女性ジャスティス控室…別名【乙女ジャーナル編集部】
そこはブルーアース内で働く多数の女性達の憩いの場である。
と、出動要請がかからない時はほぼ編集室に籠っているエリザが、部屋の一角に設けた休憩スペースでおにぎりを頬張る女性に声をかけた。
彼女は日和。
名前のように陽だまりのような雰囲気のおっとりちょいぽちゃ女子である。
だいたいは出身地を出たがらない人間の多い極東出身者の中で、食べる事が好きすぎて、全基地の中で一番ご飯が美味しいと評判の本部勤務をわざわざ希望したという若干変わった女性だ。
だが、そんな少しばかり他とは違う経緯を経て配属された本部勤務の中でも彼女は飽くまでマイペース。
不思議ちゃん…と呼べなくはないが、その人柄で多くの部員達に親しまれている。
彼女が作る料理はほっこり優しい味がすると、マンマ、マム、母さん…などなど、まあ呼び方はどうでも良いが、家庭の味が恋しくなった部員達に大人気の売れっ子料理人だ。
ただ…まあ料理はとにかくとして、推しを観察する時に何故か推しをオカズにご飯を食べだす事が多いので、周りからみるとやっぱりちょっと不思議ちゃんなのである。
今も自身が食堂のカウンター内からご飯を食べながら器用に隠し撮りした写真をPCで編集しながら、おかかのおにぎりをモグモグやっている。
このおかかも彼女特製のみりんや砂糖で味付けした人気のレシピで、極東から転属してきたフリーダムの部員達の現場作業の際に欠かせないと言われている逸品だ。
「あ~…このおかかのおにぎり…この前に一緒に現場でたフリーダムの子が食べてたわ。
早く行かないとすぐ無くなっちゃう至高のおにぎりだって言ってた」
今日は珍しく他に誰もいなかった事もあって、エリザが覗きに来ると、日和が
「あ~、エリザさんも宜しければ召し上がります?
極東のお母さんの味です」
と、フリーダム部員用の物よりは若干小さく握ったおにぎりの乗った竹の皮を差し出してきたので、
「ありがとう!せっかくだから頂くわ」
と、エリザもそれを一つもらって齧りながら、日和のPCを覗き込んだ。
データフォルダの中には何枚もの写真。
今現在乙女ジャーナルではルーフェリ&ギルアサが熱いわけなのだが、その写真の中にはなんと【アーサーの口にスプーンでアイスをあ~んするフェリシアーノと、それを微笑ましく見守るバイルシュミット兄弟】などと、最強の組み合わせまであったりする。
「…っ…わいい………」
くぅ~~!!!と拳を握りしめて悶えるエリザにニコニコと作業を続ける日和。
「食堂はですね、意外に色々が見えるところなんですよぉ」
と、おっとりと口を開く。
「ほら、このあたりの写真見て下さい」
と、何故か『翌朝』と名付けられたフォルダを開くと出てくる写真。
【ギルの服の裾をちょこんと摘まんで後ろをひょこひょこついていく、おねむ(半分以上寝てる)なアーサー】
【おねむで舟をこいでいるアーサーにあーんしてご飯を食べさせるギル】
【おねむらしくどうやらギルに抱っこを強請って手を伸ばしているアーサー】
【抱っこされて無意識でだいしゅきホールドでギルにつかまるアーサー】
など、全て眠そうなアーサーとその面倒を見ているギルベルトの図だ。
「これってねぇ…必ず前日の夕方以降に出撃がなくて、さらにお二人とも夕食を食堂で摂らない…さらに言うなら、休みの日の朝ご飯にしては少し遅い時間なんですよねぇ…」
まるで天気の話でもするように、おだやかにま~ったりした口調で語る日和。
しかしその内容に、ぶほっ!!と、エリザは危うく米を吹きだすところだった。
「前日の夜…きっと翌朝疲れきって眠気が取れないような事があったんでしょうねぇ…」
そう言いながら日和は美味しそうにおにぎりをぱくり、ぱくりと口にしていく。
――日和……恐ろしい子っっ!!
