――根本的な解決にはなってねえよなぁ…・
アーサーを駅まで送っての帰宅後、ギルベルトはカチャカチャと洗い物をしながら考える。
元々は自分とエリザと…せいぜい桜までの問題だった。
被害を受けるのは自分だけと思えば、回避する方法なんていくらでもある。
だが今回関わってしまった相手は自分と直接交流があったわけではない同級生の…さらにその弟。
しかもまだ高校生だ。
両親が不在の自宅で食事で脅されてのモデル強要。
これがもっと小さな…例えば小学生くらいの子どもなら児相に駆け込むと言う手もあるが、17歳の高校3年生の男と言うと、どこまで本気で取ってもらえるやら。
普通に考えれば大学生の女生徒よりは強そうなイメージだし動いてもらえる気がしない。
それでもあんな幼げな子どもがBL漫画のモデルなんかを強要されていると思えば、放ってもおけないだろう。
会って二度目、まだ人間性もさして分からない状態だったであろう自分の前で泣きだしてしまったアーサーを思い出すと、なんとかしてやらねば…と強く思う。
洗い物を終えて手を拭いたエプロンを洗濯機に放り込むと、ギルベルトは自室へと戻った。
そこにはギルベルトの小遣い…と言うには若干多い金を生み出してくれるPC.。
本当はFXでもやればいいのかもしれないが、元手がなかったのと時間的に決まった時間を取れないのもあって、稼ぐ用と趣味、二つのブログを作って、稼ぐ用のブログ広告で学費と家賃、そして日々の最低限の生活費以外の小遣いと貯金をまかなっている。
まあ…最初は趣味で友人関係が見てくれればと“俺様ブログ”という日常の興味のあることなどを綴ったブログを始めて、余分な出費を出さないように電気代くらいになればいいと付けた広告。
元記事が趣味関係な事もあって高い広告が付かないため、これは今でもブログをやるためのPCの電気代程度にしかならないが、途中で色々興味本位に漁るうちに調べて行って、面白そうだな…と始めた“稼ぐ用の”高い広告がつく金融や時事ネタなどを扱ったブログはそれなりの利益を出してくれているし、まあきちんと大学を卒業して勤めて給料をもらえるまで、可哀想な子ども1人の食費くらいは出せなくはない。
別に部屋も広いとは言い難いが、今現在TVを見るように折り畳んでソファにしている2段ベッドの1段目を普通にベッドにすれば、寝泊りには困らない。
…というか、たまに友人を泊める時にはそうしている。
だが問題は…相手は18歳以下の高校生で、親は自分の子がそんな事になっているとは信じないであろう事である。
こちらが保護するつもりで泊めたとしても、相手が18歳以下なので親の了承がないと犯罪になってしまう。
つまり泊めるまでは出来ない。
おやつや食事を食わせてやるまでで、危険かも…と心配ではあるが夜は自宅に返すしかないのである。
ブログの更新は半ば日課になっていたので更新を済ませ、そのままTwitterへ。
と、そこで同級生の気になる書きこみを見た。
帰宅途中、大学の路線のとある駅でクマのぬいぐるみが顔を出しているバッグを持った学生がベンチに座っていて、その時は不思議な光景だ…と思って見ていたのだが、忘れものに気づいて30分後にそこを通ってもまだいたと言うものである。
まず気になったのはベアを連れた男子高生。
アーサーがティディベアが好きなのは本人から聞いていて、もちろんフランソワーズの趣味を容認はしないが、こんなに童顔で少女のように可愛らしい顔をしていてヌイグルミが好きで…とか言われたら、女の子のような格好で女の子のような事をさせたくなるのもわからないでもないな…と思ったものだ。
そこでふと気になって考えてみると、1路線しか電車が通っていない大学なので、その路線沿いにあると言うと、アーサーの自宅もそれに含まれる。
もうそうなってしまうと気になって、その同級生にDMでこっそりともしかして?とアーサーの家の最寄りの駅名を告げて聞けば、確かにその駅だと言うので、もう決定だ。
そうなるともう赤信号だ。
普通に考えてこの時間に駅で時間を潰しているとかあり得ない。
お気に入りのティディベアまで連れての家出と言う事は非常事態なのだろう。
とにかく回収してやらねば…と、ギルベルトはPCを消す時間も惜しんで即上着と財布を手に自宅を出た。
普段はまったり歩く駅までもタクシー。
駅の改札を抜けると階段をかけあがり、ちょうど来た電車に飛び乗った。
――本当に…俺様に電話しろよ!!
と、内心舌打ちをするが、他人の善意というものに著しく慣れていないアーサーは、相手の方から許容されて言いだされた事以外、自分から言い出せない事は想像に難くない。
これは…自分の方から自宅にちゃんと着いたかとか変わりはないかとか連絡をいれることを習慣づけるべきだった…と、ギルベルトは今更ながら後悔した。
こうして辿りついたアーサーの自宅最寄駅。
待合室もない小さな駅のベンチにアーサーは座っていた。
途中で雨に降られたのだろう。
普段はぴょんぴょんと跳ねている金色の髪がペタンと小さな頭に張り付いて、ぎゅっと鞄の中から顔を出しているベアを抱きしめながらぷるぷると震えている。
まるで打ち捨てられた子猫のようで、哀れを誘うその姿に、ギルベルトはなんだか泣きたくなった。
ギルベルトも泣きたくなっていたが、アーサーはそれよりもずっと長い時間、心細い思いをしていて泣きたかったのだろう。
電車を降りて自分の前に立つギルベルトを見あげると、まんまるの大きなグリーンの瞳から涙がぽろりと一粒零れ落ちた。
「馬鹿…俺様に連絡しろよ…」
はぁ~とため息をつきながらギルベルトはアーサーの前に膝まづいて、自分のジャケットでその冷え切った身体を包んでやる。
「…話は家で聞くから。行くぞ」
と、手を取って立たせて帰りの電車のホームへとうながすと、アーサーは泣きながらそれでも拒む事もなく付いてきた。
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