コードネーム普憫!腐女子から天使を奪還できるか?!1章_3

月曜日…学校が教師の研修のため午前授業だったので、早く帰れた午後…

良い人だったなぁ…姉の変態仲間の手先だなんて思って本当に失礼だった…と思いながら、アーサーは庭先で手塩にかけて育てた花を摘んでいる。

桜に頼んでアポイントを取ってもらったので、これからギルベルトのいる姉の大学に改めてお詫びに行くつもりなのだ。

しかしお詫びに行こうにも手ぶらではなんだしと思うが、とにかく財布を全て姉に握られているので現金がない。

だからせめて綺麗に咲いた花でも……そう思って、それは親が残して行ってアーサーが世話をしている薔薇で花束を作っている。

幸い手芸が趣味なのでリボンはたくさんあるし、可愛らしい花束になって思わず笑みがこぼれた。


女性ではないので花を喜んでもらえるかどうかというのはまた別問題だが、好みがわからない相手に対して失礼がなく無難なのは、消えモノの花や菓子などだろうというくらいの知識はあるので、まあ良いか…とは思う。

もちろん丹精込めて育てている薔薇達なので、喜んでもらえれば嬉しいのは確かなのだが……


約束の時間は午後3時。
私服も姉に管理されていて、男子高校生としては非常に微妙に思えるものしかないので、一瞬制服で行く事も考えたが、大学構内では中性的な格好よりも制服の方が悪目立ちをする気がしないでもないので、諦めて私服で行く事にした。


姉の大学はアーサーの高校の通り道なので定期で行けるのは幸いだ。
そうでなければ相手にわざわざ近くまで来てもらわなければならない。

同級生達は飲み物から食事、おやつまで全部美人の姉が作っていると言う事で羨ましがるが、全てが相手の管理下にある不自由さを考えれば、日々カップラーメンでも1人暮らしの方がマシなのではないだろうか…とアーサーは思う。

学校外で会うような友人はいないので普段は気にならないが、こうやって学校と自宅の往復以外でどこか行く場合に全く現金がないのはどこか心細い。

そんな事を思いながら、初めて姉の大学の門をくぐる。
と言っても門を入ってすぐ側で立っているだけだが…。

待ち合せの時間にはまだ間があるので、若干手持無沙汰だな…と思いつつ後ろ手に花を持って立っているが、なんだか注目を浴びているようで落ちつかない。

やっぱり何か変なのだろうか…。
私服でこんな人ごみをうろつく事などあまりないので心細い。

ギルベルトが来るまで大学の門の外で隠れていようか…と思っていると、

――君、1年生?
と、いきなり2人組の男子学生に声をかけて来られてびっくりして顔をあげた。

「…いえ…あの…高校生…で……」
と、小さく口ごもると、
「まじ~?!かっわいいなぁ~。
お兄さん達とお茶しない?!」
と、1人がいきなりなれなれしく肩を抱いてきたので、驚きのあまり硬直した。

え?ええ??

そのまま連れて行かれそうになって
「…待ち合わせ……してるからっ……」
と、慌てて首を横に振るが、

「大丈夫大丈夫っ!」
と、何が大丈夫なのかわからないがそう言われて、もう一人にも背中を押される。

お世辞にも社交的とは言えないどころか、人見知りで友人もロクにいないアーサーは知らない人間はどうも苦手だ…

こういう時にどう反応して良いかもわからない。

戸惑っている間に半ば引きずられるように待ち合わせ場所から離れかけて、どうしよう…と、もうパニックになって泣きだしそうになったその時……

「大丈夫じゃねえよ。俺様の連れ誘拐すんなよ」
と、聞き覚えのある声。

そして肩を抱いていた手が離れてその代わりに別の…どこか安心するような大きな手が肩に触れてグイッと引き寄せられた。

ぽすん!と、硬い胸板に吸い込まれると、なんだかホッとしすぎて涙が出て来た。

「…もう少し早く来れば良かったな。ごめんな?」
と、すっぽりと外界から守るように包まれている腕の中を覗き込んでくる紅い瞳。
困ったように眉尻をさげてそう言うギルベルトにアーサーは思わずぎゅっとしがみついた。

「あ…じゃあ、またね~…」
と、男子学生達が気まずそうに言って遠のいていく気配がする。

そうして相手が離れて行くのを確認すると、はぁ~と頭上でため息が聞こえた。

「ほんっと悪い。
あれだよな。お前んとこの姉弟って、フランソワーズも美人だけど、アルトも可愛いからな。放置してたらそりゃあ男寄ってくるよな…」

場所を変えよう…と、そのまま人気の少ないあたりのベンチへと場所を移した。





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