エリザは白目を剥いた……
きっとこれを撮った当日も、こんな風にまったりおっとりおにぎりを頬張っていたのであろう彼女が、そんな目で自分達を見ていたとは、さすがにギルもアーサーも気づかなかったに違いない。
「食欲と性欲ってねぇ…同じって言うじゃないですか。
なんか分かる気がするんですよ~」
さらに続く言葉。
なんだかすごい発言な気がするのだが、声音は相変わらず陽だまりだから恐ろしい。
「ルートさんとね、ギルベルトさんてね、御兄弟でどちらも色々最善を尽くそうとする方なんですが…あ、最善を尽くすのはパートナーさんのお食事の件ですよ?
私は夜の事情までは覗けないので…」
…はい、それはもうわかってます……と、エリザは頭を垂れて拝聴する。
「ルートさんの全力の尽くし方は、網羅するって感じなんですよぉ。
とある日にね、フェリシアーノさんにスイーツを差し入れたいと言われた事がありまして……」
『すまないが…ここにある菓子を全部一通りテイクアウト用に包んでもらえないだろうか』
『はあ…全部…ですか?』
『あいつの好みがわからないので、全部贈ればどれかは好みにあうだろうと思ってな…』
『はあ……』
『あ、いや、残りもきちんと俺が責任を持って食うぞ?
無駄にしたりはしないので安心して欲しい』
『いえ、無理はなさらないで下さいね?
食べきれないようなら女性ジャスティスの控室が基地内の女性のたまり場になっているので、そちらに届けて頂ければ誰かしらが召し上がると思いますので』
『そうなのかっ!ありがたい情報、感謝する』
「…なんてやりとりであのムキムキの腕ですさまじく大きな箱に詰めたスイーツ持ち帰られたんです」
「あー、もしかして3日前ね。
ルートがあたし達に差し入れなんて珍しいから何かと思ったわ」
「ですです。
わからないから網羅…というのがルートさんで、ギルベルトさんの場合……」
『あ~、日和、悪いけどな、紅茶で何品かデザート作ってくれねえか?』
『はあ、構いませんが…レシピあります?』
『おうっ!桜から仕入れて来たレシピがこれ。
んで、南アジア支部から取り寄せた最高級茶葉がこれな』
『なんと!茶葉まで用意されたんですかぁ…』
『おうよ。それだけじゃねえぜ?
砂糖も卵もその他素材全部、世界各地から取り寄せたからっ!
あとはあれだ、極東にいて極東風の好みにも通じた料理人だけってわけだ』
『あー、同じレシピでも若干料理人の癖が出る事ありますしねぇ』
『だろっ?!色々調べて検討したんだけどよ、タマは極東出身だから極東出身の調理人が一番好みにあったモン作れるんじゃねえかと思ってな』
『了解しました。アーサーさんの口に一番あうスイーツを作って見せます』
『おう、頼んだっ!』
「…と言う事がありまして…。
あの方は情報をとにかく集めて精度をあげた上で最高のものをピンポイントでという主義みたいなんですよね…だから…」
「だから?」
「夜もそうかなと思いまして…」
ぶほっ!!!!
…エリザ…本日二度目の吹きだし案件である。
「やっぱあれですよねぇ…。
ルートさんの場合、どこが良いのかとか頭のてっぺんからつま先まで一通り全部愛撫して確かめるけど、一つ一つに対しては淡泊で一通り手順を決めたらそれを毎回きっちり守り続けそうですけど、ギルベルトさんの場合、一般的に感じやすいと言われている場所から順番にピンポイントでその性感帯を相手が極めるまで執拗に開発し続けて、そこを開発し終わったら次とか、ねちっこく深く延々と探求し続けそうなイメージですよねぇ」
これをにこにことおにぎりをほおばりながら話すのだ。
アレだ…日和ちゃんもおっとりしているようでいて、やっぱり極東女子だわ……
エリザは手を合わせたい気分になってきた。
昔々…極東には腐女子の聖地と言われる場所があり、そこには神々の造りし物があふれていたと言う…。
極東の人々はその神々の子孫だ…穏やかに見えても凡人とは違うのかもしれない…
そんな事を考えながら、日和が日々食堂で見続けてきた光景とその講釈をありがたく拝聴するエリザだった。
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