かつては自称親分としてロヴィーノの世話を焼きまくっていた、聞き慣れた頼もしい声に、ロヴィーノはホッとして息を吐き出す。
整った顔だけに怒ると迫力のあるその人物に少し引きながらも、そこはさすがに電波
「だ、誰?まさか…魔王?!」
とアリスはアントーニョを見上げた。
「フラン様と私を引き裂こうとしてるんですねっ!」
「俺が魔王だとしたらな…自分の目的を達成するのにコソコソ他の奴使ったりせんわっ。
ちゃんと正々堂々自分で動く。
自分みたいに自分が好きな相手本人以外にちょっかいかけるような卑怯な真似はせんわ!
自分がフランにちょっかいかけるのを邪魔しようとは思わんし、それはフランがどうにかする事やけど、今後ロヴィに手出ししたら親分、法的手段に訴えるで」
そう言い放つと、アントーニョはロヴィーノを振り向いた。
「あのアホあとでどついたるからな」
そう言ってハンカチを渡す。
ロヴィーノはそれを受けとると、礼を言って汗を拭いた。
「な…なによっ。他の男いるんじゃないですかっ」
アリスが言うのに、アントーニョは背を向けたまま
「アホ。俺は兄貴や」
と短く言う。
単に男としてではないという意味だったのだが、アリスの目がキラリと光った。
「お…お兄ちゃん?」
電波には禁物な一言である。
その目の輝きに、背を向けているアントーニョは当然気付かない。
「とりあえず…今日はあーちゃん仕事で香が送ってくことになっとるから、帰るで」
ロヴィーノの腕をつかんだまま改札をくぐろうとするアントーニョの腕にアリスがしがみついた。
「待ってっ!お兄ちゃん騙されてるっ!お兄ちゃんの本当の妹は私なのっ!」
「はあ???」
唖然とするアントーニョ。
もう…電波が入り乱れている…。
「魔王に魔法かけられてそいつが弟だって思い込まされてるのよっお兄ちゃん!」
「さっきまで親分の事魔王って言ってへんかった?」
ため息まじりに言うアントーニョにアリスはきっぱり
「私も魔王に魔法でそう思い込まされてたのっ!今魔法が解けたわっ」
と断言。
なかなか強者である。
「ね、考えてみて?そんな男より私の方がお兄ちゃんの妹に見えるでしょっ?」
「見えへんわ。誰がどう見ても見えへんから安心し。行くで、ロヴィ」
アントーニョはきっぱり言って歩を進める。
「お兄ちゃん、行っちゃだめっ!魔王の手先に騙されないでっ!」
「あ~、安心し。手先も何も親分が魔王本人や。危ないから離れとき」
もう相手にしない事に決めたらしい。
スタスタとロヴィーノの手を引いて歩いて行く。
「ちょっと道中痛いけど親分もつきあったるから、少し寄り道してくで。」
どう言ってもついてきそうなアリスに諦めてアントーニョはロヴィーノに言った。
「どこ行くんだ?」
「聖星。学校に置いて来よ、こいつ。」
どうせついてくるならそのまま学校まで連れて行って教師に任せようということらしい。
なかなか賢明な判断だ。
「なあ…もしかして待っててくれたのか?」
アリスは隣でキーキー言っているが落ち着いたアントーニョの態度に少し安心して聞くロヴィーノ。
それに対してアントーニョは単語帳に視線を落としたまま答えた。
「ああ。なんやあーちゃんが変な女に絡まれとるロヴィを窓からみかけたらしいんやけど、今日はどうしても会社の方にでなあかんねん。
で、親分も行こう思うとったんやけど、ホンマは自分がロヴィ助けに行きたい言うから、あーちゃんは迎えに来る部下の香にまかせて、親分だけ来たってん」
アーサーとアントーニョが付き合い始めてなんだか孤独感を感じていたが、なんのかんの言って二人共ロヴィーノの事は気にかけてくれていることに、なんだか感動する。
まあ…アントーニョに言うと調子に乗るから絶対に口には出さないが…。
アントーニョはそのままロヴィーノを連れて聖星の最寄り駅で降りる。
「お兄ちゃん、どこに行くの?」
アリスも一緒に降りて聞いた。
アントーニョはそれスルー。
そのまま聖星への道を進む。
女子校らしい綺麗な校舎が目に入ってきたところで、ふとロヴィーノが気付いて言った。
「トーニョ、彼女いなくなってるぜ?」
その声に振り返ると、確かにアリスが消えている。
「…やっぱり学校関係にバレるのは嫌なんやな。
理性あるあたりが電波というより確信犯のなりきりかもしれへんな」
アントーニョは少し考え込んだ。
学校にバレるのが怖いと思っているなら、対処する事はできそうだ。
フランに関しては…もう熱が冷めるまで待つしかないだろうが、ロヴィーノにはちょっかいだすなら学校に言う…で、なんとかならないだろうか。
とすると…学校に言うという手は切り札として取っておいた方がいい。
相手がそれで処分されるなりなんなりして自棄になったらことだ。
アントーニョは念のため辺りを見回してアリスがいない事を確認すると踵を返す。
「今日は家まで送って行くから。
今度あいつが現れたら親分に電話し。電話で交渉したるから」
「交渉?」
「ああ。ロヴィにちょっかいかけるなら学校に言うでってことで。それでロヴィへの攻撃はやむと思うわ。
でも万が一相手が逆上した場合に矛先がロヴィに向くと危ないから、必ず親分を通しや?」
アントーニョの言葉に、ロヴィーノは今回は珍しく素直に
「さんきゅ。そうする」
とうなづいた。
ロヴィーノに被害が及んで来るとしたら、さすがに静観もできない。
アントーニョはギルベルトに連絡を取る。
『あ~…まあ今回は仕方ねえよな…。
普通にオンゲーでキャラ助けたくらいでこうなるとは思わねえし』
とりあえずの事情をアントーニョに説明後そう言うギルベルトに、アントーニョはムッとして言う。
「ギルちゃん、甘いわ。あのアホの髭全部引っこ抜いたらな親分気がすまへんわっ!」
遊んでたのが原因でロヴィーノまで巻き込んだらもう弁解の余地なしとアントーニョは主張するが、ギルベルトはそれに苦笑で応えた。
『ま、ちょうど流星祭で一般人の出入りもできるし、明日聖星行って真偽を確かめようぜ?
エリザに連絡取って案内させるから』
「ああ。ほなそれで頼むわ。
あーちゃんもめちゃ心配して休日やっていうのにデートもでけへんし」
『ん。じゃ、待ち合わせその他はメールするな?』
と、切れる電話。
こうして結局全員が事件の渦中の人となる事を、この時は二人共まだ知る由もなかった。
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