の空気すらその下に従えて

――報いを受けろ

とその形の良い唇から発せられた言葉が戦闘の合図となった。




まるで流れるような滑らかな動き…
そのくせ弱々しさなど欠片もなく力強い。

どう考えても圧倒的不利であろう人数差というのもバカバカしいレベルの、10人以上はいる敵を1人で楽々と切り刻んで行く。

右の剣で上手に敵の刃を流しつつ、左の剣で切り裂いて、襲撃者に血飛沫をあげさせていく男からアーサーは目が離せなくなった。

恐ろしい…と思う。
なんの感情も見せずに淡々と攻撃を避け、相手を倒していくその様子は全身が凍りつきそうに冷たく…しかし神々しさすら感じさせる。

襲撃者達を全員倒し終わったあと、あの銀色に光る刃は自分の心臓を刺し貫くのだろうか…

もちろんアーサーがそう思っただけではなく、生き残っている襲撃者達の方も同じくわが身の事を考えたらしい。

「逃げるぞっ!!」
と、数名が言い始め、男に向かって行っている数名以外は方向転換を始めた。
アーサーを抱えていた男も同じくだ。

「お前ら、足止めしろっ!!」
と、どうやらボスらしい男が指示をして、アーサーを抱えた男を反対方向へと誘導した。


しかしその瞬間、男の紅い眼がアーサーを抱えた襲撃者の姿を捉える。

そして、
「おっとっ!忘れものだっ!!」
と、何か銀の鎖のような物が飛んできて、アーサーを抱えた男の首回りをクルクルと回って、その首を締めあげた。

ぐぎゃっと言うようなカエルが潰れたような声…

勢いよく後ろへ引っ張られるような感覚。

そのまま勢い余って宙に放り出されて地面に激突するのかとぎゅっと目をつぶるが覚悟していた衝撃はなく、その代わりに一瞬固い腕の中に横抱きに抱え込まれて、

――少しの間大人しくしてろ
と、耳元で低く囁かれたあとに即地面の上に降ろされた。

目的であるらしいアーサーを取られた事で、逃げかけていた襲撃者達のうち多数が戻ってくる。
どうやら元々残って男の相手をしていた襲撃者はもう倒されているらしい。

「あー、俺の方はもう用事は済んだんだが…最後まで相手しろってか?」
男は小さく息を吐いて、それから羽織っていたマントの留め具を外してマントを脱ぐと、それをパサリとアーサーの上へと落としてその上からくしゃりと頭を撫でる。
そうしておいて、

――汚れねえようにな、それ被っておいてくれ

と、存外に優しく聞こえる声でそう言って襲撃者達の方へと向き直った。



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